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SMU 第132号「生と死」

昨日(11月7日の日曜日)も、これまたセミナーでした。当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ」セミナー東京第1グループ第3回目の今回は、『過去の業績分析』ということになりますが、まずは分析の方法をマスターして、そして個別企業の過去の業績を当該企業のWEBからダウンロードしたB/S、P/L、C/Fから割り出すわけです。

実は3回目は、最も簡単な回なのですが、とても重要な業績指標であるところの、ROIC、WACC、SPREAD、IC、EVAなどの経年変化を追うわけです。

企業の会計上の姿かたちより、より経済実態が数字で把握できるというわけで、意外な企業が意外な高収益体質だったり、調子のよさそうな(たとえば増収増益)企業のROICが意外と低かったりと、個別企業の分析に入ると、面白さ倍増です。

一見、変な話ですが、このセミナーを受けると、「投資対象が減る」という結果を受講生にもたらします。実は全く変な話ではなく、企業の経済実態を把握するすべを学ぶということは、会計情報にダマされなくなるということであって、アホな投資をする前から防げるというわけです。ほほほ。

ところで、先週は「生と死」について、考える機会がいくつかありました。

愛犬の癌の再発・・・彼らとの向き合い方を考える機会を得ました。自分より先に逝ってしまうことが決まっている生物を愛することは、「自分の老後の世話をしてもらおう」などといったヘッジとしてではなく、「今、癒してもらっている」事に感謝しながら、彼らのハッピーを追及する純粋な愛情ではないかと、つくづく思います。

映画「ディープ・インパクト」のTV放映・・・「スターウォーズ」のように思いっきり劇画と割り切っているわけでも、「アポロ13」のように自然科学と実話を可能な限り忠実に描いたものでもなく、中途半端な作品ですが、「そのとき、あなたはどうしますか?」を考える機会を得るには充分な内容です。

この映画自体を楽しむということより、この映画をキッカケに考えを巡らせるというわけです。作品自体は、ど~でもいい作品です。

イラクで幸田さんが斬首されるビデオ(動画)・・・正直、見るべきか、忘れるべきか、ワンクリックするだけのことをずいぶん悩みました。しかし、現実に向き合うことから逃れたくないという思いがクリックを誘いました。

我々は、牛や豚など多くの動物を、殺して食べるためだけに飼育しています。お店に並んだそれらに、我々は残酷さの欠片も普段は感じません。しかし、我々一般人が見ようとしない、見たくない行為(つまり動物を殺して解体する)の結果に過ぎません。

我々は、どんどん、現実から遠ざかってきているように感じます。

しかし、目を背ければ、それで解決できることではないはずです。現実を現実として受け入れることは、社会と自分を知るための基礎だと考えます。「幸田さんは、周囲の反対を押し切り、自分で行ったのだから自業自得だ」とか「動物は、ちゃんと食べるんだから、仕方無い。」と解決することができる人を否定しませんが、そこで起きた現実を見た上で、心からそう言えますか? 人は、なかなか死なないようで、しかし、死ぬときは一瞬です。

僕の倒産に関するインタビューで、よくこんなことを聞かれます。

「倒産したときの心情は、どんなものでしたか?」こんな質問、的外れだと思っています。倒産したときは、終わったときですから、苦しくもなく、残念でもなく、実は開放された気持ちでした。苦しかったのは、それまでの倒産に向かう過程です。肉体の死と倒産を一緒に考えるつもりは毛頭ありませんが、死に行く過程を想像することは、ある程度できます。

処刑のシーンそのものより、それまでの彼の苦しさ、恐怖、無力感を想像してしまうことが、行き場の無い苦しさとして今も胸の重石になっています。ご冥福をお祈りいたします。

以上にくわえ、地震、台風など自然災害、交通事故、疾病などなど、死ぬ機会は、じわじわやってくることもありますし、突然襲ってくることもあります。我々の生は、とても微妙なバランスの上に、危うく成り立っています。明日死んでも残念ではあるが、後悔はしない・・・そんな状態に常に自分を置いておきたいものです。それができれば、死に行くときに、覚悟ができるというものです。

少し重くなりましたが、前号(SMU第131号「投下資本利益率」)の一部修正です。「ROIC以上の利回りを誰も得られない」と書いてしまいましたが、これは当該企業のステークホルダーを、経営者、金融機関など、大きく分類したときに言えることですね。

実際には、資金コストの低い有利子負債を増やせ(=自己資本比率を低下させ)れば、その分レバレッジが効き、株主に対するリターンは増大します。よって、レバレッジ次第では、ROIC以上の利回りを得られるステークホルダーの可能性は否定できません。ただし、すべてのステークホルダーの利回りは、ROICを起源としていますので、ROICの重要性は変わりありません。 今日は、こんなところで。

2004年11月8日 板倉雄一郎





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