板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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SMU 第133号「アイデアと経営」

部屋の掃除の際、いつも本棚においてある「社長失格」が、目に留まりました。

現在でも相変わらず文章が下手ですが、今から6年も前に書いた文章がどんなであったか・・・という当時の自分の文章に興味を持って、「社長失格」を手に取りました。最初のページを読んでみたら、止まらなくなって、掃除忘れて読み続けてしまいました。

自分自身について自分で書いた文章を、6年も経ってから読み返すのって妙ですね。
この本、「ぐいぐい引き込まれる内容」ですね(笑)・・・そう言われる読者が多いのです。

数十分経った頃でしょうか、IMS事業が軌道に乗り始めるところまで来て、読み進めることができなくなりました。懐かしさからでしょうか、フラッシュバックが涙を誘いました。当時の面々が浮かび、会話が蘇り、愚かでしかし情熱に溢れたあの頃の自分が懐かしく、どうにもならない人生の時間への悟りが、涙に変わったのでしょう。
しばらく、何も手につきませんでした。

今、僕は失敗を繰り返さないように「うまくやろう」という意識が、強く行動の源泉にあります。だから「とにかく何かを掴もう」としていた当時の自分が、うらやましいわけです。自分の欠点も、組織社会の常識も、何も知らなかったあの頃は、ある意味幸せでした。

「やれるところまで、やってみよう」という思いは、すなわち経営者として失格であり、一人の若者としては、清々しい振る舞いでした。

僕に限らず、恐らく大部分の人は、「すばらしい『商品としての』アイデア」(と、少なくとも本人が認識しているアイデア)を思いつくと、経営はそれにすがる傾向があります。よって、そのアイデアをお金に換えるための事業を遂行する際、すざんな経営になりがちです。

一方、「すばらしい『事業戦略としての』アイデア」が思いつけば、それ自体が一つの経営手法となりますから、経営に没頭できます。よって、商品がどこにでも転がっているようないわゆるコモディティーであればあるほど、経営力によって、それを克服しようとします。

ベンチャーがスタートアップする際、恐らく殆どの方が上記前者の「すばらしい商品アイデア」を探そうとするわけですが、現在のたとえばIT分野の成功者を見回してみればわかるように、どれもこれも商品としてのすばらしさなんてものは、見当たりません。ISPにしても、ECサイトにしても、セキュリティーサービスにしても、広告システムにしても、コミュニティーサイトにしても、ケータイのサービスにしても、長年この分野に関わってきた僕にとっては、「いつかどこかで見た商品」に過ぎません。

違いがあるとすれば、技術とインフラの成長によって、当時と同じ商品を提供する手段が多少違っているだけに思えます。しかし、扱う商品がコモディティーであるからこそ、その成功には、経営力が不可欠だったわけです。

言い換えれば、扱う商品が何であれ、ある一定の価値を持っている以上、経営力によって成功に導くことができるといえます。

商品から見れば・・・
ソフトバンクが今やっていることは、単なる電話サービスとISPです。
NTTDoCoMoのi-モードは、ダイヤルQ2のケータイ版に過ぎません。

でも、彼らは、それまでの企業を出し抜き、キャッシュを生み出しています。
つまり、事業としての成功を考えるとき、必要なことは、どんな商品であっても、それを現金に換えることができる経営力というわけです。

僕の経営は、明らかに自分が生み出した商品としてのアイデアにすがっていました。
なんだか「ウサギと亀」みたいな話しですが、まあ言ってみれば、それが失敗の根源です。

何か特別なモノを持っている・・・ということは、一見、優位に立てる要素のように思われますが、それが音楽や芸術の分野ではなく、事業であった場合、特別なモノを持っていることは、以上の理由から、無条件に優位性とはならないと思うわけです。

何も特別なモノを持っていないからこそ、「やり方」を工夫する。

やはり、「特別なモノ」を持っていないことこそが、「特別なやり方」を生み出す根源ではないかと思う次第です。

2004年11月10日 板倉雄一郎





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