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統計のお話 第24回「認知誤差」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!
“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第24回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】認知誤差
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前回に引き続き、行動ファイナンスシリーズをお届けします。
今回扱うのは、認知誤差、です。
認知誤差とは、
人の処理能力には限界があるため、
簡易的な手法でザックリと正解を出す際に
起こりがちな誤差(エラー)のことです。
ちょっとわかりにくいので、例題を出しますと、
今後の世界情勢の予測、といったような不確実な問題を考える場合、
本来であれば、
・現在の全ての現実を把握し、
・それぞれの過去からの推移を把握し、
・それぞれの今後起こりうる全ての選択肢を挙げた上で、
・全ての選択肢の発生確率を正しく求めて、
・今後の世界情勢を予測する
といったようなステップを踏む必要がありますが、
それは、現実的には不可能です(笑)。
そこで、多くの場合は、
ざっくりと大きな要因を挙げて、
それらの関係性を考えた上で、将来を予測する、
といった具合になるわけです。
そこには、論理的正しさやそれに基づく確率・期待値的な判断は
あまり含まれてはいませんが、ざっくり間違っていなければOK、
としています
(以後、本エッセイ内では、これを思考のショートカットと呼びます)。
そして、日常生活やビジネス上のかんたんな意思決定においては、
多くの場合は思考のショートカットでOKなわけですよね?
全ての問題を、事細かにやってしまうと疲れますし、
物事の意思決定が後れてしまうこともありますね。
だから多くの場合はショートカットして良いんです。
ところが、思考のショートカットが
間違った判断になってしまう場合があるわけです。
それも特定の規則性をもって。
その特定の規則性を持った間違い(認知誤差)が株式市場で起きれば、
伝統的ファイナンスで説明の付かない株式市場の過剰反応を
説明できるのではないか、という仮説のもと、考えられてきたのが
認知誤差なんですね。
認知誤差にも色々ありますが、
今回は、Tversky と Kahnemanが考えた
3つの思考のショートカット(検索容易性、係留、代表性簡便法)
のうち、検索容易性と係留について扱います。
1.検索容易性
実例から挙げますと、
例えば、身近な人が飛行機事故で亡くなっている経験をしている場合、
自分や親族が、実際の確率よりも、飛行機事故で亡くなる確率を
より高く想定します。
人は、心に浮かぶ容易さによって、事象の起こりやすさや、
発生のかたよりを評価します。
つまり、特殊な事例でも自分が経験している場合、
それがあたかも簡単におきる出来事であるかのように錯覚してしまう
というわけです。
逆に、経験が想像できない事象に対しては
確率を過小評価してしまいます。
これを検索容易性の認知誤差と言います。
冒頭の例ですと、飛行機事故で亡くなった人が身近にいると
より高めに事故率を想定しますから、飛行機に乗るのに
抵抗が出てきてしまうかもしれません。
株式投資でしたら、思いがけず、自分の持ち株が高騰した場合、
他の株も高騰する確率を実際より高く評価することになります。
この場合、本来の確率を忘れて、すっかり強気になってしまうわけですね(逆の場合も大いにあり得るでしょう)。
これは私の親戚の話なのですが、
不動産バブルの頃、素人だったにもかかわらず、
たまたま行った取引で多額の利益を上げてしまったんですね。
その親戚は、その後どうなったでしょうか?
“不動産はオイシイぜ!”といって他にも色々手を出した、
・・・のではありませんでした。
こんな奇跡はもう一生起きないだろう、
だからもう二度と不動産はやらない、という判断をしたのでした。
この場合は、おおむね正しい判断ですよね。
素人がそんなに簡単に資産を増やせるほど、
不動産投資は甘くありません。
(もちろん簡単に資産が増える時代もあったのでしょうけれど)
皆さんだったらいかがですか?
きちんと確率的に正しい判断ができますか?
続いて、係留(けいりゅう)です。
2.係留
こちらも実例から挙げてみましょう。
問1
「西アフリカにあるニジェール川の全長は1000km以上である、○か×か」
問2
「西アフリカにあるニジェール川の全長は何kmであるか」
何kmか、直感で想像していったん答えを出して下さい。
さて。この2問のうち、問1の1000kmの部分を
5000kmに書き換えて、問1,2を読んでみて下さい。
あなたの問2の答えはどうなりますか?
増えませんか?
人はどうやら最初に与えられた数字に強い影響を受けるようです。
これを係留(アンカリング)と言います。
係留とは、意思決定に無関係な最初に受けた事実や数値に、
つい固執して影響を受けてしまうことを言います。
Tversky と Kahneman は別の面白い実験をしたそうです。
2つのグループに瞬時に以下の計算をするように被験者に指示しました。
?8×7×6×5×4×3×2×1
?1×2×3×4×5×6×7×8
中央値を見ると(1)グループは2250で、(2)グループは512でした。
正解は40,320です。
最初に大きい数字である8が来ているグループの方が、
中央値が大きな値になっていますよね。
係留が働いて、最初に触れた数字が最終的な回答に
影響を与える良い例です。
最初に聞いた情報の影響力が大きめに出る、ということですから、
株式投資においても、特定の銘柄に関して、
最初に入手した情報を信用しがちになってしまうので、
それよりも、後から自分が調べ上げた情報を
より重視して投資をした方が良い、ということになりますね。
他に使えそうな場面としては、
お小遣いの金額交渉の際、交渉前に大きめの数字の話題を
たくさんしてみたり(あなたが決裁権者だったら逆の話題ですね)、
営業現場で雑談の際に大きめな数字の話題をすることによって
単価を引きあげてみたりとか、に使えるのかもしれません。
・・・いや、そんなにうまくいかないでしょうけれど(苦笑)。
さて、今回は、検索容易性、係留、による認知誤差を
扱いました。次回は、代表性簡便法について扱います。
それでは、また次回!
2007年11月15日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!
PS ちなみに、思考のショートカットという言葉はわかりやすさのための造語です。
Tversky と Kahnemanの論文には出て来るわけではありません。念のため。
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