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SMU 第64号「企業価値評価シリーズ始動」

いきなり「企業価値評価」といわれてもピンと来ない方もいらっしゃるかと思います。

ですが、それはまさに経済や経営、そして投資に関する理論や根付けを暗黙値で「何となく」処理するのではなく、明確な数値で分析し、自分の投資判断、自社の経営戦略を立案する際の「絶対的な自信を得る」というものに他なりません。

経済というのは理屈や現象を突き詰めていくと、実は非常にシンプルな力学で動いているということを理解することができます。水は高い方から低い方に流れるがごとく、お金はリスクに対する利回りが最大化する方向に流れるというわけです。

為替、債券、株式などはもちろん、それらから派生するデリバティブについてもこの原則が変わることはありません。

この企業価値評価シリーズの冒頭では最もシンプルでわかり易い「債券価格と利回り」に関するお話をして、その考えをエクセルのシートに落とし込むことから始めます。

折角ですからこの場で擬似的にやってみましょう。
(実際の講義は、受講者の経験や知識によって以下の例とは異なることをお断りしておきます)

「金利が上昇すると、債券価格は下落する」これは割りと多くの人が暗黙値として捉えていることだと思います。

それでは、問題です。

2005年1月1日に、表面利率1%、額面100万円の10年満期の国債が発行されました。あなたは、その国債を100万円で購入します。

その後、金利が上昇し、2006年1月1日に、表面利率2%、額面100万円の10年満期の国債が発行されました。

さて、あなたが前年に購入した2005年国債は、この時点で一体いくらで売却することができるのでしょうか?

大切なのは、答えの「絶対値」ではなく「算出の仕方」にあります。

だから回答を先に書いてしまいましょう。およそ918,378円です。
金利が上昇した結果、債券価格は下落したことになります。

その理屈と計算方法を答えてください。

この、企業価値評価シリーズで実施していることを要約すると・・・
企業の将来におけるキャッシュフローを「過去の実績」と「現在の戦略」など、様々な要素に基づいて予測し、企業の「資本コスト」で現在価値に割り引くことで企業の現在の論理的に妥当な「企業価値」を数値で導き出すことを目的としています。

そしてその手段として、「割引現在価値の概念の習得」からスタートし、内容習得後にエクセルの計算シートに数式を書き込みエクセルシートを拡張し自力で個別企業の価値を割り出せる「知識」と「エクセルのシート」を手に入れるというものです。

何事も、「概念」や「手法」を教わるだけでは身につきません。

このシリーズでは、教わった内容をエクセルのシートに計算式として自らが書き込むことを通じ「理解を深めること」が最大の特徴です。

人に説明したり、文章に書いたりできないということは、理解していないのと一緒ですからね。

では、そんな面倒くさいことが、一体なんの役に立つのかを具体的に言えば、
1)個人投資家の株式投資における企業株価の値踏み。
2)自社の経営戦略が企業価値を創造するのか破壊するのかの算定。
3)企業買収や自社の売却などM&Aにおける妥当な企業価値の算出。
などに役立つというわけです。

さて、債券価格の話に戻します。

今日の100万円と1年後の100万円なら、誰でも今日の100万円を選びますよね。

では、今日の100万円と1年後の200万円ならどちらを選びますか?

ほとんどの方は、1年後の200万円を選ぶでしょう。

それは一体、なぜでしょうか?

もしその人が(お金に困っていないのに)今日の100万円を選ぶとしたら、その人の年間の資産運用利回りが100%以上であるということになります。

年間利回り100%なんて人は、プロのトレーダーでもめったにお目にかかれませんから、現実を知らないとしか言いようがありません。

では、今日の100万円と1年後の120万円ならどちらを選びますか?

