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SMU 第112号「急成長企業の配当」

先週(9月20日の月曜日の週)は、「企業価値評価セミナー」の名古屋第一グループ第4回目の開催。それに僕の読者が社長を務める株式会社アレイ様の依頼による、同社の社内研修向け「プレゼンテーションの方法」。2日連続の出張と講演。更に板倉雄一郎事務所主催の一般募集「企業価値セミナー」の準備などで、ちょっとだけ、忙しかったのでした。

いつも言っていることですが、こんなときは、「貧乏暇なし」ではなくて、「暇が無いから貧乏」にならないように、自分管理に勤めるわけです。がぁ~、僕は風邪をひいてしまいましたぁ・・・これこそ、全く自分管理ができていない証拠ですね。自己反省モードです・・・とほほ。

このところ、マスメディアの報道内容。マスメディアにおける経営者の発言。講演などで出会う特定世代の典型的な人の発言など、それぞれに「大丈夫ですか? あなた?」と言ってやりたくなるようなことが、少なくとも日に3つぐらい遭遇するのです。(最も驚いたのは、9月22日付けの日本経済新聞朝刊による日本生命社長のインタビュー記事でした。「自己資本のコストはゼロ」的な発言に、この会社の株主は怒ったりしないのでしょうかねぇ?)「おいおい」となるその気持ちを、

1、この場で書くことによって、単にストレス発散すればよいのか?
2、そんな彼らが存在する現実を、上手くビジネスにする方法を考えればよいのか?

で、常に悩んでしまう毎日です。 またまた、株式投資というか企業価値評価というか金儲け論というかの内容になってしまいますが、たとえば「株式分割」における株価の急激な変動について、これまで何度も書いてきましたが、つまり「企業価値」には全く変化が無いわけです。

ですが、事実、(最近そうでもなくなってきましたが)需給の関係(=というか、需給の関係が変化するだろうと見込む投機家の投機資金のおかげ)で、株価は企業のファンダメンタルズを大幅に(時には数倍も)超えて変化するわけです。

「それは、いかん! 間違っている!」などと言うつもりは100%ありません。究極的に「モノの値段」というのは、それを売りたい人と買いたい人が同じ値段で出会って取引が成立する価格によって決定されるわけですから、株価がいくらになろうが、それがその時点での(少なくとも売り手と買い手の間では)妥当な価格というわけです。

しかし、以上の市場において「如何に儲けるか?」ということになると、選択は大まかに二つ存在します。一つは、「その状態を利用してゲインを得る(=ゼロサムか価値創造かは関係ない)」と考えるのか・・・もう一つは、「その状態は異常な状態だから無視し(=翻弄されず)、中期~長期での価値創造に焦点を当てた投資に徹する」ということになります。

それらを集約すると、要するに「ある一定時間で、どれほどのリスクに対してどれほどの投下資本利益率を得るか」に集約されるわけです。言ってみれば、これが金儲けの全てです。

しかし「価値創造に関わることにより稼ぐ」のか「ゼロサムでも良いから、とにかく合法な範囲で稼ぐか」という選択は常にあります。いずれの場合も、大切なことは、どちらの方法にもある程度精通していて、そのときの状況によって使い分けるということですね。

例えば、ある企業の株価が変動しているとき、自分なりの企業価値評価の方法を持っていれば、それが「企業価値の変動」によるものなのか、「需給の変化」によるものなのか、はたまた需給の変動であっても、それが長期的なものなのか、超短期のものなのか・・・それらの区別が付くわけです。

すると「これは超短期の需給変動予測に基づく投機による変動だ」と認識できれば、それに乗って短期で利益確定することもできますが、もしそれを認識できなければ、いわゆる高値つかみのアホルダーとなってしまうわけですね。

逆に「これは新たな戦略に基づく企業価値増大による株価変動だ」と認識できれば、さっさと投資して、まともホルダーとしてゲインを得ることができますが、もしそれを認識できなければ、短期でちょこっと儲けただけで、せっかくの投資機会を逃してしまうわけですね。

