板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  スタートミーアップ  > SMU 第82号「捕らぬ狸の皮算用」

SMU 第82号「捕らぬ狸の皮算用」

スタッフ募集、当初の予定以上の方に応募いただき、感謝です。
それも、かなり優秀な方ばかりで、ありがたいです。
何が驚いたって、反応が、早いですね。

僕は、なんだかんだとコンピュータを触り始めて22年になります。
ゲーム「スタートレック」(きゃぁ?懐かしい)をやりたいがために、「パソコンをもっていると成績が良くなる」などと親をだましてパソコンを手に入れ、雑誌のベーシックプログラムを必死で打ち込んだのが最初でした。
その後「これは銭になる」などと思い始め、高校在学中から「統計ソフト」なるものを勝手に作って近所のパソコンショップ(当時は、確かNECの「ビットショップ」とか言ったかなぁ)で委託販売なぞをしておりました。その辺からですねぇ、道を踏み外したのは(笑)。
そして程なくゲームソフト会社を起業し、Apple II、そしてMacintoshに出会い、さらに同じ頃「パソコン通信」なるものにはまりだしたというわけです。米Compuserve(後にAOLに買収されます)の会員になり、今からお思えば、とんでもなく高額の通信料を払いながら、これまた今から思えばとんでもなく遅い通信速度で楽しんでいました。そうそう僕はNifty-Serveのオープン時から会員でしたよ。(だから、どうしたって話しですが)その後のことは「社長失格」に詳しく書いてあります。
22年経ってみたら、現在の収入のほぼすべては、WEBを通じての受注ですし、株式投資についてもこれまたパソコンと通信だけでやってるわけですよね。
22年前、思い描いていた事が現実になってるんですね。パソコン少年でよかったと今更思う次第です。

それでは、月曜日のエッセイです。

「捕らぬ狸の皮算用」ということわざがあります。
確かに、手元にない狸の皮を数えたところで、全く意味がないですよね。
ところが、株式投資とは、まさにこのことわざそのものなのです。
細かく分解しますね。
まず、企業価値評価(の方法は人それぞれですが)をしている最中は、仮に「こりゃいいぞ!」という企業を見つけたとしても、「捕らぬ狸」の皮算用です。
そもそも企業の時価総額の根拠の大部分は、当該企業の「将来の業績」に依存するわけですから、株価そのものが「捕らぬ狸」の皮算用であるといっても過言ではありません。
で、適当なタイミング(最も効率的なのは、当該企業の「一時的」な悪いニュースによって、株価が下落したとき)で当該企業への投資を実行します。
この段階では、「捕らぬ狸」から、「まだ捕っていない(=取る予定の)狸」に変身します。
ちょうど、狸を捕るための「仕掛け」をしたところといった感じでしょうか。
しかしながら、「捕っていない狸」には変わりありませんし、取れなかった場合の仕掛け代のリスクが新たに発生します。
手元の現金が、等価で当該企業の株式に変わっただけですからね。
その後、予定通り当該企業の株価が上昇したとします。
画面上の「損益」はプラスになっていますが、利益確定していませんから、この段階では「捕れる狸」の皮算用です。
今まさに、仕掛けの糸を引けば、狸がまんまと手に入るわけですね。
ところが、なかなかそれができません。
同じ仕掛けで、もっと多くの狸が入ってくるのではないかと、思ってしまうからです。
そもそも最初は、「一匹でも捕りたい」と考えて、一匹だけでも十分に儲かるほどのリスクで仕掛けをしたはずなのに、一匹入ってくると、「一匹入るのだから、もう一匹入るのではないだろうか」などと、当初のリターン以上の収穫を求めるばかりではなく、まったく合理性のない見通しが人を支配します。
で、せっかく「捕れる狸」が居るというのに、糸を引かないわけです。
また逆に、「捕れそうな狸」の場合もあります。
仕掛けに狸の半分だけが入り込んでいるような状態でしょうか。
この場合、不思議と「いま糸を引けば、こいつを捕まえることができるかもしれない」と思ってしまうわけです。
ここで重要なのは、「取れる狸」の場合と「取れそうな狸」の場合と、その状態の違いはあっても、元々仕掛けをしたときの見込みには違いがない(=同じ人が同じリスクの元)のにもかかわらず、目の前の状態の違いによって、人はコロコロとそのリターンの見込みを変えてしまうということです。
一匹が「捕れる狸」になれば、もう一匹欲しくなり、糸を引く決断ができず、また一方で「捕れそうな狸」の場合には、その一匹が取れる可能性が1/2でも糸を引こうとします。
結果、多くの場合(「マーフィーの法則」ではありませんが)、「取れる狸」も「取れそうな狸」も逃してしまうわけですね。
なぜ、こんなことになってしまうのでしょうか?
答えは簡単です。(答えは簡単ですが、実行は結構難しい)
それは、仕掛けを入れるときに、リターン(=どのくらいの時間で、何匹取れればよい)というゴールの設定をしていないから、というのが最も基本的なミス。次に、ゴールの設定をしていても、状態の変化によってオプションを新たに作ってしまうからなのです。
ゴール設定のない投資なら、論外ですが、オプションの場合はもっと複雑です。
オプションそれ自体は、経済学的にも価値があります。実際、ある経済学者がオプションの価値そのものの算出方法で、ノーベル経済学賞もらったぐらいですからね。
しかしながら、オプションを考え始めると、オプションのオプションが生まれ、そのまた先の・・・・となって、最後には「捕らぬ狸の皮算用」に逆戻りしてしまうわけですよ。
実際、上記のノーベル賞学者が始めたLTCM(Long Term Capital Management)は破綻してしまいました。

昔の日本人はいいことを言いました。「初心忘れるべからず」
僕も、これを書きながら、「そうだなぁ」などと思ったりしております。

2004年7月5日 板倉雄一郎

今日の数字占い 3302 , 4680




 


エッセイカテゴリ

スタートミーアップインデックス