迷いますよね。

その迷いを解き、あなたにとって今日の100万円よりも価値ある一年後のお金は一体いくらなのか?を考えたのが「投資利回り」であり。将来のお金を現在の価値に換算した結果が「割引現在価値」だということなのです。

もし、あなた自身が株式や投資信託、そしてご自身の事業などで年率平均20%(という数字はものすごく優秀なのですが)の実績を持っていたとすれば、あなたは一年後のお金が120万円よりも大きければ、今日の100万円より、1年後のお金を選ぶべきであり、1年後のお金が120万円より少なければ、今日の100万円を選ぶべきなのです。

この考えがすべての基礎になります。

これを使って先ほどの「債券価格」を算定します。

2005年債は、額面100万円、表面利率1%ですから、あなたが将来受け取れるお金は、満期になるまでの(既に一年過ぎてしまいましたから)9年間、毎年100万円の1%にあたる1万円の利息、さらに満期に元本の100万円となります。

(1万円×8回、101万円が最後の年に1回)これをこの債券の場合の将来キャッシュフローといいます。このキャッシュフローを現在価値に割り引くわけですが、毎年の金利1万円は将来になればなるほど、現在価値を割り出す上で多くの割引を必要とします。複利の考え方です。

1年後の1万円を 2%で、
2年後の1万円を (1+2%)^2=4%で、
3年後の1万円を (1+2%)^3=6%で・・・・

と、年を追う毎に複利で現在価値に割り引かなければなりません。

2%で割り引く理由は、新規に発行された2006年債の表面利率が2%であって、2005年債も2006年債も期間の違いが無視できるほど小さいので期間のリスクを考慮しなければ、全く同じ価値(=同じ国の国債)ということになり、最新の2006年債の表面利率2%を2005年債の割引率にも適用するというわけです。

残り9年間全ての将来キャッシュフローを現在価値に割り引き、それらすべてを足し合わせた数字が、2005年債の(2006年債が発行された時点での)現在価値ということになるわけです。

エクセルでやったら簡単にできますよね。

ほとんどあらゆる経済的な価値というものは、企業にせよ、債券にせよ、不動産にせよ、それによって得られる予定の将来キャッシュフロー(現金収支)を、適当な(いい加減なという意味ではありません)割引率によって現在価値に割り引いた結果になります。(断言しちゃいます)

で、答えは、冒頭に書いたとおりになります。

もちろん、企業価値を割り出すには、債券のように、その将来キャッシュフローが書面で約束されているわけではありませんから、債券の場合のようにシンプルではありません。よって多くの時間と財務に関する基礎的な知識を必要とするわけです。

この理論を習得すれば、インチキ業者にインチキ金融商品のインチキ値段を提示されてもはっきり「高い(または安い)」を主張することができますし、株式投資においては、チャートを読むというようなテクニカル・ファクターだけではなく、企業のファンダメンタル・ファクターにより、割安の企業を探し出すこともできます。

さらに経営者であれば、自社の新しい戦略を実施すべきかどうかも明確に判断できるというわけです。

つまり、普段暗黙値で理解しているお金に関する事柄を、明確な数値に落とし込むことによって、「自分の判断に自信を持つ」ことが可能になります。

経営者に限らず個人投資家や住宅ローンで家を建てようという人の大部分が、今の自分の経済的判断について「本当にこれでいいのだろうか?」という不安を抱いているということです。

実を言うと、僕自身がハイパーネットを経営をしていた頃、以上のようなことに無頓着で、事業戦略や自社の価値に対して、常に「なんとなく」判断していたということがありました。

今の僕から考えれば、こうした知識の欠如がハイパーネットが倒産した「大きな原因の一つ」だと思っています。

僕は、自身の失敗によって、お金に関する知識の不足を補わなければならないと思い立ち、かれこれ5年に及ぶ学習と実践(ベンチャーキャピタルの経営、個人としての株式投資など)を続けてきました。

その集大成が、この「実践・企業価値評価コース」というわけです。

賢すぎる人が、頭で理解した場合とは全く異なり、不得意だったことを特別賢くない僕が、ゆっくり時間とお金をかけて腹の底に落としこむ過程で完成した講義内容ですから、受講者すべての方が十分に理解できることと思います。

そして、経営や投資に関する不安のかなりの部分を解決できるはずです。

2004年6月14日 板倉雄一郎





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