板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  スタートミーアップ  > SMU 第146号「日経から・・・過去最高の配当」

SMU 第146号「日経から・・・過去最高の配当」

セミナー受講生による企業価値評価サンプルのアップロードが遅れております。

発表はしたものの、その場で僕から受けた指摘に基づいて、なにやら修正に修正を重ねているようで、彼らとしては「WEBで発表する以上、もう少し精査したい」とのことです。今しばらくお待ちください。

その代わりと言ってはなんですが、「受講生の声」を既に「実践・企業価値評価シリーズ」の案内ページにアップしておりますので、ご覧になってみてください。

大概の受講生が悩む部分は、主にWACC(加重平均資本コスト)と企業継続価値の算定です。

WACCについては、仮に「β値」をどこからか入手できたとしても、企業継続価値算定に用いるのは、超長期でのWACCですから、未来永劫「現在のβ」を使ってよいものかどうかという問題があります。

更に、企業継続価値算定の各因数の相互関係(例えば、WACCを下回る投資利回り対象に新規投資をすることは考えられないことや、企業全体の投下資本利益率(=ROIC)を下回る新規投資利回り(=ROIC(i))の投資対象に投資することも考えられないなど)についての理解が定着していないことによる混乱が見られます。

まぁ、この辺も、何度もバリュエーションを繰り返すことで、徐々に掴めてくるワケですが。それでも、セミナー終了後は、受講生からの質問があれば、受講生メーリングリストにて返答しているというわけです。

さて、本題です。今日は、日本経済新聞(12月3日付けの第三面)に「企業配当最高 三兆円に」を取り上げたいと思います。

この記事を見て「やった!ばんざぁ~い!」とか思います?

経済の先行きを考えると、「配当増大=将来明るい」とは、必ずしもならないわけです。

配当が過去最高ということは、(個々の企業においては、この限りではありませんが)即ち「新規投資対象が見つからない」という意味が含まれているわけです。

(企業内で、配当性向を予め定めている場合は、単純に当期の税引き後利益の上昇分配当は増えますが)

もし、ある個別企業の現時点での投下資本利益率(ROIC)が仮に8%だったとします。何度も書いているように、このROICが、企業の生み出す経済価値の源泉です。

この企業が新たに投資を実施しようと考えるのは、当然ながらその新規投資対象の利回りが8%以上を予測される場合のみです。

8%以下(現在のROIC以下)の投資対象に投資するということは、企業全体のROICを下げる圧力となりますので、まともな経営者はこれを行いません。

現在のROICを上回る利回りを期待できる新規の投資対象が見つからなければ、企業は投資を実施せず、結果、「足元の」フリーキャッシュフローは増大します。増大したフリーキャッシュフローを内部留保にしたとしても、再投資先がしばらく見つからないと予測すれば、内部留保にせず、配当や(WACC調整を考慮した上での)有利子負債の返済および自社株買いなどによって、フリーキャッシュフローを投資家に還元することになります。

「過去最高の配当」というのは、以上の要素が(個々の企業は別としても全体としては)含まれていると、少なくとも僕は判断します。

内部留保せず、新規投資もしないとすれば、企業の追加の価値創造は一向に行われません。すなわち理論的には、自社株買いによる株価上昇やWACC調整分としての「追加の価値創造無き株価上昇」の範囲にとどまり、大幅な株価上昇は期待できないというわけです。

まあ、今回の記事に取り上げられた企業群は、成熟期にある企業ばかりですから、配当による投資家への還元というのは、あながち間違っているわけではありませんし、充分な設備投資を行ったうえでも、営業利益の増大により、フリーキャッシュフローが増大した企業も含まれますから、以上はあくまで「理論の話」ですケレド・・・。

さて、これから先、どうなっていくのでしょうか?

2004年12月3日 板倉雄一郎





エッセイカテゴリ

スタートミーアップインデックス