板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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会計ばなし 第3回「利益は手許の現金と同額でない」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの大橋です。

Cash is KING

橋口さんのビジネススクール時代の会計の教授は
Cash大好き先生だそうです。
「Accounting Profit(会計上の利益)は駄目。Cash。Cashが命!」
そして挨拶がわりにCash、Cashと繰り返す、とのこと。
「元気かい?キャッシュ」
「ところで今度ご飯でもどうだい?キャッシュ」

コンテクストを全く無視した会話。
いや、洗脳!?
ちょっと、意味がわかりません(笑)、が
結局現金が大切なのだというメッセージとして
これ以上のものはないでしょう。

会計というのはとても優れた技術だと思いますが、
少々、臆病であったり保守的であったりします。

貸倒引当金というのがその一例です。

商品をつけで売ったとき。
会計では帳簿に売掛金という項目で記帳します。
この売掛金が万が一回収できなかったときのために、
先に一定の率で損を計上しておくのです。
起こりうる損失に対して先に損を認識する。
実に臆病であり、保守的であると思います。

ところが売上については、
一概に保守的とは言えないかもしれません。
お金は後でいいからねと言って商品を渡す。
渡したそのときに、売上として帳簿に記帳するわけです。
仕入れについても同様で、
お金は後から払いますといって帳簿に仕入れの記帳をします。

本来ならばその対価としてのお金を受け取ったとき
初めて売上とするのが自然な感じがします。
(支払はその逆ですね。)

会計の世界にいると、
商品を渡した時点で売上とするのが当たり前のような感覚になってくるので不思議ですね。

さて、
物を渡したときに売上とする。
現金を受け取ったときに売上とする。

前者を発生主義。
後者を現金主義といいます。

先に例えで出した二つの取引。
貸倒引当金も掛売上・仕入も取引を行った時点では現金の出入りはありません。
これらは発生主義です。

企業の場合は二つの例のように、
だいたいにおいて発生主義が多いようです。

一方個人は財布からのお金の出入りが基準です。
コンビニ・デパートでの買い物にいくら出したか、
いくら手許に残ったか、
次の給与はいついつだ、
などです。

毎日働いていても、わざわざその日の働き分を収入として家計簿には記帳しないと思います。
カード払いでも、カードを使った日に記帳するのではなく、
支払を先に延ばした決済日に記帳をしますよね。
いや、そもそも家計簿なんてつけていないのかもしれません(笑

個人の取引量は記帳するまでもなく、
覚えられる範囲のことが多いからだと思います。

ただし、カードのボーナス払いなどは、
収入以上の買い物が出来たりしますから気をつけないといけません。
実は僕も先日の夏ボ払いはかなり焦った口です。
欧州旅行の際のユーロ高。
なかなかパンチが効いていました(笑

少々話しがそれました。

企業は信用(!?)のもと手許現金以上の取引をしますし、
その取引量も多いです。
そして後から現金払い、回収を行いますから
忘れないために記帳する技術が発達したのかもしれません。

結局、
大事なことは会計上の売上額・利益額が
額面通り手持ちのキャッシュとイコールでないこと。
これを認識しておくこと。

なぜこれを認識する必要があるかというと、
企業価値評価はキャッシュフローをベースに行われるからです。
なにより事業を営む上ではキャッシュは必要不可欠ですね。

ただ、イコールではないと言っても
しっかり支払回収を行っていけば
同額ではないけれどもそれ相応のキャッシュが手許に残る。
これも確かです。

やみくもに、
「会計の利益はあてにならん!」
ということではなくて、
その裏づけとなるキャッシュフローを探ることが大事です。

さて次回は冒頭に少しだけ登場した現金支出の無い費用、
「引当金」についてもう少し触れていきたいと思います。

2006年11月25日 N.Ohashi
ご意見ご感想、お待ちしております!


次回のパートナーエッセイは11月28日(火)に石野さんが担当します。

バックナンバー
会計ばなし 第2回 「減価償却費ってどうよ」

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