板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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会計ばなし 第2回「減価償却費ってどうよ」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの大橋です。

前回の最後に書きましたとおり今回は
「減価償却費」について書いてみたいと思います。

セミナーでファイナンスの講義を担当する石野さんは
銀行マン時代に減価償却費を理解するのに5年かかったと言っています。
それほど難しいのだよと、講義で力説するわけです。
しかし、いくらなんでも5年というのはご本人の勉強不足とも思います(笑。

さておき、確かに難しい箇所であり、
バリュエーションを学ぶとき減価償却費にひっかかる方が多いのも事実のようです。

ここで言う「ひっかかる」には2種類あると思っています。
ひとつは、減価償却そのものの意味について、
もうひとつは、フリーキャッシュフロー(FCF)を求める時、
なぜ営業利益に減価償却費を足し戻すのか。

まずは減価償却費とはなんぞや、というところから。

ここでは減価償却費の大きい製造業の話をしましょう。
製品を作るためにまず設備投資をする必要があります。
工場建物であったり、
生産設備機械であったり、
生産ラインの工程管理をするコンピューターであったりとさまざまです。

それぞれに投資をすると、会計処理としては一旦固定資産として資産の部に計上されます。
バランスシートの現金預金が固定資産に姿を変えてしまう、
という言い方もできます。

設備投資額というのは大抵が大きいものですから
一括費用計上してしまうと、
投資実施の会計期間においては利益を強烈に押し下げてしまうことになります。
一方、その機械は数年に渡って使用されるわけです。

会計では費用と収益を対応させるという決まりがあります。
数年にわたりその機械を使って製品を作る、
つまり製品売上が発生するのであればそのために使用した機械も数年に渡って費用として配分する必要があるということになります。

ですから、取得にかかった金額を一旦資産として計上し、
使用年数(実際には法律で決まった年数)に渡って費用を分けて認識していく、ということをします。
このときの費用を減価償却費と呼びます。

つまり、お金の払いの時期と会計上の費用の認識時期にはずれがあるということです。

ところでこの使用年数(耐用年数)って本当に適当なの?
という疑問は常に僕の頭をかすめます。

例えば、
マヨネーズ製造設備は8年で、漬物製造設備は7年だそうです。
僕にはこの一年の違いが全く理解できません(笑
耐用年数表を見ると、
他にもボーリングのレーン、日刊新聞紙印刷設備など
かなり細かく規定されています。
これを全て覚えている人がいたら、減価償却費ならぬ
耐用年数マニアと言えるでしょう。
また、これから耐用年数マニアになりたい人は耐用年数表を購入してみるのが良いかもしれません。

話しがそれましたが、
続いて、FCFを求めるときに営業利益に減価償却費を足し戻すのはなぜか?

バリュエーションでは企業をキャッシュベースで評価します。
一にも二にもキャッシュ。
キャッシュ、キャッシュ、キャッシュ。
Cash is KINGです。
日本語で言えば、
一にも二にも現金。現金、現金、現金。現金命。
(日本語でいうとどうにも響きが悪い。
英語というのは便利ですね。)

ということで、現金命ですので、
会計上の利益を現金ベースに戻すのが基本です。
我々が情報として手にできるものは企業が発表している財務諸表です。そこで、損益計算書に記載されている営業利益からスタートして、
FCFを求めます。

営業利益を見てみると、そこに行き着くまでに売上から多くの費用が
差し引かれています。
そのうちのひとつが減価償却費となるわけです。

減価償却費の性質を見ると、
設備の取得時に現金を支出したが(これはこれでFCF算出時に考慮されますが、ここでは割愛)
毎年、減価償却費として費用の認識をするときは
現金は支払われません。

現金が減っていないのに費用として引かれているわけですから、
あるべき現金ベースの利益に近づけるには、
引かれた分を足し戻す、
ということになります。

自分自身を振り返ると投資活動や消費活動を常に現金ベースで把握していると思いますし、
そもそも普段は現金ベースなんていうことも意識していないですよね。
家庭の家計簿で費用を期間で認識している人はきっといないでしょう。
ですから、この会計上の利益というのがやっかい、
ということになるのだと思います。

加えて、面倒!!
会計上の利益を現金ベースの利益に戻していくには
他にも色々と面倒なことがあります。

本当の姿を知ろうと思えばそこに労を伴う(!?)のが世の常なのかもしれません。

次回は、会計の利益と現金ベースの差を生む「現金主義と発生主義」について話を進めたいと思います。

2006年11月11日 N.Ohashi
ご意見ご感想、お待ちしております!

次回のパートナーエッセイは11月14日(火)に石野さんが担当します。

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