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統計のお話 第21回「べき乗の法則」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!
“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第21回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】べき乗の法則
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前回の統計のお話では、複雑系の話しやそこから分かる
ファットテールの概念図を書きました。
今回もファットテールに絡んだ話しをしますので、再掲いたします。

(1)“良くあること”つまりわずかな価格変動は、
正規分布が仮定するよりも多く発生する
(2)では、中程度に起こる価格変動は、実際はそれほど起こらない
(3)では、滅多に起きない価格変動は、正規分布で想定しているよりも多く発生する
さて、前回のエッセイをアップした後、この図を見た何人かの方から、以下のような問いかけをいただきました。
“新しい分布が分かっているのであれば、それを元に理論を創っていけば完璧なファイナンス理論が出来るのではないですか?”
先に答えを言ってしまいますと、
旧来の伝統的ファイナンス理論の計算式のうち、分布だけを変えれば
新しいファイナンス理論が築ける、ということにはなりません、
となります。
伝統的ファイナンスにおいては、
価格変動の分布を正規分布と仮定しているだけではなく、
投資家個人は、他人にまったく影響を受けずに意思決定をする、
という証明が不可能な前提をおいています。
また、投資家の情報格差は存在せず、
完全に合理的な意思決定を各個人は行うのが前提になっています。
いずれにしろ、よく考えれば“そんな無茶な・・・”と
言わざるを得ない前提をおいている訳です。
ですので、分布の計算式をいじれば、
伝統的ファイナンス理論が完璧なファイナンス理論になる、
という単純な話ではない、ということをご了承下さい。
しかし、複雑系のファイナンス理論において、分布を考えることが
意味を持たない、と言うわけではありません。
いつだって規則性を見いだすことが研究を前進させるわけです。
そして、実際に複雑系によって生み出されるものが、
ある分布に従うことが分かっています。
それが、今回のテーマ、“べき乗の法則”です。
早速ですが、企業の規模と存在割合について表した下図をご覧下さい。
この図において縦軸は、企業が存在する割合を表していて、
横軸は、企業の売上規模を表しています。

この図は何を表しているのかというと、
(1)の場合、
(横軸の)売上規模が10の4乗ドル程度の企業が
(縦軸の)世の中の企業のほとんどの割合を占める
ということです。
(2)の場合、
(横軸の)売上規模が10の10乗ドルの巨大企業は
(縦軸の)割合としては、滅多に存在しない、
ということです。
イメージはつかめましたか?
当たり前の事ですが、大企業の数は少なく、
中小・零細企業が世の中のほとんどを占めるわけです。
そして、企業規模とその企業の存在割合の間に
上図のような美しい法則性が見られるのです。
このように、複雑系の事象における分布は正規分布ではなくて、
両軸を対数で取った場合に、直線のグラフになることが
分かっています。これをべき乗の法則とよびます。
(英語ではPower Lawと言います。)
企業規模に関する分布以外にも同じようにべき乗の法則が見られるのが、
・動物の体の大きさとその存在割合
・都市の人口と存在割合
などです。その他にも、自然界に存在する事象において、
多数確認されています。
また、この、べき乗の法則は非常に面白い性質を持っています。
それは、べき乗の法則に基づく分布は、
時間の経過に寄らず安定している、ということです。
複雑系によって生み出された分布は、一時は崩れることはあるとしても、
長期的にはかなりの精度で分布が保たれることが分かっています。
これは非常に面白い性質です。
例えば、企業の例で言えば、
巨大企業の有価証券報告書を読んで、各企業が発表する成長率から
将来の売上規模を予測します。
すると、多くの場合は、前向きな成長予測をたてるでしょうから、
巨大企業が更に成長することになるわけです。
ところが、企業規模と存在割合は、べき乗の法則に支配されていますので、
超巨大企業の存在割合は、巨大企業の存在割合よりも、
ずっとずっと少ないのです。
つまり、多くの巨大企業は、かれらの見込みよりも、
少ない成長しか実現できない、あるいは成長ではなく、
衰退してしまう可能性が非常に高いといえます。
一方で、ごくごく一部の巨大企業が、彼らのもくろみ通り、
超巨大企業になるわけですね。
それがどの企業なのか、個別の銘柄までは、
残念ながら、べき乗の法則から予測することはできません。
しかし、多くの巨大企業は、彼らのもくろみ通りの成長ができない、
ということだけは分かります。
このように、複雑系が世の中の多くを創っているわけですから、
その中から法則が確認されてきているわけですね。
もちろんそれらが株式市場にもあてはまるわけです。
新しいファイナンス理論は複雑系の中から
生み出されてくるとは思っていますが、
そのときは、
・個別企業の将来株価予測が不可能だが、
・感覚知や現実にフィットする
ようなモデルが現れてくるのではないか、と私は考えています。
ファイナンス理論は、現在、経済学者以外にも、
複雑系が関係するあらゆる分野(主に物理学・社会学などなど)から
研究者が集まり、問題に取り組んでいます。
その議論の中から、どんなことが見えてくるのか、
非常に楽しみですね。
引き続きこの複雑系のファイナンス理論について
ウオッチしていきたいと思います。
いつになるか分かりませんが、
複雑系のファイナンス理論が確立されたときに、
このエッセイが続いていれば(笑)、
なるべく分かりやすく噛み砕いて、説明してみたいと思います。
乞うご期待!
2007年10月4日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!
PS
私は理論の研究者ではないですが、趣味と興味の範囲内で、
じっくり調べていきますので、情報にタイムラグがあるとは思います。
気長にお待ち下さいね。
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