昨日(10月30日の日曜日)も、またまたセミナーでございました。(当事務所主催の「企業価値評価シリーズ」東京第1グループの第2回目のセミナー)
2回目の内容は、不動産や債権と違って、自ら価値創造を行う企業の価値算定のメカニズムの解説とマスターシート作成、それに企業のバリュードライバーモデルのエクセルシート作成と因数変更による企業価値創造のメカニズムのお勉強ということになります。
実はこの2回目が極めて重要な内容となっており、資本コスト(WACC)と投下資本利益率(ROIC)、それに両者の差(スプレッド)などの基本説明をした後に、バリュードライバーモデルを使って、企業の様々なオペレーションが企業価値にどのように影響するのかなんて事を、エクセルシート上でシミュレート学習するわけです。
すると、「有利子負債の減少(借金の返済による有利子負債の投下資本に占める比率の減少)」は、多くの場合(いやスプレッドがプラスのまともな企業の場合)、株主価値を押し下げること。
投下資本利益率の低い企業(たとえば大手商社など)の場合、自己資本比率を下げ(=有利子負債を増やし)資本コストを低減しないと株主価値の創造が不可能なこと。
上記のスプレッドが小さい企業の場合、投下資本を増やそうが減らそうが、企業価値に変動が無いこと。
逆にスプレッドがマイナスの企業の場合、投下資本を増やせば増やすほど株主価値が減少することや、この場合でも、見かけ上は「増収増益」であることなどなどが、メカニズムとしてしっかり理解できるというわけです。
すると、有価証券報告書、四季報、それに日本経済新聞の読み方が180度変わってくるというわけです。
さらに・・・
「増収増益」や「有利子負債の返済」のニュースを直ちに「買い」と判断するような、アホな投資で損をすることも無くなりますし、「増資」のニュースで直ちに(ダイリューションを気にしすぎて)「売り」と判断する前に、その増資による資本をどれほどのROICの事業に投下する予定で、その新規投資分のROICが、それまでの同企業のROICより高いのか低いのかによって「売り・買い」を判断できるようになるというわけです。
今回、ある受講生の方(家業を継ぐかどうするか悩み中の方)から「今回までで、充分に受講料の元が取れました!」と、うれしすぎる言葉を頂いたりするわけです。
(でも残りの4回もちゃんと出席してくださいね(笑))
もちろん、お世辞かもしれませんし、僕が神経質なまでに「受講料に相当する価値提供を行えているのか?」を気にしているから、気遣ってくれたのかもしれませんが、いずれにしても、積極的に時間とお金を投下した受講生の方々に喜んでいただいてうれしいわけです。
さてさて、日本経済新聞の記事ですが、今日取り上げるのは昨日の朝刊トップ記事です。
「企業買収価値トヨタ最大(18兆4,000億円)」という見出しで、上場企業の企業価値のランキングなんてのが載っているわけです。
あらあら、土日で経済ニュースに乏しかったせいかしら・・・だれか暇な人が企業価値算定を行ったのね・・・なんて興味津々で読み始めたら、なんてことありません・・・株主価値を時価総額として、それに有利子負債を足し戻した結果を企業価値としているに過ぎないわけですねぇ。
もちろん、考え方が間違っているわけではありませんし、この記事に価値が無いかといえば決してそんなことはありません。
「へぇ~NTTとDoCoMoはこのところ仲良くランクが入れ替わるのね」なんて事は読み取れますし、「ハイテク系は、企業価値が減衰しているのね」などとも読み取れます。
けれども、これ一面のトップ記事でしょ・・・四季報とヤフーファイナンスの時価総額と、おそらくそれらの取り込み時間とスプレッドシートでの作業で一時間程度(で、僕ならできますが)の結果を、特に変わった切り口でもない文章で書いたものですよね。これ一面トップ記事なんですかねぇ???
せめて(「せめて」ですよ)ランクに入った企業の資本コストや投下資本利益率をついでに書くとか、もしくはそれらをまとめてEVA値を載せるとかして欲しいものですよね。こうなって初めて、記事の価値が倍増するわけです。
確かに、資本コストを正確に出そうとすると、それぞれの企業の有利子負債における金利を有価証券報告書から調べなければなりませんし、この場合、複数の利率の違った有利子負債がある場合にはその加重平均を取る必要があります。
更に、株式についても、リスクフリーレート(まあこれは10年国債のレートでやってしまえばいいわけですが)やマーケットリスクプレミアムそしてβ(ベータ)まで持ち出さなければなりません。
そしてさらに有利子負債と株式の比率による加重平均を取らなければなりませんから、面倒です。面倒ですが、だからといって丸一日かかる作業でもないですから(実際には、簡単な情報収集とシート作成)、以上の作業を遂行して、紙面の都合で書ききれない(とは紙媒体のイイワケ常套手段ですが)ということであれば、以上の結果としてEVAだけを掲載するとか、スプレッドの大きさランキングを掲載するなどとすれば、日本経済新聞の価値は高まるんですけどねぇ・・・いかがでしょうか?
つまり、この記事を見た感想は、結局のところ「へぇ~だからどうしたの?」って事でしかなくて、しかしスプレッド(ROIC~WACC)のランキングが出ていたら、「おっ、これは使えるぞ」となるわけです。
しつこいようですが、せっかく経済ニュースの少ない日のトップ記事ですからね。このぐらいやってくれないと。毎月5,000円も払ってるんですよ!
今日は、こんなところで。
2004年11月1日 板倉雄一郎