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統計のお話 第8回「あるある大事典のウソ」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーのK.Shimodaです。
本日も統計の時間がやってまいりました!

“読むだけで数字に対する直感力が身に付く”
「統計のお話し 第8回」をお届けいたします。

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1.【日常生活編】テレビ実験のウソ
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最近テレビを賑わしているあるある大事典のデータ捏造事件。
皆さんいかがお思いですか?

当事務所のWebをご覧いただいている皆様は
おりこうさんが多いと思われますので、
それほど惑わされなかったと思います。

あるいは、ファイナンスには詳しい方でも
ああいう科学(っぽい)番組には
信じ込んでしまうこともありますでしょうか。

さて、今回は、あるある大事典を見て、
食材を買いに走ったことが一度でもある方は
必見の内容です。

テレビの実験に惑わされないために、
テレビがよくやるオカシな実験のパターンを2つ挙げて
手口がどんなものか、をお伝えしようと思います。

実験に対する視聴者のリテラシーが高まって、
テレビ媒体がより良いものになることを夢見つつ、
早速いってみましょう!


■テレビで行われる実験のオカシな点(1)?条件がバラバラ

納豆を食べると痩せる、というようなことを実験で証明したい場合、
20人の被験者がいたら、20人には、納豆を食べること以外の
条件もそろえてもらわなければなりません。

もしバラバラで良し、とすると、人によっては、
同時期にこんにゃくも食べていて、そちらの方が
ダイエット効果が大きいかもしれませんし、
また、人によっては、前日たまたま運動をして、計測日に
減っていたのかもしれませんし、
あるいは納豆が嫌いな方は、この実験が、心理的に苦しくて
痩せた方もいるかもしれませんし、
中には、テレビの実験だから痩せられなかったら恥ずかしい!
と思う効果のおかげで痩せられたのかもしれません(笑)。

こういったことをさせないために、
実験の条件をそろえる必要があります。
具体的には、
同じ場所に集まって、
同じものを食べて
同じ時間に眠り、
同じ時間に起きて、
同じ水の量を飲み、
同じように排泄し(これは難しいか…)などなどです。

さらに、この場合は、
プラシーボ効果を見るために、被験者を
2グループに分ける必要があります。

プラシーボ効果とは、偽薬効果とも呼ばれ、
実際には効果のない薬を与えてたとしても、
暗示効果や自然治癒力などにより起こってしまう効果のことです。

この場合だと、納豆を食べさせるグループと
効果がないことが実証されている別のモノを食べさせるグループに
分けた上で、上記のように、実験の条件を揃えてデータを取ります。

こういったことをやって初めて、
正しい実験のデータが手に入るのです。

■テレビで行われる実験のオカシな点(2)?サンプル数少なすぎ

こういった実験では、普通、個体差や誤差が大きく出ます。
何しろ、実験室のビーカーや試験管内の液体ではなく、
生身の人間が対象ですからね。

さて、そもそもですが、お酒を少し飲んでも、酔う人と、
ガブガブ飲んでも酔わない人がいますよね。

全く同じように、ある食品を食べても
痩せる効果のある人、ない人がいるわけですね。

効果のある人の中にも、
激しく効く人もいれば、
少しだけ効果が出る人もいます。
中には逆効果になる人もいるかもしれません。
こういった個人による効果の表れ方の差を“個体差”と言います。

また、仮に効果の出る人が同じ実験をやったとしても、
実験ごとに多少の誤差が出るはずです。

例えば、計量カップに、牛乳を100ml入れるという実験をします。
毎回、全く誤差がなくピッタリ100mlを入れられる人は
いないでしょう?
全く同じ技術力で全く同じ筋肉量であったとしても
多少のズレが生じるものです。
あるときは98mlだったり、別のときは103mlだったり。

こういった、同じ条件下でも実験回数により生まれる差を
“誤差”と言います。

こういった“個体差”や“誤差”が生まれることが前提で、
サンプル数がいくつ必要なのか、といったような計算も
本来は非常に重要です。
(これは統計学的に求められますが、
話がそれるためここでは割愛します)

いずれにしろ、こういった類の実験で、10人や20人ぐらいじゃ
圧倒的にサンプル数が足りないのは明らかであることは
覚えておいて下さいね。

また、他にもサンプル数が少ないことの問題点があります。
それは、10人のサンプルのうち、8人が当てはまったので、
8割の人に効く、と言ってしまうことです。

8割の人に効くっていうと、いかにも自分にも
効きそうな気がしますよね。
確かに10人中8人というのは、数字だけで見れば8割ですが、
ここでは、あくまで10人中8人というだけですからね。
(あるあるの場合、それすらも、本来15人ぐらいで実験を実施し、
都合の良いデータが出た被験者8人を取り出している
という話も出ていますが。)

これが偏りのない10000人のうち
8000人に効いた、というのでしたら
8割の人に効くと言っても良いでしょうけれど、
たった10人のサンプルで8割と言ってしまうところが
相当危険です。

さて、二大突っ込みどころを押さえたところで、
テレビの現実に迫ります!

■テレビの深層へ・・・

テレビ局の友人曰く、
「ああいう週刊の1時間番組を作るのには
1ヶ月ぐらいしか時間が取れない」
らしいです。

1,2週間かけて、被験者に納豆を食べさせて、
「効果が出るか分からなかったので、もう1回!!」
というわけには行かないわけですね。そんな時間も予算もありません。
何せ放送日は決まってますから!

この事実だけで、テレビで行われる実験の大部分がウソであることが
バレてしまいますね(笑)。
正しい実験を正しい回数で、できるとは到底思えませんね。

そして、さらに。
テレビの場合は、スポンサー様や利害関係者のご意向があります。
(あるあるのスポンサーはどこだったでしょうか(笑)???)

