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「懲りないくん」2001年7月22日号(25)

夏休み特別企画の号。

7月15日(日曜日)~19日(木曜日)
この期間、講演と原稿以外に、特にトピック無し。

7月20日(金曜日)

一泊分の衣類をバッグに詰め込む。
外を見ると、雲ひとつない青い空が広がる。
セミの声はまだ聞こえないが、連日の猛暑。
最高気温は今日も35度を越えるだろう。
よって、いろいろ迷った挙句、
T-シャツとジーンズというオーソドックス、
しかし、実用的な格好に決める。

今日は仏滅、なんでこんな企画を考えてしまったのだろう。
事故を始めとするトラブルが無いように祈るばかり。
僕は、何か始めるとき、ほぼ間違いなく言い出しっぺである。
そして、企画しているときは楽しいのだが、
いざ始まるとなると、不安ばかりが頭を占める。
本当に小心者だ。
しかし、やる以上、全てのリスクは承知している。
だから、何が起こっても受け入れよう。
最後は、こういう結論になる。

なぁ~んて、硬く始まったが、実のところ、
今日は楽しい「東京ローテーションクラブ」第1回会合。
事の発端は、ある「お食事会」の解散現場での会話。
電通NB氏の「それじゃ今度は、皆で車を持ち寄って、
女性に車を選んでもらう企画でもやろうよ」
という発言だった。
ずいぶん前のTV番組の企画そのものだが、
少し違っているのは、持ち寄る車種と、
女性に車を選んでもらった後の行程にある。

11時、青山は絵画館通りに面する
イタリアンリストランテ「セラン」に集合。
30分程で、続々と参加車両が集まってくる。
Porsche 911 Carrera Cablioret(964) / Blue
Porsche 911 Carrera Cablioret(964) / Red
Ferrari 512TR / Monza Red
Ferrari F355 GTS / Black
Mercedes Benz SL500 / Blue Black
Mercedes Benz 500SL / Blue Black
BMW 528i / Silver
BMW M-Roadster / Blue Metalic
Mazda Road Ster / Gold Metalic
そしてカンクロウ君が友人から調達した、
スタッフカーのSubaru Regacy.

メールでのイベント勧誘だけで、
よくもまぁこんなオタンコナスな車ばかり集まったものだ。
屋根無し率は、ほぼ50%。
外国車率は、80%。
そして全車の新車時の価格の合計は、およそ9000万円。
目指す河口湖の5億円の豪華別荘に比べれば、
大した物ではないが、それでもこの10台が列をなす様子は、
周囲の人が驚くに違いない。

男性陣の職業は、
大手広告代理店、大手商社、大手金融のサラリーマン、
それに起業家、学生~要するに僕の夜遊び友達。
そして、彼らが誘った女性たちは、
学生、OL、モデルなどなど。

早速20名の交流を兼ねたランチミーティング。
結局僕が仕切りをする事になるのだが、
僕の話は、主催者という事もあり、
「任意保険は入っているのか」とか
「運転は自己責任でやってくれ」とか
「キャノンボールではない」とかいう、注意事項ばかり。
そんな事、30過ぎの社会的地位のある連中に、
いちいち説明しなくてもいいのになぁと思いながら、
それでも、リスクファクターの説明に時間を割くには、
わけがあるのだ。

そもそもこの会の「ローテーション」という
語句の意味するところは・・・・。
男性陣の参加者は、車と女性一人を持参(?)。
集合後、女性は好きな(=乗りたい)車を、
所有者(=運転者)を識別できない状態で選択。
目的地「河口湖の豪華別荘」に向け出発。
途中、数個所のチェックポイントにて、
到着順に、一番目の車の女性は、二番目の車に、
二番目の車の女性は、三番目の車にと、
ローテーションをしながら、目的地に向かうと言うもの。
だから、同乗する女性は、必ずしも知り合いとは限らず、
もし、もしですよ、何かあったら僕に責を求める事が
考えられると言うわけだ。
オマケに、これだけの車を所有しながら、
富士箱根方面の地理に詳しいのは、僕だけ。
渋滞回避や景色など、配慮しなければならないことが、
たっくさんある。
慎重にならざるをえない。

このルールのメリットは、男性と女性にとって、
Win to Winの関係を得られるという、
遊びでも、キーワードは、どこかビジネス思考。
2日間のイベントで、男性にとっては、
複数の女性と車でデートができるわけで、
女性にとっては、いろんな車に試乗(?)しながら、
男性とのデートを楽しめると言うわけ。

13時、まずは、同伴男性の車以外の車を、
女性陣に指名してもらう。

僕の車を指名したのは、パーティーにもよく出席する、
学生のHI嬢。
「あらぁ、板倉さんの車だったの」という彼女を
ドアを開けて勧め、いざ出発。

青山通りは青山一丁目から、外苑西通に入り、
外苑西通を走行中から、すでにバトルが始まる。
「あのねぇ、キャノンボールじゃないといったでしょ」
という僕の心の叫びとは裏腹に、結局僕が先頭をぶっ飛ばす。

