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統計のお話 第18回「集団の知恵」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!
“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第18回」をお届けいたします。
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【ファイナンス編】集団の知恵
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集団の知恵、と言われて信じられますか??
“集団による意志決定”
と言われたら、どちらかというとマイナスのイメージを
持つ方が多いのではないのでしょうか。
実際、衆愚という言葉が存在するように、
集団というのは時として愚かな選択をします。
一方で、集団の方が賢くなる場合、というのも存在します。
専門性の高い個人や少数の専門家たちによる意見よりも、
専門性の高い人や低い人の存在を併せ持ったような集団の方が
結果としての意志決定のクオリティが高い、
ということが起こり得ることが分かっています。
例えば、誰もが知っているgoogleもその実例です。
googleの検索クオリティの高さは多くの人が
認めるところではないでしょうか。
(あくまでも他の検索エンジンとの相対的比較になりますが)
googleが何で集合による意志決定なんだ??
と思われる方も多いと思いますので、説明しますね。
googleの検索順位付けのロジックの内、最も重要なものは、
“どれだけ多くの(重要な)他者からリンクを張ってもらっているか”
というものだからです。
分かりやすい例を挙げますと、
料理に関する凄く良いページがあったとします。
どんなに良いページでも、誰からもリンクが張られていなかったら、
googleは注目しません。
多くの人が“この料理のページは良いよ!”ということで
自分のWebサイトで紹介をすればするほど、
その料理のページにたくさんのリンクが張られて、
結果的にgoogleが注目することになるのです。
つまり、googleは不特定多数の(集団の)オススメを
うまく重み付けして、検索結果の順位に反映させているわけです。
googleはこのように集団の知恵を活用し、
多くの人の信頼を勝ち取ったわけです。
一方、yahooの検索エンジンは日本以外の世界各国では、
あまり評価されていません。
時価総額で比較しても、7月24日時点で(1ドル=122円として)
googleは1596億ドル≒19兆4712億円!
米国のyahooは335億ドル≒4兆870億円
とgoogleに大きく水をあけられています。
yahooも今ではgoogleのような検索順位付けロジックを
組み込んでいるようですが、
昔はご存じの通り、(一部の専門家がカテゴリ分けを行って)
整理整頓していったものが検索エンジンの仕組みでした。
googleとyahooの例は、集団の知恵VS専門家で、
集団の知恵が勝った実例です。
(余談ですが、googleのブック検索は凄いですね。
蔵書を登録するのに、まだ時間はかかるでしょうけれど、
日本中・世界中の図書館の蔵書がPCから一発で調べられたら、
人類の知のスピードが更に増すことでしょうね。
最近のちょっとした業績予測との乖離による株価暴落を見ると、
アメリカ人は夢がないなぁ、と思ってしまいます 笑)
このように、Webというツールが広まったことで、
従来の、専門家による意志決定よりも
集団による意志決定の方が優れているという場合が
起こってきました。
同様に、株式市場も集団による意志決定という意味で、
集団の知恵が常に生きている場所です。
ソースは失念しましたが、
何千とあるファンドのファンドマネージャーの運用成績の平均値が
市場平均にすら勝てないというのも、
個人のファンドマネージャーがどれだけ優秀だろうが
集団の知恵にはかなわないことを表す実例です。
(もちろん集団の知恵によるもの以外に、
ファンドマネージャーの高い給与と証券会社の取扱手数料も
運用成績の平均値を押し下げる要因になりますが)
というわけで、集団の知恵というミスターマーケットの強さを
考えてみたわけですが、このミスターマーケットは
常に強いのでしょうか??
と言われれば、実際はそこまで強くもないですよね。
皆さんもその点は納得いただけるのではないでしょうか?
ミスターマーケットは癇癪持ちでパニック症候群という
持病を抱えている人のように語られますからね。
それによる市場のひずみは存在するわけですし、
株価の暴落や暴騰も当然あるわけです。
しかし、癇癪やパニックを起こすとき、以外のほとんどの時間は
ある程度真っ当な判断を下しているともいえるわけです。
逆に言うと、癇癪やパニックを起こすとき=投資タイミングであり、
集団の知恵が何かしらの事情で一時的に有効に働いていない、
と言うわけです。
さて、次の4つの条件は、集団の知恵に関して扱った書籍
(みんなの意見は案外正しい[原書タイトル:The Wisdom of Crowds])
からの引用ですが、下記の4条件のいずれかが満たされていない場合は、集団の知恵が働かない、とのことです。
1.多様性(各々が自分の考えに基づいて行動している)
2.独立性(他人の考えに左右されない)
3.分散性(身近な情報や各々の専門情報に特化し、それを利用可能)
4.集約性(個々人の意見を集約して、意志決定の基準の一つにするフィードバックシステムの存在)
株式市場は上記4条件が比較的満たされていそうですよね。
そして、満たされない場合もありそうですよね。
例えば、特定のニュースが大メディアに流れ、
1の多様性、2の独立性のどちらか、あるいは両方が失われた場合、
暴落や暴騰が起きます。
つまり、集団の知恵が喪失し、愚かな選択がなされてしまうわけです。
そして、そのタイミングが投資のチャンス!!
ということになるわけです。
さて、ここまで集団の知恵という新しい概念の強みとその条件を
扱ってきましたが、集団の知恵は当然ながら
うまくいくことばかりではありません。
4条件が満たされないことによって起きること以外にも、
以下のような現象が起きることが分かっています。
・情報カスケード現象
情報不足な集団が誤ったフィードバックを得て、それを積み重ねてしまい誤りが増幅する現象
・シェリングポイント現象
暗黙的に調整が起きる現象
・フリーライダー現象
集団で共同作業を行う時に、一人当たりの仕事量が人数の増加にともなって低下する現象
詳しくは前述の書籍をご覧下さい。
いずれにしろ、集団の知恵には、当然のごとく
欠陥が潜んでいるということです。
そして、現実社会では、大規模な機関投資家は
リスクヘッジのために、小型株に対しては売買の制限を
自主的に設けていたりします。
例えば、○○○億以下の銘柄はそもそも保有しないなどといった
基準がファンドごとにあるわけです(ない場合もあるでしょう)。
その基準は前述の4条件のうち、
1の多様性と4の集約性を破るものですから、
時価総額の大きい銘柄に比べて相対的に、
時価総額の小さい銘柄は投資のチャンスが
多いということになるでしょう。
チャンスはいつか、かつ、確実に訪れるわけです。
ですから、そのタイミングになってあわてることのないように、
ミスターマーケットが好調なときに、
投資をしたい銘柄の候補をじっくり選んでおきたいですね。
さて、長くなりましたが本日のエッセイのまとめです。
1.市場がつける値段は案外正しい。
2.正しくなくなるときは条件がある。
3.正しくないときが投資のチャンス!
4.チャンス到来に備えて、準備すべし。
4.の準備をしたい方は是非!セミナーへお越し下さいね!
それでは、また次回!
2007年7月26日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!
統計のお話バックナンバー
統計のお話 第17回「晴れた日は投資をしよう」
PS
今回は統計的なワードは出てきませんでしたが、
集団の知恵を利用することで個人が犯しやすい過ちが相殺される
という考え方は、実験計画法という統計分野における
直交表というツールが持つ概念と全く同じものです。
実験計画法については、また別の機会にお話ししましょう。





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