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統計のお話 第28回「ネット証券普及によるパフォーマンスの悪化」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!

“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第28回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】ネット証券普及によるパフォーマンスの悪化
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ネット証券で、カンタンに取引ができることによって、
投資のパフォーマンスに何が起きたのか、を実証するデータがあります。

BarbarとOdeanが1999年に出した論文によると、
ネット証券を利用した投資に転向する前(電話や窓口での取引)の、
ポートフォリオ回転率の平均は70%ほどだったのが、
転向後、120%まで上昇した、とのことです。

その際のパフォーマンスは、
年平均18%から、約12%まで落ち込んだ、んだそうです。

あらら~~、という感じですね。
これほどまでに結果が変わるのもスゴイですね。

ちなみに、合宿セミナーの私のコマでもお伝えしているのですが、
そもそも、人は、取引回数が増えるほど、
パフォーマンスが悪化するように、出来ています。
行動ファイナンス的にそうなります。

ですから、回転率が70%から120%に増加したことによって、
パフォーマンスが悪化するのは当たり前、とも言えるんです。

しかし、問題は、なぜネット証券になると、
回転率が上がってしまう傾向があるか、です。

それを説明するのが、今回のテーマ“コントロールの幻想”です。

コントロールの幻想とは何か、というと、
人は、自分がコントロールできない結果についても
影響を及ぼすことができる、という考えに陥ってしまうことです。

どういうことを言っているのかわかりますか?

今回は、どんなときに、コントロールの幻想に陥るのか、
下記5種類のパターンを説明していきます。

1.選択
選択できる、ということと、コントロールできる、ということは、
全く別物なのにも関わらず、勘違いしやすいものですよね。

例えば、ロト6って、自分で番号を選択できますから、
宝くじよりも当てられそうな気がしませんか??
実際、ロト6の攻略法って雑誌で頻繁に特集されていたりしますよね。

宝くじの攻略法も見ないこともありませんが、
どこで買うか、とか、買い続ける、とか、その程度ですよね。

しかし、ロト6だろうが、宝くじだろうが、当たるかどうかは
結局は確率の問題ですから、分母(=発行口数)に対して、
分子(自分が購入した口数)がどれだけか、
ということにすぎませんね。

つまり、自分が6つの数字を選択しようが、
宝くじ売り場で窓口のおばちゃんに割り当てられた結果だろうが、
本質的には、結果に影響をおよぼしません。

でも、ロト6の方が当たりやすい気がしてしまう(笑)、
のは、ロト6が自分で選択した数字だから、です。

ロトに関しては、おりおばにも記述がありますので、是非是非ご覧下さい。

2.結果の連続
起こった結果が続くように感じることも、コントロールの幻想です。
特に儲かったことに関しては、幻想に陥りやすいです。
実際2005年当時、全体が右肩上がりで株式市場が好調だったので、
たくさんのインチキトレード本がでました。
(今では、それらの本はすっかり息を潜めていますね・・・笑)

たまたま市場が良かったか、たまたま運が良かった結果に過ぎない
のに、自分のトレーディング手法がスゴイのだ、という幻想に
陥った著者がたくさんいたことは記憶に新しいですね(笑)。

3.慣れ
慣れによって、コントロールの幻想に陥りやすくなります。
例えば、最初ネット証券で、株式を購入する際は、
私はちょっとドキドキしながらクリックしたことを覚えています。

が、そのうち慣れてくるものですよね。

私の友人は、最初にネット証券で取引を始めてから
3ヶ月後には、ケータイで頻繁に取引するようになっていました。
(それも仕事中に!)

慣れてくると、自分が結果をコントロールできるような気に
なってきてしまったため、その友人は、仕事中にもかかわらず、
取引をしてしまったわけです。

仕事中の取引による投資金と社内信用の低下 < 投資によるリターン

と判断したのでしょうね(笑)。実に強気ですね~。

4.情報
多くの情報を得るほど、コントロールの幻想に陥りやすくなります。
インターネットによって、以前より多くの情報に
アクセスできるようになりました。

一方で、ネット上にある情報は、多くの場合、それほど
役に立ちません。

しかし、大量の情報を得ると、自分の知識を増やした、という
自信から、誤った判断すらも正当化してしまうことが起きます。

5.積極的関与
ある仕事に積極的に関与するほど、コントロールの幻想に陥りやすくなります。
オンライン投資家は、銘柄選択に積極的に関与する必要があります。
意思決定を行うため、様々な情報を分析します。

企業が出している情報、それに対してプロが出すコメント、
それらを見た素人の意見、などなどを見れば見るほど、
コントロールできる、という幻想に陥ってしまいます。

知れば知るほど、その真贋はともかく、コントロールできる、
という錯覚に陥りやすいモノです。
株式投資しかり、競馬しかり。怖いものです。

さて、以上でコントロールの幻想に陥りやすい5種類のパターンの
解説は終わりです。

どれもなかなか避けがたいように思いますね。
自分が、幻想の中にいる当事者になってしまうと、
そこから抜け出すのはなかなかできないものです。

でも、こういう風に整理分類された情報を知ると、
この情報を知っている自分は、コントロールの幻想の罠に
はまらないような気がしてしまいますね。
ですが、それすらもコントロールの幻想なので注意してください(笑)。

“株式市場において、将来起こること、起こって欲しいこと”を
コントロールすることなんて、インサイダー取引でもしない限り
不可能です!

人間は“現在の自分”をコントロールすることすら難しいんですから。

2008年2月5日 K.Shimoda
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