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SMU 第58号「近未来予測と失敗」

タイトルからすると、この2~3年先の日本はどうなっているのかを、ここで僕が書くことを期待している人も居るかも知れませんがそうではありません。

僕の未来予測と過去の失敗の因果関係について、ちょっと考えてみたのです。

自分で言うのもなんですが、数年先~10数年先までのテクノロジーや社会、経済、ビジネスに関する予測を、僕はほとんどはずしたことが無い。

著書の『社長失格』の読者ならお分かりかと思いますが、1991年に「ネット」という言葉を冠した会社名の企業を起こし、1992年からデータベースマーケティングを事業化し、1995年にはインターネットと広告をビジネスに成長させてきたわけです。

今から見れば当たり前でも、当時としてはネットやネット広告が今ほど急速に普及することなど、誰も確信できなかったわけで、ましてや多くの資本を投入した事業化なんておいそれとできる状態ではなかったわけです。

でも僕には確信がありました。でも結果は大失敗。失敗の原因は沢山あります。詳しくは『失敗から学べ!「社長失格」の復活学』(日経BP社)に詳しく書いていますが、それとは別の原因について書いてみたいと思います。

もしあなたが、タイムマシーンで10年前に戻ったとします。あなたはこの10年でどのようなことが起こるかよく知っているわけです。もしあなたがビジネスマンなら、それをビジネスに利用するでしょう。例えば「ITバブルが発生する」という情報に限定すれば、サラ金から高利の借金をしてでも金を集め、IT企業に投資するでしょう。

そして2001年、十分に高騰したところで売却すれば、大金持ちです。得られた金を2003年の春に再投資すれば、ウォーレン・バフェットとまで行かなくても(そんなに大きな金を動かしたら、自分の行為が未来を動かして、あなたの知っている未来と違った未来になってしまうという、タイムマシン小説のパラドックスが発生してしまう)今頃は一生遊んで暮らしてもお釣りがあるぐらい稼ぐことができるでしょう。

ところがサラ金では、十分な金を借りることはできません。いくら将来がわかっていたとしても、年20%以上の金利は高いし、大きな金額は貸してくれない。なので投資信託を始めて、資金を集めたり、事業を起こして銀行から金を借りたりします。しつこいようですが、あなたにとって、どんなに多額の借金でも怖くありません。儲かることがわかっているわけですから。

そしてはっきり具体的に見えている将来について、金融機関や投資家に向けて自信満々にプレゼンテーションするわけです。彼らはあなたの自信に満ちた振る舞いと、具体的な計画に心を奪われ、結果としてあなたは多くの資金を集めることに成功します。

あなたは、集めた資金を躊躇なく自らのITビジネスやIT関連企業に投資します。しかしあなたの事業はすぐにキャッシュを生み出しません。当たり前です、投資が無いところに利益は無いわけです。投資している以上、足元の現金収支はマイナスになります。しかしあなたは、足元の数字の悪さなど気にも留めません。その投資が大きな利益につながることをあなたは知っているからです。あなたの頭の中にある利益のスケールは、融資や投資をしてくれた金融機関よりはるかに大きいわけです。

ところが、一旦は納得した金融機関も、短期ではさまざまなマイナス要因もあるわけですから、徐々に不安になってきます。「もしかしたら、うまくいかなくて、投資分を損失するかもしれない」とか「アイツの話を聞いているうちは納得したけど、そんなにいきなり儲かるわけ無いよな」などと思うようになります。このこと自体は、まあ人間ですから仕方ないわけです。

しかし現実には、未来を知っているあなたと、あなたの話に乗っかった金融機関の間に、未来の利益に対するスケールの違いが生まれます。彼らはあなたほど将来の利益を確信していないし、あなたは彼らほど足元のマイナス収支に気を配らないわけです。

「近い将来利益がでるのは当たり前」と知っているあなたにとって、それを信じられない人の気持ちに、あなたが気づくのは難しいというわけです。

そしてどんどん周囲の見方とあなたの未来に対する見方に開きが生じます。そんな時、あなたはちょっとしたミスをやらかします。未来の利益を知っているあなたにとっては、些細なこと。しかし金融機関の彼らにとっては、とても重大なことでした。

彼らはあなたに詰め寄ります。あなたはノンキに未来の利益について話します。しかし彼らには既に聞く耳はありません。投資した金を、貸した金を今すぐにでも返せとなるわけです。

そしてあなたの事業は失敗します。未来を知っているあなたが、失敗してしまうのです。確信を持ちすぎた結果、失敗するのです。

とまぁ、物心付いた頃からの僕の人生は、いつもこんなことの繰り返しだなぁと、このところ思うわけです。思い起こせば小学生の頃からそんな経験ばかりでした。

SMU 第51号「根源的な自分」で書いた「仮面ライダースナック」に関する行動もそうでした。漢字の「書き順」に全く興味を示さず、低学年の国語の成績は最悪でした。でも今は作家としての収入があります。

歴史の年号を覚えるより、ストーリーの方が役に立つと確信していました。
「戦略」という概念が身に付きましたが、成績は悪かった。
「公式」を暗記するより、その公式が導き出される理屈に興味がありました。
「暗記」より理論の学習に時間を使ったことは、今になっては幸いでしたが、成績は悪かったわけです。

その瞬間の僕は、常に評価されないというわけです。
しかし「しゃ~ねぇ~な」と割り切る気には全くなれないのです。

だから、反省し学習しています。その結果が今の仕事、講演や執筆そして投資となっているわけです。人が失敗する大きな原因のひとつに「思い込み」というのがあります。「こうなるはずだ」という思い込みから、別の角度「そうじゃないかもしれない」というスタンスを取れなくなった結果の失敗です。

ですが、僕の場合は根本から違うらしいのです。「確信できない人の立場を慮ることができない」ことが僕の失敗の主な原因のように今は思っています。

予測はかなりの確度で的中する。しかし自分で何かを実行すると周囲との「差」が自分も周囲も巻き込んで失敗する。だから、情報は発信するが誰かのお金に対して責任を負わない。未来を見込んで自分ひとりのリスクで投資活動はするが、組織は作らない。

未来予測の確実さが仇となり失敗する僕の、新しいスタイルです。

誰も見向きもしない企業に対する投資でも、自分のお金の投資であれば、誰にも迷惑かけません。そして誰かを納得させる必要もないのです。

人に損害を与えない一方で、自分は自分の予測に基づいた利益をしっかり稼ぐ。これまでの人生を振り返り、自分の「あれが悪かった、あそこが失敗した」と直接的な手段の因果についてだけ反省してきたわけですが、久しぶりに「社長失格」を読んだ感想は「この男、理解が得られずかわいそうだな」だったのです。

失敗の何が悪かったのか・・・それを振り返ることはとても重要です。しかし一歩引いて大局的に自分の失敗を考察してみるのも価値があるのだと思います。

人は、欠点を補おうと努力します。どういうわけかそうします。日本の教育制度のせいかも知れません。しかし欠点を補うエネルギーを、長所を「利用する」に切り替えてみたら、意外と多くの人が「自分価値創造」を発見できるのではないかなと、思う次第です。

皆と同じでは、自分価値創造は達成できません。

2004年6月8日 板倉雄一郎
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