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会計ばなし 第8回「しっかり説明できますか!」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

みなさんこんにちは。パートナーの大橋です。
原稿締め切りが過ぎマクロブレイン社の榊原さんに怒られました。

以下マクロブレインの榊原さんより
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たいへん心苦しいのですが、でも、これが私の仕事です。

大橋さん

エッセイの締切がいよいよ過ぎてしまいました。
明日中にいただけないと困りますよー
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だんだん気持ちよくなってきました。
でも、ごめんなさい。

参考エッセイ:「マクロブレインな人たち」

さてさて、
最近よく聞かれる言葉で
「Accountability」
というのがあります。

日本語では「説明責任」、場合によっては「会計責任」と
訳されています。

僕がこの言葉を最初に聞いたのは
アメリカでの会計の授業でした。
資金提供を受けた者は資金提供者に対してその活動内容に
ついて説明責任を果たす義務があるといったことだったと思います。

当時はエンロン事件が起きたばかりで、
エンロン株で大損してしまったお年寄りがテレビに登場しては
エンロン批判をしている映像が流れていました。

大学の教授陣もこのエンロン事件を引き合いに
Accountabilityという言葉を沢山使っていました。

なにやらAccountabilityなんて難しい言葉を使っても、
結局は、
しっかり説明しろよ!
嘘つくなよ!
という子供が最初に教わるようなことだなと思ったのを覚えています。

日本で会計の勉強を始めたころに財務諸表作成の意義について
まず習ったことを思い出します。
資金提供者である投資家(株主と債権者)への報告のため。
続いて、これからの資金調達のために潜在的な投資家へのアピール。

これにAccountabilityという言葉を加えれば、
ただただ報告すれば良いということではなくて、
投資家に対してタイムリーかつ実態の伴う事業活動の内容を
説明するということになると思います。

ここまでは一般的な話で僕もご他聞に漏れず、
企業の説明責任の範囲は投資家、
つまり、
株主と債権者のみと思っていたわけです。

概ね間違いではないとは思いますが、
改めて考えると実に狭い料簡だったと思います(苦笑

考え方が変わってきたのは企業価値評価を勉強し始めてからです。
「企業価値(図解)」というエッセイの中にある、
図が示すとおり企業とは企業に関わる全ての人の
ベネフィットを最大化する仕組みです。

つまり、ベネフィット最大化の仕組み図を見ながら
企業は投資家だけでなく、
従業員、
仕入先、
国、
そして顧客への
説明責任があると思ったわけです。

説明の方法はそれぞれ色々あると思います。
例えば顧客に対してであれば自社の製品やサービスを通して
その企業の哲学やアイデアを説明するのが良いと思いますし、
従業員であれば、給与を含む待遇などで説明するのも一案でしょう。
仕入先に対しては滞ることなく支払を行っていく。
もちろん財務諸表は上記全てのステークホルダーに対する説明であるべきだとも思います。

要するにそれぞれのステークホルダーに対して
責任ある態度、行動を示すことそのものが、
説明責任であると思いますし、
そうやって説明責任を果たすことがステークホルダーの
ベネフィットを最大化することにつながると考えます。

このように捉えれば、
エンロンのような財務諸表の粉飾はもちろんのこと、
不二家の期限切れ材料の使用などという、
一見財務諸表と直接的に関連のないようなことも、
説明責任を果たせていないうちのひとつです。

やってしまってからの説明(釈明)ではなくて、
あるべき正しい姿を説明し続けることが説明責任だと思います。

ですから説明責任とは僕なりに解釈すれば
「正しくある」
ということです。
もしくは
「真っ当である」
というのがより良いでしょうか。

正しくある、真っ当である、
それぞれ各人の思う正しさ、真っ当には若干の違いが
あるかもしれませんが、
少なくとも嘘をつく(粉飾会計)などという考えには至らないと思います。

自信を持って説明できる行動を取り続け、
企業であればそれに伴い財務諸表(有価証券報告書)という形で、
その活動内容をしっかり報告するということが説明責任を
果たすということだと思います。

ただ…
そうは言っても作る側は大変です(笑
普段経理業務に携わっているので常に
部分的には財務諸表作成に関わっていますが、
単体の非公開会社の財務諸表を一人で作っていたりもします。
ひとりで作ると公認会計士は当然僕に指摘をしてきます。

しかし明らかな間違いを除けば
正直その指摘箇所が違っているとは思えないことが時々あります。
違っていると思えないどころか、
最初はそれが正しいと思っているのです。
詳しく書けないのが残念ですが認識の違いとでもいいましょうか。

そんなときに思うわけです。
ひょっとしたら世の中の粉飾事件も最初の最初は
それがあるべき会計処理という認識のもと、
スタートしている場合が結構多いのかもしれない。
(もちろん最初から作為的なものもあるでしょう)

正しいと思っていたことが、問題ないだろうになり、
問題ないだろうから、まあ大丈夫だろうに開きなおり
大丈夫だろうの開きなおりが、少しなら変えても良いだろうになり、
終いには間違いに気が付きながら意図的に悪さを働いてしまう。

粉飾のニュースを見る度に自戒の意味を込めて、
どこにその変化点があったのだろうと考えてしまいます。

ですから、正しいと思ったことでも指摘を受けたときは
素直にもう一度自身に問いただすようにしています。
これは何も会計だけに限りません。
一旦良いと思ったらなかなか他を受け入れる姿勢になりにくいものです。

ところで冒頭のようなメールが
マクロブレインの榊原さんから届き、
ごめんなさいメールを送るたびに、
僕自身が説明責任を果たせていないじゃないかと反省するわけです。
これに認識の違いはなく言い訳の余地はありません。

正しくあれ、俺!

2007年2月17日 N.Ohashi
ご意見ご感想、お待ちしております!

次回のパートナーエッセイは2月20日(火)に石野さんが担当します。

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