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統計のお話 第7回「株価分析」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!

“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第7回」をお届けいたします。

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1.【日常生活編】直近の未来の株価を予測する?!
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「株価を統計的に予測することはできます?」
といったような相談(雑談)をされることがたまにあります。
(ちなみに合宿セミナーの卒業生の方には
上記の質問をされたことはありません)

私からの回答はエッセイの最後に示しますが、
今回は本統計エッセイの趣旨を考えて、
“回帰分析”で行うとどうなるかのお話をしたいと思います。

“回帰分析”

すでに、この言葉の響きに、すでに嫌悪感を覚えた方も
いらっしゃるかも知れませんね(笑)。
しかし、概念は非常に簡単ですのでご安心ください。

着目したい変数(株価)を別の変数(日時)で
表す式(回帰式と言います)を求めます。

この式から未知の値を予測したり、結果検証したり、
要因分析などを行うこと全般のことを回帰分析といいます。

説明はこのくらいにして、実例で見てみましょう。

直近の10日間の日経平均の推移が下記のようであったとします。


11日目の日経平均がいくらになるか、回帰分析で予測してみますね。

まず、エクセルで、ツール(T)-分析ツール(D)-回帰分析を選択します。

入力Y範囲:には10日分の日経平均の値を、
入力X範囲:には10日分の日時のデータを選択し、
OKボタンを押すと下記のようなシートが出てきます。


やる気をなくすような数字の羅列ですが(笑)、
今回使うのは赤丸が付いている部分だけですのでご安心下さい。

さて、(1)の部分をご覧下さい。

切片:16934.038
日付:37.908

この数字の意味は、
0日目時点で16934円で、
1日経つごとに、37.9円ずつ増えていく
という式が、この10日間を最もよく表している
ということです。

図にすると以下のようになります。

さて、回帰式が求まりました。

ここで、(2)の重相関Rと重決定R2という数字があります。
Rは相関係数で、R2は決定係数です。
(相関係数についての詳細はこちらをご覧下さい)

RもR2も1に近づけば近づくほど相関が強く、
1で完全に相関していることになります。

今回はRが0.96…、R2が0.93…ですから。
この場合、日時と株価の相関は非常に高いということがいえます!

回帰式まで出たわけですから、明日の日経平均が予測できます。
多少前後はするでしょうが、
上図の式のxに11日目の11を入れた値が
明日の予測値になります。

y=37.9×11 + 16934 ≒ 17351

となるわけです。

よぉ??し、これで明日は大儲けだ??!なんて。

ここまで読み進めて、
直感的に“なんとなくおかしいよなぁ”と
思った方は、大正解です!

実際、日経平均は次のように推移しました。

なぜ、回帰分析による予測値が外れてしまったのか。

原因は、日時と株価に因果関係が少ないから、です。

「・・・そうか!
ということは、因果関係の強い指標と株価の回帰式を
求めれば、明日の株価がある程度予測できるかもしれない!」

「例えば、
明日の株価=aד10日移動平均”+bדPBR”+cדPER” ・・・
といったように要因をたくさん加えれば加えるほど、
株価予測モデルは精緻になり、明日の株価を予測できるように
なるはず!」


・・・なんていうことも、あまりないんですね。

こうした回帰式は過去にどの程度の期間を取ったかによって
変数やそれに対応する係数(上の式のa,b,cに値するもの)が
大きく変わってしまうんですね。

さきほど、10日間の推移を見ましたが、
下記にその続きを含めた18日間の回帰式を求めました。

y=5.12x+16977
y=37.9x+16934

期間が変わるだけで回帰式が随分変わってしまいましたね。
当然予測結果も異なるものになるでしょう。

とる期間によって時間と値の相関の度合いが変わってくるものに
例えばβがありますよね。
(参考エッセイ:SMU 第168号「β(ベータ)」)

