板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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SMU 第166号「天然モノと養殖モノ」

いやぁ?楽しかった。
きゃぁ?うれしかった。
そして、ひじょ?に(体力的に)疲れました(笑)。
先週末(2005年1月15,16日)というか昨日、当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナー第一回目が終了しました。
(体力消費の主な原因は、講義より、その後深夜まで続く懇親会のおかげですが(笑))
セミナーの楽しさ、うれしさっていうのは、すなわち、受講生の顔が、「むむむ、どういうことだ?」から、「あっ、なるほどぉ?」と変化し、最後は「そういうことだ!(掴むことが出来た笑顔)」に変化していく様子を伺い知ることができるうれしさ、楽しさです。
(僕の場合、女性を口説く目的と、あまり違いはありません(笑))
回を重ねるごとに、受講生の疑問や間違いの傾向を経験値として積み上げることが出来るので、セミナーの講義内容、講義ツールも充実していくわけですが、(毎回そうなのですが、今回も、当事務所パートナーの講義ツールには、感心してしまいました。)、不思議なことに、その講義内容の充実と共に、新規受講生の「投資分を回収してやるぞぉ?!」という熱意が高まる傾向にあります。どうしてでしょう?
(これも、僕の場合、口説く相手の女性の傾向と同じです(笑))

実は、僕も当事務所のパートナーも、「合宿セミナー」の開催にあたり、一つの共通した「不安」を抱えていました。
これまでカリキュラム全体で6回の講義を1週ごとに6回(6週)実施してきたセミナーとは違い、今回の合宿セミナーでは、それらすべてを、わずか2日間で実施する関係で、「知識熟成時間」が、ほとんどありません。よって知識定着度が低下するのではないか?というものです。
しかし、ものの見事にこの不安は打ち消されました。
2日目の午前中に実施する「将来業績予測+資本コストの推計?バリュエーション?時価総額と理論株主価値の比較」の講義終了後に、受講生同士のワークグループによる「実感・個別企業インスタントバリュエーション」を、わずか2時間の間に実施していただくわけですが、少なくとも全ワークグループが(中には、エクセルの数式ミスによって、手間取っていたグループもありましたが)、「理論株価」の算出までこぎつけることができたからです。
インスタントとは言っても、バリュエーションに当たって収集すべき情報(業界動向、市場動向、これまでの当該企業のニュースリリース、当該企業の過去の財務内容など)と、エクセル(の計算式と数値を除いた)テンプレートを、予め当事務所が調査?配布することによる作業時間の短縮化であって、バリュエーションそのものがインスタント=インチキというわけでは、全くありません。
バリュエーションの経験が無い受講生が、初受講日の翌日には、バリュエーションの一つの結果である「理論株価」を算出することができたというわけです。これ非常にすばらしいことです。
(これは、女性の場合では、ちと違います(笑))

今回のセミナー受講生の中には、当事務所の推奨する書籍(「企業価値評価(Valuation)」や、「企業価値評価・実践編(Valuation in Practice)」)による「一人ぼっち学習」に挫折した上で参加された方も複数いらっしゃいましたが、彼らを含めすべての受講生が、そのメカニズムを理解し、実際にバリュエーションを実践できたというわけです。すばらしい!
(ということで、今後、当事務所のセミナーは、合宿形式を基本とすることにします。)

そして何と言っても、このセミナーには「受講生同士の出会い」という一つの重要な価値があります。
昨日まで見知らぬ同士だった受講生・・・ある人は個人投資家、ある人は企業のM&A担当候補者、またある人は、ベンチャー経営者・・・立場や経験、そして年齢の違う初対面同士が、バリュエーションという「共通言語」を得ることによって、一つの事象(個別企業のバリュエーション)について、喧々諤々議論を展開し、最後にはコンセンサスの取れた結果を得ることができるという機会価値です。
懇親会の盛り上がり方(正直、41歳の僕にとっては、「盛り上がりすぎぃ?」という感も否めませんが(笑))を見ても、受講生同士のメーリングリストの会話(朝メールチェックしたら、早くも受講生同士、メールが飛び交っていました)を見ても、出会いの価値は極めて高い・・・と実感です。

