板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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SMU 第168号「β(ベータ)」

既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナー募集を開始しました。詳しい内容は、案内ページをご参照ください。

しつこくセールストークをしても仕方ないので、一言だけ。

「騙されたと思って(笑)参加してみてください。」よろしくです。

今週末(2005年1月23日の日曜日)には、セミナー卒業生と当事務所パートナーによる、新年会を開催予定なのですが、僕の都合で、船橋での開催となっているのです。

にもかかわらず。今回は、25名ほどの参加希望を頂いております。(中には、名古屋から駆けつけてくれた、合宿セミナー卒業生も居られます)

この状況は、セミナーバリューを如実に示しているのではないか・・などと、パートナー一同、大変喜んでいる次第です。

ホント僕は、幸せ者です!

尚、本年末には、忘年会の余興(?)として、セミナー卒業生による「バリュエーション大会!」を開催予定です。今から非常に楽しみですが、まずはセミナーに是非参加してみてください。

それでは、本題「β(ベータ)」です。

CAPM(Capital Asset Pricing Model/資本資産評価モデル)をご存知の方は、企業のWACC(加重平均資本コスト)の因数である株式機会費用の算出式が以下であることをご存知かと思います。

(ご存知で無い方でも、セミナーに出ていただければ、バッチリ分かります(しつこく宣伝かぁ~笑))

 株式機会費用 = rf + [ E ( rm ) -rf ]*βj
 株式機会費用 =リスクフリーレート+マーケットリスクプレミアム×β

 企業価値を測定する際「将来キャッシュフロー」と、その「割引率」が大きなインパクトを持つことは、バリュエーションを続けているうちに気付きますよね。

「割引率」をチョイといじっただけで、企業価値は大きく変化しますし、その因数である将来キャッシュフローの予測も、その「成長率」をチョイといじっただけで、これまた大きく変化します。

今回は、そのインパクトのでかい割引率=WACCの算出における、一つの因数である「株式機会費用」のさらに因数である「ヒストリカルβ」について、考えてみたいと思います。

「β値」を大雑把に表現すれば、

β値が1のときには、マーケット平均と同じ価格変動リスクとなり、
β値が1を下回れば、マーケット平均より価格変動リスクが少くなり、
β値が1を上回れば、マーケット平均より価格変動リスクが大きなる。

というわけです。

セミナーにて取り上げた個別企業「吉野家D&C」のβ値は、ある投資銀行の発表では、「0.61」だそうです。

(注:“だそうです”という表現は、僕自身が、βを入手していませんし、セミナーでは講義するものの、僕の投資活動では利用していないからです。詳しくは、SMU第103号「資本コストと割引率」をご参照ください)

しかし、吉野家のチャートを見れば、誰でも気がつくように、2003年末の米国産牛肉輸入禁止のニュース以降、明らかにその価格変動リスクは高くなっています。

特に出来高の変化に注目してください。だれでも「見た目」だけで即座にわかります。つまり、2003年末から、吉野家のβは実質高くなっているわけです。

ところが、今日現在のヒストリカルβは、「0.61」というわけです。

なぜか・・・これは、ヒストリカルβの算出方法に原因があります。ヒストリカルβの算出方法(今回は、詳細に書くことは割愛いたします)は、ある一定期間(例えば、直近から数年とか)の過去の価格変動履歴を因数として算出します。

株価チャートにおける「25日移動平均」などと同じように、計算対象の期間は移動するわけです。その結果、吉野家のように「ある日突然、その性質が変化した企業」の場合、その事象が起こった後にもかかわらず、ヒストリカルβの算出期間の関係で、因数の多くは「突然起こった事象以降のデータ」はほとんど反映されず、多くは「その事象の前のデータ」に依存してしまいます。

(まあ、時間とともに、いずれは反映されるというわけですが)よって、「ヒストリカル」である以上、突然の変化には対応できないというわけです。

(ひとつの意見として「だから、意味があるんだ、長年の変化傾向こそ重要であって、足元だけに頼っては間違う」というのもあろうかと思いますが、これに対する反論は割愛いたします)よって、僕個人としては、先にご紹介したSMU第103号のように、そもそもCAPMを無視した手法をとっているわけです。

ウォーレン・バフェット氏は、「会長からの手紙」の中で、βとそれの信奉者についてこう表現しています。

「彼らはデータベースや統計学の知識を駆使して、株式の過去の相対的なボラティリティーを示す「β」値を正確にはじき出し、その結果を基に不可解なる投資理論や資本配分理論を打ちたっています。しかし、リスク算定のために単一の統計にこだわるあまり、彼らは基本原則を忘れてしまっています。それは、絶対的に間違えるよりは、およそ正しい方がよい、ということです。」
バフェットからの手紙」より


また、この様にも表現しています。

「βは、株価が高いときより、大巾に株価が下がったときのほうが、リスクが高いといっているようなものです。」

お金ってのは、至極単純な仕組みで動いているものです。

今日は、こんなところで。

ちなみに、セミナーでは、「ヒストリカルβ」の算出方法についても講義しますし、また以上のように「それに頼りきってはいけない理由」についても、同時に講義していますので、念のため。

2005年1月19日 板倉雄一郎





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