ですからね、「企業価値セミナー」を是非受講してください。おそらく大部分の個人投資家やその予備軍の方々は、価値創造のメカニズムについてほとんど理解していないはずですから。(ちょっと、営業) ということで、今日の本題「急成長(が期待される)企業の配当」についてです。

 

企業の価値創造における、配当の与える影響とそのメカニズムについては、SMU 第67号「配当および自社株買いの是非」で書いた通り、「高利回りの投資機会があるならば、配当などによる資金の外部流出を実行せず、企業の内在価値を高める方が、株主価値を増大させる」ということになります。

それでも昨今、安定成長に入る前の急成長(が期待される)企業でも、配当を実施するケースが増えています。恐らくは、安定株主確保のための、極めてあんちょこな方法だということで実施しているのでしょうが・・・とても「うがった見方」をしてみると、以下のようになります。

ベンチャーを起業して、短期間でIPO(Initial Public Offering=株式公開)を達成した経営者の立場で考えて見ます。

彼らも当然お金が欲しいわけです。企業としてだけではなく、個人としてもお金が欲しいわけです。当たり前です。「公開企業の社長」というだけで、世間一般では、「お金持ち!」と判断されることが多いですが、実はそうでもないんです。

多くの場合、自ら起業した企業がIPOした時点では、その経営者は相当の株式シェアを持っています。ですから、IPOと同時に企業の時価総額が決定され、多くの場合、「計算上の資産=保有株式数×株価」が得られます。

しかし自社の株式保有それ自体は、キャッシュではありませんから「資産持ち」ではあっても「金持ち」ではないのです。それでは、経営者がキャッシュを得る方法は何か?を考えて見ましょう。

1、保有している自社株の売却によるキャピタルゲイン
2、役員報酬の増額(自社からの報酬アップや子会社を作って取締役に就任するなど)
3、配当によるインカムゲインとなるわけです。細かく例を挙げれば、キリがないので、大まかに以上のようになります。

1については、これから株主価値を高めていこうという成長企業の経営者が自社株を売るなんてことは、一般的に「ふざけんな!」ということになりますから、そうやすやすと実行できません。

理屈としては、一般株主はともかく、経営者としては「この会社が最も株主価値を高められる成長力を持っている=自分の能力でそうするんだ」と思っているはずですから、自社以上に有利な投資機会は他に無いはずです。ですから、自社株を手放すことはしないはず・・・と市場は考えます。

2については、ある程度の増額は、それに業績が伴っていれば誰もが認めるところですが、役員報酬の総額については、法的にも株主の合意が必要です。

役員報酬の増額は、その会社の利益を食うわけですから、巨額の報酬を株主は認めません。

3については、企業価値創造のメカニズムを知っている株主が大多数を占めるならば、急成長企業の場合、株主はそれを望みませんが、その理解が株主に無く、単に「わぁ~い、配当が出るぞぉ~、権利を獲得しよう!」などという愚かな(=自分が損をする)株主が多い場合には、配当は好感されますから、実施可能です。

つまり、1~3の中では、3の配当が最も実行しやすく、企業価値創造のメカニズムを知らない多くの初心者株主の好感を得ますから、実利もあります。この場合、誰に一番配当が配られるかといえば、大株主、つまり経営者となるわけですね。

しつこいようですが、うがった見方をすれば、という前提つきで、急成長企業が配当を実施する理由は、この辺にあるのではないかと、僕は思うわけです。

政治家がアホなのは、有権者がアホなことと同じで、経営者がアホな戦略を取るのは、その株主がアホだからなのです。自らが、自らの資産の守り方、増やし方、そしてそのメカニズムについて、知らないと自らが損をするわけですね。

ちなみに、米国の株式投資をやっている人間のほとんどが、こういいます。「日本の株式は、動きが論理的じゃないから、危なくって・・・」日本人の多くは、その金融商品の選択においても、どういうわけか「自らが損をする選択」を好むようです。

どういうわけか・・・なぁ~んて、理由は簡単ですね。

お金のメカニズムを知らない人が多いからです。

2004年9月27日 板倉雄一郎




 


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