今回の受講生の過半数は、既にゲインもロスも経験のある個人投資家でした。
中には、100万円の原資を1年間で1500万円まで増やす実績をお持ちの方もいらっしゃいましたし、当日バリュエーションで採用した個別企業の株式を事前に保有していた方(この方、我慢して持っていたこの株を、バリュエーションの結果を見た結果、早速手放すそうです(笑))もいらっしゃいましたが、皆さん、「いい顔・いい目」をしています。
そもそも、バリュエーションによる成長株投資やバリュー投資を志す者というのは、「誰かの損失=自分の利益(つまりゼロサムゲーム)」という投機ではなく、価値創造に投資するという姿勢が根本にあるわけですから、自然と「がめつい顔」ではなくなるというわけですね。

私事ですが(このエッセイは常に私事ですが)、「始めてよかった」と、実は久しぶりに思えたこの「実践・企業価値評価シリーズ」セミナーを、当事務所のパートナーおよび卒業生と共に、大切に育てて行きたいと思う次第です。(どう育てるかのプランについては、内緒です・・・フフフ)

話は営業トークになりますが、「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーの受講を希望される方からの「希望日程」を数名から頂いておりますが、受講希望者がもうちょっと増えれば、おそらく来月(2005年2月)には開催できるのではないかと思っております。
興味のある方は、是非。

実は、過去のセミナー卒業生がセミナーのサポート要因になるフィードバック現象が起こっております。
(今回は4名の方にサポートいただきました。)
「板倉さん、次回のセミナー、手伝わせてください!」とメールをいただけるなんて、こんなうれしいこと無いですよ。
よって、懇親会は加速度的に盛り上がり中です。
サポートいただいた、卒業生の方々へ、この場を借りてお礼を申し上げます。
(でも、実は、セミナーを反復したいだけだったりしてぇ?(笑)。いや、懇親会目当てかな?)

ということで、前置きが長くなりましたが、本題「養殖モノと天然モノ」です。

本題も、セミナー話題の延長であることを、最初にお断りしておきますが・・・・
魚には、「養殖モノ」と「天然モノ」があります。
しかしこの分類、人間にも当てはまるということを昨日の懇親会で気がついたわけです。

養殖の魚と天然の魚を、なんの情報も無く、ただ食べ比べて、どちらがどちらだとハッキリ識別できる人は、実はそんなに多くはありません。
食べる人の舌が劣っているというわけでもなく、また天然モノが養殖モノより常に美味しいというわけでもないからです。
しかし、天然モノは、「自然の栄養(環境)」によって育ち、養殖モノは「人為的な栄養(環境)」によって育ちます。これは、養殖モノとは、自然な環境を分析した誰かを経由して間接的に作られたモノであり、天然モノとは、それ自体が「環境の一部」ということです。
もし、自然な環境を100%理解した誰かが、その理解を100%再現した場合には、どちらにも違いが無いでしょう。しかし、自然を100%理解できた誰かが居たとしても、それを100%再現することも不可能です。
よって、その瞬間目の前にあるモノに大きな違いが無くても、遺伝子の継承によって、将来大きな違いが発生することは、容易に想像できます。
「それ自体も、それを食べた人もにも。」

先にチラッとご紹介した「100万円を1年で1500万円まで増やした個人投資家」の方ですが、この期間にこれほどのゲインを得る方法として即座に思いつくのは、株式分割期待による投機です。
しかしこの方、詳しく話を聞くと、以下のような方法で投資先のスクリーニングを行っているということです。
彼のスクリーニングの方法を数式で書くと・・・
投資利回り相当指標=当期利益/(有利子負債総+時価総額+現金同等物)
彼は、この考えを元にスクリーニングを実施し、その結果、年間10倍以上の投資リターンを得ているというわけです。すごいですね!
しかし、上記の式をよーく見ると、このWEBで何度も書いているある指標に極めて近いと気づかれる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そうです、ROIC(投下資産利益率)の考えに近似しているのです。
ROICの定義は、正確には・・・
ROIC=EBITDA*(1-TR)/(D+E)
日本語でわかりやすく書くと、
投下資産利益率=営業利益*(1?税率)/(純有利子負債+資本)
です。
彼の「一人ぼっち経験」による「独自スクリーニング手法」は、とどのつまりROICが企業収益の根源であるということを、誰に教わるわけでもなく突き止めていたというわけです。
(その彼、雑談で彼のスクリーニング手法を聞いた周囲の「それってROICじゃない?」との反応に対して、「ROICって何ですかぁ?」とか言っておりましたが(笑))
彼の指標と、ROICの間には、もちろん、数値の取り扱いに違いがありますし、ROIC=投資家の利回りではありません。しかし、彼は、直感的に気がついていたというわけです。
つまり、利回りに関しての「天然の理解」ですね。
(その彼、セミナー後は、「ROIC-WACCスプレッドが企業価値創造の根源」ということに、いたく感激しておりました。)