目黒から目黒通りに入ると、
周囲の車の迷惑も顧みず、先を争い車線変更の嵐。
先を争うのは、人の本能なのだろうか。
目的が、お目当ての女性なら、ルール上、
お目当ての女性の乗る車の直後につけるのが
合理的なはずなのに。

環状八号線より第三京浜。
高速に入ると皆さん結構おとなしい。
それぞれの走り具合を観察しているといったところか。
この暑いさなか、オープンカーはすべてオープン。
風は生ぬるく、暑いってば。

最初のチェックポイントは第三京浜終点のSA。
海沿いのルートを選択したのは、
東名高速道路の渋滞情報と夏ながらの景色のため。

女性陣をローテーションして、横浜新道。
「新西湘バイパス」を抜けたあたりで再びローテーション。
この後は、今日イチの景色を楽しめる「西湘バイパス」。
左手に太平洋を望みながら走る、空いたこの道は、
車オタクの僕にとって「パタンパタン」という、
路面のつなぎ目からの振動が心地よい、
ここ20年の付き合いの道。
思えば、車買いたて、免許取立ての頃、
好んで女性を連れ出し、走ったものだ。
何年経っても、車を楽しむその心に変化は全く無い。

猛然と加速しながらメンバーの車を追い抜く512TR。
僕は、彼のケツに1m程の間隔でぴったり付け、煽り立てる。
512TRが道を譲ったところで、隣に並び、「ピース!」
皆さん笑顔だ。
すると、後方から飛ばし屋が運転する911が迫る。
加速性能に差がある911を、前に譲って「あげる」。
直後、猛然と彼を追い立て、進路を譲「らせる」。
我ながら、いやみな運転だ。
ナビシートに座る女性は、怖がるかと思いきや、
圧倒的な加速に「きゃぁ~たのしぃ~!」と連発。
そりゃそうだ、晴天の太陽、果てしなく広がる青い海、
暑いが顔の周辺を通りすぎる風、楽しい以外に何がある。
一方、Benz&国産軍は、海を見ながら、
後方で「ドライブデート」を楽しんでいる模様。
まとまるときはまとまるが、それ以外では自由を楽しむという
メンバー全員の一体感と自由の共存。
我ながら、良いメンバーを集めたものだ、
いや、普段の遊びの中から、自然とそんなメンバーが
集まったのだろう。

「箱根ターンパイク」の入り口の雑貨屋にて、
再びローテーション。
今日の会合で一目惚れした、白百合女子のMM嬢がナビシート。
スレンダーボディーに、丈の短いワンピース。
オマケに色白そしてセクシーな視線ときたら、
もういうことありません。
ナビシートに収まる時の、白く長く伸びた足が斜めに車中に
引き込まれていく様は、車以上に、僕をそそる。

小田原の平地から、箱根の山頂まで一気にヒルクライムする、
山間道としては、割と車線の広い絶好のワインディング。

追い抜きが難しいため、早い車が先に出る。
先頭はもちろん僕、そして走り屋911、その後は知らない。
彼、実は「元パー」の営業マン。

車の動力性能と車重の物理的関係が全てを支配する、
急な上り坂の直線を終えたところで、最初のコーナーが現れる。
2速3速、場合によっては4速をレブリミットまでブン回し、
後続の911を追い払う。
しかし、彼もやるものだ~ぴったり僕の後ろに居るじゃないか。

上り坂が続く関係で、車の重量のほとんどは後輪にのしかかる。
よって、コーナーの侵入時には、
ブレーキングで前輪過重を増やし、旋回を促す。
コーナーの出口が見えたら、フルスロットルで7400回転まで
使い切る。
右に左に連続するコーナーを走りぬける感覚は、
スキーのウェーデルンそのもの。
腰の先には後輪、手のひらには前輪と、
車と体の一体感を味わう瞬間は、
ナビシートの綺麗な足も、セクシーな目つきも気にならない。
色よりも、食よりも、至極の時。

「ターンパイク」終点にて、再びローテーションのため、
芦ノ湖を一望できる駐車場に集結。
周囲の木々は茂りの絶頂を極め、風に煽られ今にも動き出しそう。
すると、それまでドライビングに集中していて気がつかなかった、
風の冷たさが、それまでの心拍数を抑制する。
芦ノ湖から吹き上げられる風に、メンバー全員、顔を緩める。

彼に内緒で参加した女性、
数ある雑務が頭を占めたままの男性、
私立大学の試験期間中ということもありテストが頭をよぎる学生、
付き合ってる人とのいざこざが絶えない人、そんな全てが、
都会の暑さから開放された事を体で感じると同時に蒸発する。

芦ノ湖の彼方にそびえる富士山を背景に、
お決まりの「記念撮影」。
まるで、修学旅行だ。
道具、経済力、自主性と自己責任に変化があっても、
修学旅行の楽しさそのものは、
何歳になっても変わらず持っているものだ。
どの女性をどうしようという、普段のお食事会の
モチベーションとは全く別の楽しみがある。

