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SMU 第65号「会計の摩訶不思議」

2004年6月15日付け(これを書いている当日)日本経済新聞の朝刊に、「会計ビッグバン」シリーズとして、企業買収(または合弁)時に採用する会計の連結処理方法についての記述がある。

極めて簡単に要約すると、合弁(または買収)における会計手法には、両社の資産を簿価のまま連結する「持分プーリング法」と買収企業が非買収企業の資産を時価評価して会計処理をする「パーチェス法」の二つがあり、国際基準ではパーチェス法一本であり、国内でも2007年以降特別な条件が無い限りパーチェス法に限定するということだ。

「一体何の話だ?」と感じる人は、ごくまともな人で、「それは、こういうことで、そうなって、ああなって」とすぐに説明できるが、疑問は持たないという人は、実は真っ当ではありません。

僕がそう思う理由は、僕がさっぱりわからないからではなくて、分かっていても分からないという会計の問題があるからなのです。

以上の二つの手法による、同社の将来キャッシュフローの違いにについては、詳細に買収企業と被買収企業の内容を精査しなければ、なんともいえない。あらら、どちらかに断言して欲しかった・・・なんて思う人もいるかもしれないし、実は僕もどちらがどうだとはっきり書きたかった。

でも考えれば考えるほど、あの場合はこうで、この場合はこうで・・・とキリがなくなってしまうのです。ただ、一つだけはっきりしているのは、パーチェス法による「のれん代」の資産計上とその後の償却というは、他の資産の減価償却とは根本的に中身が違うということです。

何かモノを生産する場合の「機械設備など」の減価償却は、現金の出し入れが伴わないが、機械がちゃんと仕事をしているので、減価償却することは当然ということになりますが、「のれん代」(=営業権=フランチャイズとも言います。)は、場合によっては当該企業の営業を継続する過程で、どんどんその実態的経済価値(たとえばブランド力がその企業に与える経済的価値)が高まる場合があるにもかかわらず、「のれん代」を一期で償却することができるという、摩訶不思議な手法であるということです。

つまり、同じ経済実態の「和」なのにもかかわらず、会計手法の選択如何によって、その後のキャッシュフローや資産額に影響があるということ自体、会計ってのは、企業の経済実態を常に正確に把握できる完璧な手法ではないということがはっきりいえる結論だというわけです。

この意味で、上記の新聞記事の内容を完璧に理解できる人は、企業の価値を理解しているのではなく、会計手法を理解しているに過ぎないというわけです。仮に会計手法を理解していても、理解すればするほど、実態経済価値の反映の上での疑問や不満が出てこなければおかしいというわけなのです。

まるで「民主主義は欠点だらけだが、それに勝る方法は無い」と似たようなことになっているわけですね。

話のついでに、会計上の利益と将来キャッシュフロー(=企業価値)の不一致を、例によって、簡素な例でお話しましょう。

粉飾決算などでよく利用される方法に「在庫(たな卸し)」の資産評価があります。全く同じ価値の在庫なのに、仕入れの時の相場によって、一つ一つの在庫は仕入れ値が異なります。仕入れ値の高い在庫を最初に製品原価とする(インフレの場合、後入れ先出し法=LIFO)方法をとれば、会計上の利益は圧迫されますが、その分税負担は減ります。

逆に、仕入れ値の低い在庫を最初に製品原価とする(インフレの場合、先入れ先出し法=FIFO)の場合、会計上の利益はLIFOに比べて増しますが、その分税負担は増えます。

このように、会計上の利益は、その会計方法の選択によって、(税引き前の)経済実態に変化が無いのに(税の支払いによる)キャッシュフローと企業の資産規模を増減させてしまうわけです。会計上の利益にこだわる企業は、株主価値を尊重していないと断言できる一つの簡素な例です。

いずれにせよ、私たちが普段企業などの評価をするうえで利用している会計手法は、常に経済実態を正確に表すものではないということなのです。それだけご理解いただければ十分でございます。お粗末さまでした・・・(いやぁ~ちゃんと書きたかったんだけどなぁ~でも大変なことになるので、止めておきます。)PER、PBRなどの指標にとらわれすぎると儲けられまへんで。

補足として、SMU 第56号「企業買収とシナジー」で書いた「企業買収とシナジー」について書いておきます。あの文章を読むと、「のれん代」の資産計上と「のれん代」の償却が良くないことだと僕が主張していると思う読者が多いようですが、僕が主張しているのは、その効果があるのか無いのかわからない「シナジー」という効果による買収戦略そのもののイイワケを否定しているのであって、してしまった買収の後処理として「のれん代」を償却することに関しては、このエッセイにあるとおりです。

2004年6月15日 板倉雄一郎

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