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統計のお話 第25回「認知誤差2」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!
“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第25回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】認知誤差2
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前回は、認知誤差の中のうち、
“検索容易性”と“係留”について扱いましたね。
今回扱うのは、最後の一つ“代表制簡便法”です。
ちょっとだけおさらいをしますと、
認知誤差とは、人の処理能力に限界があるため、
簡易的な手法でザックリと正解を出す際に
良く起こしがちな誤り(エラー)のことです。
そのザックリ手法の一つが今回の代表制簡便法です。
これは、事象を代表する一部の指標だけをみることによって
事象をザックリ評価してしまうこと、です。
例えば、I社の将来業績がI社の株価によって代表されている
のであれば、I社の将来業績にとって良い情報が出てくれば、
I社の株価を引き上げることになりますよね。
本来I社の将来業績を求めようと思えば、
過去の詳細業績分析から始まって、
ビジネスモデルや競争優位性・バリュードライバーの考察、
過去からの予測と現在の整合性、などなど、
たくさんの要素を複合的に見た上で、求めるのが良いでしょう。
しかし、何社も調べたいときに、すべての企業について、
それを行うわけにはいきませんよね。
そこで、ザックリ調べるときには、会社を代表する数字を
いくつか見ることによって、わずかな時間で
会社を比較することができる、というわけです。
しかし、企業の例に限らずですが、代表的な数字で
全体をザックリ把握するときに、
システマティックに起こりやすいエラーが4つあります。
それぞれ見ていきましょう。
1.ばらつきの軽視
企業の情報には、2種類あります。1つは、当該企業を代表する情報。
もう一つは、代表はしないが、ばらつきに影響を及ぼす情報、です。
ばらつきの軽視とは、後者のばらつきの指標を無視することにより起きてしまうエラーです。
例えば、I社株は上昇・下落する頻度が同じくらいである、
というデータがあったとします。投資家は本来、
株価が高騰したら“I社株を売却したい”と思うはずです。
しかし、そのときに、I社の業績にプラスになりそうなニュースが
飛び込んでくると、ばらつきを過小評価して、
売却ではなく、買い増しの判断につながったりします。
人は往々にして過去のばらつきを軽視してしまいがちです。
2.小数の法則
コインを10万回投げたとします。
すると、表と裏はそれぞれ5万回程度出ると思われます。
これは納得出来ますよね?
数学的には大数の法則、と呼ばれるものです。
10万回投げたら、(何度繰り返しても)表と裏は5万回に
かなり近い値がでるでしょう。
しかし、10回投げても、表と裏が5回ずつになる可能性は
それほど高くは有りません。
ところが、多くの人は、連続して表が5回出てしまったら、
次は裏が出てくる確率が上がる、と思ってしまうものです。
コインが表と裏の回数を記憶していて、
“最近、表ばっかり出してたから、
そろそろバランスを取るために裏も出しとくか”
なんて考えているわけないんですけど(笑)。
小数のサンプルしかない場合は、
そこから全体を想像せざるを得ません。
そしてそれを過信しすぎる傾向があります。
株式投資で言えば、自分の投資が好調なとき、
少ないサンプル数しかないにも関わらず、
自分の能力全体を過大評価してしまうことも多々あります。
一時期、ネットで大量発生した素人の投機指南役は
このパターンですね(笑)。
DeepKISS70号「いい投資先を教えてくれる???」」にて、
以下のくだりがありますが、この文章は多くの人が陥りがちな
行動ファイナンスの罠への警鐘とも言えます。
“価格が価値に均衡するのは、長期で初めて実現することです。
(中略)ウォーレンバフェットのように、60年程の長期に渡り、
安定したパフォーマンスを実現して初めて、「ホンモノ」でしょう。“
3.予測可能性の無視
予測不可能な未来を予測する際は数学的な平均値を用いるべきです。
何せ予測不可能なわけですから。
しかし、多くの人が行う直感では、不確実性が高い未来にも関わらず、
数学的な平均以外に自分の主観、という手心を加えることが多いです。
当然それは、自分にとって良くも悪くも
バイアスがかかるわけですから、正しい結果が得にくいのは明白です。
主観を入れすぎないように注意しましょう。
4.回帰に対する誤認識
実力に比べてあまりにも高騰した株価は、いずれ下落します。
同様に低すぎた株価はいずれ回復します。
これは平均(実力)への回帰現象と呼ばれるものです。
この回帰現象は、長期では実力に収束するのは分かりますが、
短期では、正直よく分かりません。
特に株式市場のような複雑系のシステムの中では因果関係は、
ほとんどの場合明確ではありませんので、
実力に回帰していかない、ということも多々起こりえます。
しかし、人は無理矢理、とある原因を結果と結びつけたくなる生き物ですから、
誤った因果関係を無理矢理結びつけてしまって、
色々なミスが起こりやすくなってしまうのです。
例えば、ボーナスを多めに出した翌月に業績が落ち、
ボーナスを少なめに出した翌月に業績が上がった場合、
業績の上下はボーナス以外の要因も多数含まれているにもかかわらず、
ボーナスを少なめに出せば、業績が上がる!と人は思いがちです。
因果関係や回帰現象は多くの場合、それほど単純なものではないので
気をつけましょう。
4種類のエラーについての説明は以上です。
代表制簡便法を使って、カンタンに様々な物事を
評価していくことは大事なことです。
しかし、便利な反面、罠も口をあけて
待っている、ということを忘れないでくださいね。
2007年11月29日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!
参考文献:「市場のアノマリーと行動ファイナンス」
統計のお話バックナンバー
統計のお話 第24回「認知誤差」





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