βがそれほどうまく行かないように
残念ながら回帰式も株価の予測に関しては
うまくいくことはありません。

歴史的に見ても、
株価は、数学的に予測できるかもしれない!と
多くの先人達が挑戦し、夢破れてきました。

中には、ちょっとした先のことであれば
予測可能な式も出てきて、それを商売にした方も
いらしたようですが、今では話も聞きません。
永続的に当たり続ける、なんていう式は今後も出ないでしょう。

なぜかというと、株価は人の心が動かしているからです。
集団心理を完璧に数式に表すなんて、とても出来そうにありません。

(もちろんDCFで求めた株主価値に中長期では近づいて、
そういう意味では予測可能とも言えますが)

まだ誰も発見していない数式を発見しようと
チャレンジするのは個人の自由です。

ですが、有名な投資銀行には、
世界の一流大学を主席で卒業するような
数学のプロフェッショナルがいます(クオンツと呼ばれます)。
彼らエリートが最先端の高度な数学的手法を使って、
市場を分析したり、投資戦略や金融商品を
考案・開発したりしています。

彼らは様々な数学的アプローチを駆使して
他のクオンツよりも優れたモデルを作り出そうと
日夜研究しています。

あなたが、
彼らと少なくとも同等か、より優秀で、
彼らよりも少なくとも同等のリソースが使える状況にあり、
それだけを生業として生きている人であれば、
チャレンジすることは良いかもしれません。

そうでないのなら、あまり賢明であるとはいえません。

ちなみに、こういった世界の一握りの超優秀な人たちですら、
ライブドアショックが起きて、レバりすぎた個人が
ライブドアに関係ない株まで売却して
日経平均が500円ほど下がることまでは絶対に予測できません。

以上を読んで、すでにお解りいただけたと思いますが、
冒頭の質問、「株価を統計的に予測することはできます?」
に対する答えは、下記の通りです。
「少なくとも僕はできないし、やろうとも思いません」

で、そういう風な問いをする方には必ず当事務所の合宿セミナーで
真っ当な方法を学ぶようにお勧めしています(笑)。

そちらの方が、長い目で見た場合
 ・人生の大事なリソースである時間と
 ・時間の次に大事なリソースであるお金を効率的に活用していることになり、
 ・投資以外の考え方や意思決定にも応用が利き、
 ・皆がハッピーになれる
ので、結局はお勧めなのです。

さて、今回の日常生活編はいかがでしたでしょうか?

日常生活で、回帰分析を使うマニアックな方は
いらっしゃらないでしょうけれども(笑)、
せっかくの機会ですので、回帰分析の概念を
頭の片隅に入れてみてくださいね。

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2.【ビジネス編】あなたのビジネスに統計を活用する方法
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さて、本日のテーマは回帰分析です。
回帰分析が株価の予測にあまり役に立たないことを
すでに書いてしまいました。

しかし、ビジネスでは回帰分析は非常に役に立つんですね。
株式投資と違って、日時と売上に相関がある状況も
たくさんありますしね。

ここでは、一例を挙げます。

 ・駅からの距離、築年数…などから最適な家賃を算出する
 ・新商品と既存商品の相関が高いものを選び、新商品の売上を予測する
 ・季節要因も考慮し、年間の販売予測を行う。

家賃の予測をしたい場合、家賃のことを“目的変数”と言い、
家賃を決定付けるほかの要因(例えば駅からの距離など)のことを
“説明変数”と言います。

何か予測したい事象(目的変数)がある場合、
その事象を引き起こす要因(説明変数)を
全て挙げて、過去のデータを取得し、回帰分析を行えば
何かしらの回帰式は出ます。

分析自体は日常生活編に書いたとおりですので、
是非ご自身のビジネスに役立たせることが
できないかを考えて、挑戦してみてくださいね。
面白い考察が得られると思いますよ!

2007年1月23日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!

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統計のお話 第6回「検査結果で陽性が出た!」

次回のパートナーエッセイは1月25日(木)にTakamura氏が担当します。





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