「バリュエーションは難しい」と思う人は、おそらくたくさん居ます。
確かに将来業績を予測するということは、難しさの前に不確実さという壁があるのは事実です。
しかし多くの人が「バリュエーションは難しい」と思う理由は、このように不確実なものを予測することではなく、そのメカニズムや理論の理解が難しいという壁に突き当たることが原因と思われます。
たとえば企業財務というのは、結局のところ「八百屋の現金を入れる吊るし笊(ザル)」がキャッシュフローそのものであると思えばカンタンに理解できるように、その基本は数学でも物理でもなく、「自然な経済活動」を数値や人為的な仕分けによって表現しているに過ぎないわけです。
ですから、財務諸表の意味を一つ一つ暗記する(つまり細部に入り込む)前に、「つまり企業活動というのはどういうことなのだ?」とその本質からアプローチすれば、非常に簡単に理解できることなのです。
この、本質からのアプローチが先にあり、その後、詳細な理論の学習によって、本質の検証という過程を得る手法が「天然」ではないかと思うわけです。

一方、ビジネススクールをはじめとする「手法の教育」によって育てられた人材は、本質を見抜こうとしてひらめいた「絵面」を検証するために理論を学ぶという天然組みとは違い、本質に気がつき、「絵面」がひらめいた人が作り上げた理論を「真似る」という場合が多い(そうでない人もたくさん居ると思います)わけです。
つまり、後者は、「養殖」というわけです。

つまり、天然モノが環境の一部であるということは、自分を理解するということが環境を理解する=自分のひらめきや感覚が経済のメカニズムを理解するということであり、養殖モノは、自分の感覚に問い合わせるのではなく、言葉や理論に置き換えられた他の誰かのひらめきや感覚をインストールするということです。

この両者には、大きな違いが生じます。
それは、すなわち、「誰かの思惑」によって育てられる養殖モノより、「自らの感覚」によって生き抜く天然モノの方が、「環境の変化」に対応する可能性が高いということです。
なぜなら、変化とは、それ自体の持つメカニズムの中から発生するからです。
よって、養殖モノは、過去の分析については、天然モノと同等の結論を得ますが、将来の予測においては、天然モノによる予測に軍配が上がるというわけです。
つまり、天然モノは、他の誰かの思惑によるバイアスを受けにくいというわけですね。

僕が知っている限り、たとえば、ウォーレンバフェット氏は、この分類においては天然に該当します。
しかし彼は、自らの天然の感覚を、ビジネススクールで検証するということも過去に行っています。よって、ビジネススクールの問題点についてもいくつかの発見をしていますし、ご存知のとおり、その先見性によって、世界屈指のパフォーマンスを実現しています。

「では、セミナーなど受けても意味が無いじゃないか!」
と早合点しないでくださいね。
大部分の方は、自分の居る環境(経済)を自然に理解することが出来ないわけですから、それを養殖技術によって補う必要があるわけで、また養殖される過程で、本来持っている自分の自然な感覚に目覚めるという効果があるからです。
僕のセミナーでの教え方は、「養殖技術により、その者が本来持っている感性を目覚めさせる」というアプローチを取っています。
完全な養殖ではなく、養殖技術によって、本来持っている感性に目覚め、磨く。
そのための一つの方法としてセミナーが存在するというわけです。
当事務所のセミナーは、「受講生が本来持っている天然の感覚」を目覚めさせせるセミナーであることを、継続できれば幸いです。
僕は、僕に都合のよい養殖モノを育てるつもりはありません。

以上。

PS:ちなみに、先に紹介した「このセミナーで自分の感覚が正しいことを確認できてよかった」という彼の、セミナーでのあだ名が、「天然ROIC」になったことは、言うまでもありません。

2005年1月17日 板倉雄一郎





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