板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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SMU 第68号「裁定取引」

「裁定取引」という言葉そのものは見聞きするけど、具体的な内容はちょっと・・・という方結構多いのではないでしょうか?

確かに普段の生活にはあまり関係ないように思いますよね。でも、それは大きな間違いですよ。普段の生活の中に、あなたの購買行動の中にそれは十分に染み付いているのです。

今日は、その具体的な事例をご紹介しましょう。 裁定取引を僕の独断により勝手に要約すると以下のようになります。「同じ価値の取引が、同じ(隣接した)時間に、異なった場所で、異なった価格で取引されていることを利用した取引」となります。チョットわけわからんですよね。まずは、裁定取引ではなく、「裁定が働く」という現象を身近なところで見てみましょう。

あるスーパーマーケットでは、にんじん3本パックが300円(すいません、にんじんの値ごろがわからないもので、これで許してください)で売られていて、同じ日に別のスーパーで同様のにんじん3本パックが320円で売られていたとします。

両スーパーは、同地区に居住する人たちが、ほぼ同様の旅程でたどり着ける場所にあって、そのほかの付加価値に違いがないとすれば、同日のうちに、もしくは数日のうちに、両社の値段はほぼ同じ値段に近づきますよね。

これが、裁定が働くという現象のもっとも身近な例です。最近では家電量販店などで「他の店より1円でも高ければ、云々」というコピーを目にすることがあると思いますが、これも広義で裁定が働いているというわけです。特に家電製品の場合、その個体差がほとんどありませんから、裁定が働きやすいというわけです。

株式や債券などでは、その現物と先物(将来の値段の取引)の間で裁定が働きます。先物にはその期限というのがあって、期限が十分に遠い将来の場合、現物と先物の間には大きな開きがあります。「今は株価が高いけど、将来は低くなるだろう」と思う人が多ければ、先物の価格は下がっています。しかし期限が近づくにつれて、両社の価格は近寄ってくるわけですね。これが市場での裁定が働くということです。裁定取引とは、この両社の差を利用して儲けることを言うわけです。

SMU 第64号「企業価値評価シリーズ始動」でちょっとだけ触れた「短期取引で絶対に儲かる方法」というのはこの裁定取引のことです。具体的な裁定取引の手法を簡単に説明すると、同じ価値の取引価格が高い方を「空売り」し、低い方を「買い」、両者の値段が、裁定が働くことによって近づいたところで、反対売買(空売りの返済買いと買った方の売り)をするわけです。

こうすることによって、高い方が安い方に近づいても、安い方が高い方に近づいても、はたまた両者の価格が(低い方を下回って)下落して近づいても、両者の価格が(高い方を上回って)上昇して近づいても、利益を確定することができるわけです。紙に書いて試してみるとよくわかるはずですよ。

裁定が働くのは、先物と現物の間だけに限ったことではありません。最近の具体例としては、ゲームソフトやアミューズメント施設を運営する「セガ」とパチンコ機器メーカーの「サミー」の合併で説明できます。

2004年5月18日に、セガとサミーの合併のニュースが流れました。この発表の瞬間、セガとサミーの価値は、ある比率によって「同一のもの」となったわけです。どちらかの株式を持っている人や、ここぞとばかり裁定取引で儲けようとした人たちは、先を争って両者のWEBを見に行ったことでしょう。

そこで発表されていた合併比率に関する内容は、以下のとおりです。

「10月1日付で持ち株会社『セガサミー・ホールディングス』を設立し、経営統合すると発表。持ち株会社設立に伴い、サミーの普通株式1株に対し持ち株会社株式1株、セガの普通株式1株に対し持ち株会社株式0.28株を割り当てる。」

ここで重要なのは、両者の合併比率ということになります。上記の内容を簡単に説明すると、セガの株価はサミーの株価に対して0.28なっていなければならないということですね。発表当日の株価は、サミーに対してセガの株価が0.28を下回っていました。当然裁定「サヤ寄せ」が一気に始まるわけです。(僕も電卓をはたいて、すぐさまセガの買いとサミーの空売りに走りましたが、残念ながら、そんなこと考える人は大勢いますから、約定できませんでした)

実際に、両者の株価を比較してみてください。以上のような価格近辺で常に裁定が働いているのがお分かりいただけると思います。(Yahoo! Financeの株価比較チャートでよくわかります。)

ただし、ぴったり0.28にはなりませんよね。理由は、株価の単位(株式数の売買単位ではありませんよ、株価の単位です)が無限に小さくないわけですから、誤差が出るというわけです。まあそのほかにもさまざまな理由(転換社債やストックオプションなど潜在株の影響)がありますが、ここでは割愛します。

その中で最もおばかさんな取引は、以上のニュースと裁定の根本的な理屈を知らないで「あら私、セガのゲームが好きだから、買ってみようかな・・・あっ買えた」などと、裁定による理論価格以上で買ってしまうことです。

後で気が付いても手遅れです。もう誰も買った値段以上では買ってくれませんからね。(両者の株価が上昇していれば、そのうち売れますけど) ここまで説明しておいてなんですが、裁定取引は、以上のように「絶対に儲かる取引」なのですが、当たり前といえば当たり前ですが、そもそも同じ価値の取引価格に大きな開きなどあることがおかしいわけですから、差があっても、小さな差であり、その差が裁定されるまでの時間もまた小さいわけです。ですから、よほど大きな金額で挑まない限り、手数料の方が利益より大きかったりするわけです。ただ知らないより知っていた方がいいですよね。おしまい。

2004年6月16日 板倉雄一郎





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