あるあるで言えば、そのご意向とは、
スポンサー様の商品が売れるような番組内容にしなさい、
ということです。
そこで、スポンサー様が販売している製品の主な購買層である、
30?40代の女性にとってキャッチーな番組内容になるわけですね。

さらに悪質なことに、
番組中には太ったり、肌が衰えたりすることへの恐怖を
さんざん煽ります・・・

ハイ、ここでCMへ。
視聴者の恐怖を煽った後に、
その問題を解決してくれるスポンサー様の製品を宣伝する。
う?ん。うまく出来ているというか・・・、
ここまでくると恐いですね?。

番組内では視聴者に、番組内容をより深く信じてもらうために、
科学的(っぽい)実験が必要になってくるわけですね。

これぞ、スポンサーのための、究極のポジショントーク!
ならぬ、ポジション実験!
(参考:SMU 第182号「ポジショントーク」)

ところで、お読みいただいている方の中で、
こんな疑問を持った方はいますか?
「そんなことをやったら番組制作者は詐欺罪で逮捕されるのでは?」

ところが、テレビマンが捏造で逮捕された、
という話は聞いたことがありません。

なぜなら、テレビマンはスポンサー様に対して、
実刑をくらう危険を冒すほどの忠誠心があるわけでは
ありませんからね。
あくまでココロではなく、お金の関係です(笑)。
ですから、用意周到に、学会での発表、論文等から元ネタを選びます。
その後、テレビ実験で、検証して、
見た目に、分かりやす過ぎるように、伝えるわけです。

これならもし間違いが発覚しても、元の資料が悪い、
ということに出来ますからね。

このように法律に触れないように、
かつスポンサー様が満足するように番組を作るのが、
彼らの使命といったところでしょうか。
(もちろん素晴らしいコンテンツを提供するテレビ関係者も
たくさんいらっしゃるとは思いますが)

■最後に。

そもそも、ぶっちゃけてしまいますが、
特定の食材を食べただけで健康になれる、とか、
○○を▽▽ぐらい毎日食べれば痩せる、とかありえませんから(笑)。

仮にそういうものがあったとしても
すでにお話したとおり、人間には個体差があるので、
効かない人もたくさん出てきます。

そして、効いた人も、それの恩恵にあずかれる期間は
わずかなものでしょう。人間の身体には慣れや適応が
存在するからです。

例えば(ソースは失念しました)、南方のとある森では、
肉類を食べずにほとんど芋しか食べない(たんぱく質を摂っていない)
種族がいます。ですが、彼らの身体は筋骨隆々で健康そのもの!
彼らの多くが、惚れ惚れするような筋肉の持ち主です。

そして、たんぱく質を摂っていないのに、
筋肉がたくさんできる理由はなかなか興味深いものでした。

それは、本来人間には備わっていない酵素の力によるもの
なのだそうです。彼らには、芋の炭水化物を体内で
アミノ酸(たんぱく質を分解したもの)に変換できる酵素が
後天的に身についているとの事でした。

そして、彼らと同種族でなくとも、
半年間以上、その地に住み、彼らと同じものを食していると、
その酵素を作ることができるようになることが多いのだそうです。

このように、人間は、かなり偏った食生活でも、
それに適合し、最適な身体に変化していく力が備わっているのです。

特定の食材を食べ続ける(あるいは一切食べない)ことによって
身体に起きる変化というのは、長い期間続けていれば、
人間の身体の方が環境に適合し、
当初のような効果を生まなくなってしまうでしょう。

ちなみに、これは私の体験談なのですが、
痩せようと、食事量を減らしたことがありました。
摂取カロリーが少ないので、当然ある程度までは痩せるのですが、
その後は、体温が下がって、より低燃費な肉体になっただけでした(笑)。

そして、残念なことに、それ以後は食べ過ぎるとすぐに太る体質に。
・・・あ、これは年齢のせいかも知れません(苦笑)。

また、身体の環境への適合とは話題が異なりますが、
実際の実験について、お伝えしたいと思います。

正しく実験するというのは、本当に大変なことです。
化学系の研究をされていた方なら、身に染みてお分かりだと思います。

あらゆる化学反応は、温度・圧力・湿度などによって変わりますし、
分量をわずかに間違えただけで結果が変わってしまう
ことだってあります。

こういう微妙なさじ加減が要求される実験の場合は特に、
正しい実験をするために、繰り返し繰り返し、
何度も実験を行ったりします。

その結果、やっと数%だけ数字を改善する方法が
見つかったりするのです。
(見つからないことも多々あります。)

科学に限らず、実験は真実に近づけば近づくほど、
旧来の実験による数値と新しい実験による数値に
それほど大きな差が出ません。

そのわずかな差という大きな成果を追い求めて、
研究者は日々、様々な仮説⇒検証を行っているわけですからね。

当Webをご覧の皆様はくれぐれも、
テレビによる、白衣を着た人たちによる実験に
惑わされないでくださいね。

そして、そのスポンサー企業のことをよく見てみましょう。
あまりに悪質なようであれば、
あなたのポートフォリオには加えない方が賢明でしょうね。

その企業が、逆に凄くおりこうさんだとしたら。
そのときはあなたの信念を曲げない形で、
社会に対する議決権の行使の是非を判断してくださいね。

今回はビジネス編はお休みです。
次回をお楽しみに!

2007年2月13日 K.Shimoda
ご意見ご感想、お待ちしております!

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統計のお話 第7回「株価分析」

次回のパートナーエッセイは2月15日(木)にTakamura氏が担当します。





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