芦ノ湖スカイライン途中で、またもや記念撮影とローテーション。

芦ノ湖畔~秋のススキが有名な仙石原~乙女道路~御殿場。
歳が20歳プラスされたら、まるで「箱根観光バスツアー」。

御殿場イキツケのガソリンスタンドにて、
10台のガソリン大食らいの車の腹を満たし、ローテーション。

「富士五湖有料道路」で今度はお医者の運転する911とバトル。
Porsche乗りは、飛ばし屋が多い。
Ferrari乗りは、ゆっくりじっくり車を楽しむ人が多い。
Mercedes乗りは、女性が大好き。
BMW(とりわけMシリーズ)乗りは、オタクで走り屋。

左手に「富士山」を一望しながらの、ほぼ直線。
「富士吉田IC」で降り、残すは河口湖畔の市街地を進むのみ。

到着した別荘は、僕のコンサル先の保養施設。
22個のベッドを備えるこの建物は、
200平米はあろうかと言うリビングに、2機の暖炉、
40名は座れるソファー、それにテーブルと椅子。
さっすが5億円の別荘。
これならペンションとして十二分に商売ができる。

まずは大き目のテラスにてBBQ.
食材は決して高価なものではないが、なぜか美味しい。
食の感覚の多くは、食材そのものの質より、
その環境が占める割合が多いのだ。

ここで電通NB氏より、僕と彼らの共同プロジェクト「SS」の
全貌が明らかにされる。
皆に喜んで貰って非常に嬉しいが、
残念ながら、一般への公表は、もう少し後。
SSは完全に決定されたので、折を見てここでも発表いたします。

入浴後は、全員そろっての「王様ゲーム」。
この模様は、ご想像にお任せします。

腹を抱えて笑う。
時に、神妙な顔で二人の光景を皆で追う。
いやいやと言いながら、それでも王様の指示に従う輩。
まあよくある「王様ゲーム」の光景に、
修学旅行の楽しさが、蘇る。

午前2時を回ったところで、最後のゲーム。
王様の指令は「女性に、好みの男性を選んで頂き、
相思相愛の場合には、二人部屋へ直行」という
これまたよくある指令。
出来上がったカップルは3組。
残りは、それぞれ指定された部屋へ。

僕は運悪く(いや、運良く)ハズレ組み。
今日を噛みしめながら、就寝。
となるはずが、これまた修学旅行ののりで、
朝5時まで、ダベリング。

楽しい。
こいつら悪態パイレーツをなす、
ナイスガイと時を共にすることが楽しい。
それぞれに社会的地位もあり、収入も平均以上、
だからなおさら「遊び」も真剣に実行する。
そして、それぞれが周囲に対する配慮を怠らない。
経済力より、所有より、女性より、車より、
彼らと時を共にする事ができる僕は、至福極まりない。
程よく酔っ払って就寝。

7月21日(土曜日)

10時、全員リビングに集合。
長時間のドライビングに、深夜までの王様ゲームのはずが、
全員の顔に、なぜか疲れは無い。
昨夜、人には言えないことがあった人もあろう、
思い通りに事が進まなかった人もあろう、
あさってからの仕事が気になっている人もあろう、
それでも、今日は、みな笑顔で「おはよー」だ。

11時、女性陣よりヒアリングした「帰りの車リクエスト」と
その組み合わせの発表。
事務局であるカンクロウクンに近い僕は、
予め人気を把握することができた。
嬉しい事に、僕と僕の車(どちらが目当てだか不明だ)が、
一番人気で、3名の女性からの指名。
これはヒジョーニ嬉しい。
途中誰を指名しようが、最後に僕を選んでくれた事に、
「無欲の勝利」を実感する。
一方で「無欲は大欲」という意味もあったりするが。

その中から事務局の配慮によって決まったお相手は、MM嬢。
生きていると良い事が「たまに」起こる。
この「たまに起こる良い事」が記憶を支配するためには、
悪い事をさっさと消化吸収して忘れ、良い事だけを覚える。
そうすれば、振り返る人生は、何があろうが、幸せな人生となる。

帰途、自由解散のはずが、御殿場のランチで再度全員集合。
この義務の無いファジーな連帯感は、皆も同等に感じているはず。

御殿場から東名での帰途は、再び「元パー」君の911と、
ランデブー。

MM嬢を彼女の自宅に送り、2日間を振り返りながら自宅へ。

事故もなかった。
はぐれるものも無かった。
つまらなそうな輩も居なかった。
女性陣から、王様ゲームに対する不満な声や顔も無かった。
そして、皆、楽しい夏のひと時を満喫できた。

僕は出かけるとき、自分にこう言い聞かせた。
「僕は何も無くて良い、ただ無事で皆が楽しめればそれで良い」と。
小心者の僕は、自らの経営判断ミスにより会社を潰した僕は、
それ以前より、遥かに謙虚に慎重に、そして周囲の満足に
多くの能力を費やすことを、覚えたのだろう。
この感覚を、一人仕事であれ、チーム仕事であれ、
絶対に忘れないようにしたい。

板倉 雄一郎
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