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会計ばなし 第7回「一個あたりの原価は!?」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの大橋です。

突然ですが、
みなさんの中にはハンバーガーを食べながら、
「これって原価はたかが知れてるよね。」とか、
「原価なんて売値の一割も無いんじゃない?」
なんて会話をしたことがあるかもしれません。
僕はあります。
ハンバーガーに限らず、牛丼でも、缶コーヒーでも構いません。

その時に会話に出てくる「原価」は何を指しているのでしょうか。
材料を運ぶ費用まで考えている人、
お店の店員さんの人件費も含めて考える人、
様々だと思いますが、多くの場合は原材料を指して原価と呼ぶのかもしれません。

普段の会話ですから原価が何を指していようが、
お互いに言いたいことが伝わっていればいいと思います。
しかし経理の人に、
「ハンバーガーの原価なんてたかが知れてるよね」なんて言うと、
レタスやベーコンとは答えずに上記費用について、
とうとうと語りだす危険性があるので充分に気をつけてください(笑。
で、その経理の人に言わせると原価は売上原価になるとおもいます。

売上原価は損益計算書で確認すると、売上のすぐ下に記載されていますが、
中身についてはあまり詳しく見たことがないかもしれません。

製造会社で話を進めると製造原価明細書というものを見るのが
いいかもしれません。
大抵、損益計算書の次に記載されていて
その中身は材料費、労務費、経費となっています。
それぞれの中身についてよくセミナーで質問を受けることも
多いので簡単に説明します。

まずは材料費になります。
製造業の製造原価を見てみると、
原価の50%以上を占めるなんてことはざらです。
いや、実際にはもっと材料費率の高い企業が多いでしょう。

続いて労務費。
ここで言う労務費は製造に関わる従業員の労務費を指します。
製造ラインで作業をする人、
製造機械をメンテナンスする人
工場内で製品の運搬をする人、
などです。
営業マンや経理マンの給料はここでは含まれていません。
では、彼らの人件費はどこにあるの?と言えば、
売上原価と売上総利益の次に表示される
販売費及び一般管理費の中にいます。

さて、最後に経費。
これはもう幅が広いのですが、大きなものでは
工場建物や機械設備の減価償却費です。
経費の中に占める割合が大きいので製造原価明細書の欄外に、
金額が注記してあることが多いです。
あとは材料費と人件費以外の製造に関する費用すべてです。
例えば、電気代、機械設備を動かすための燃料、機械設備のメンテナンス費用、
などなど挙げれば切りが無いですね。

とまあ結構色々な費用が含まれていますが、
これら材料費、労務費、経費を全部ひっくるめて
製品一個あたりの製造単価を計算します。
それが一旦在庫として資産となり、
売れたものは売上原価として費用となります。

例えばリビングにあるテレビ。
これをじっと眺めていても製造原価の中身が見えてくるわけではありませんが、
テレビ一台の原価の中には労務費も減価償却費も含まれています。
他にも工場建物に掛かる税金、工場の照明代、などなど色々です。

しかし僕自身の本音を言ってしまうと、
どう考えてもテレビの原価として、
工場建物に掛かる税金や工場内の照明代を含めるのは
しっくりきません。
なぜかというと、
税金や照明代などの製品一個あたりに掛からない費用は
機械の稼働時間、簿価、製造ラインの面積で割当てられるからです。
なんだか無理やりに思いません?(笑。
(会計の無理やり感について:SMU 第65号「会計の摩訶不思議」

ですから最初のハンバーガーの会話のように、
原材料を原価とするほうが実に自然な発想だと思います。
だってハンバーガーに電気代が含まれているとは考えないですよね?普通。(笑

ただそうやってしっくりこない基準を使ってでも、
製品一個あたりの単価を計算するのが経理(原価計算)の仕事のひとつであり、
そうせざるを得ないというのが本音です。

なぜならある製品原価が高い理由を問われて、
そのラインにある設備簿価の大きさや職場面積の広さなどから、
費用負担が大きくなるのは妥当(!?)、または仕方ないのだと、
もっともらしく説明するためです。

まるで資本コスト計算の根拠を求められたときに、
CAPMを使っていれば広く一般に認められたものだからと、
もっともらしく説明するのと似ています。

両者ともに悪いと言っているのではありません。
広く一般に妥当と思われているものも結構曖昧な基準で
計測されていることがあるということです。

ですから一個あたりの原価は費用の割当方次第とも言えます。

そういった基準で売れていない製品に費用が多く回れば
在庫のままでなかなか売上原価として費用になりませんし、
売れている製品に費用が多く回れば売上原価は大きくなります。

物は言いよう、という感じですが、、、

会計には「物は言いよう」という部分がとっても多いということには
このウェブの読者のみなさんならとっくに気が付いているかもしれませんね(笑)

今後はその「物は言いよう」というところもこのエッセイ
で度々触れていきたいと思います。

2007年2月3日 N.Ohashi
ご意見ご感想、お待ちしております!

次回のパートナーエッセイは2月6日(火)に石野さんが担当します。

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会計ばなし 第6回「過剰在庫はいかがなものでしょう