板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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「懲りないくん」2001年8月19日号(29)

隠居生活って感じの号。
原始人かもしれない。

8月12日(日曜日)

昨日までの、豪遊と泥酔も終わり、朝からプール。
昼から、広島お好み焼きを食べ、広島空港~羽田。
ボークンK氏へ、ありがとう。
広島豪遊計画は、ヒジョーに楽しかったのだ。

20時、明日からのバカンスの打ち合わせのため、
MG嬢、HH嬢、SZ嬢、HA嬢と共に、白金は「イゾラ」。

顔は皮がむけ、ぼろぼろでまっかっか。
オマケに体力も消耗してか、4人の女性を前にしても、
いや、4人も居るからなのだろうか?
元気が出ない。
そればかりか、HH嬢のいつもの
元気なぶっ飛ばしトークに、
なぜか気分を悪くし、その場で説教。
他の3人の女性たちは、初顔合わせと言う事で、
話が弾んでいる様子。

不思議な事に、それぞれの女性は、
互いに僕との関係を知って居る。
知っているが、仲良く、美容やファッションや
仕事の話しで盛り上がる。
不思議なもんだ。
男女が逆だったら、多分ありえないだろう。

せっかくのバカンスを前に、僕はピッザを摘まみながらの
事務連絡的トーク。
「ええと、僕は原稿を書くのがメインだから、
あんまり、相手出来ません」とか、
「東京まで、迎えに行くのは大変なので、
来たい人は、自分の足で来てください」とか、
「ベッドは22個あるので、友達誘ってもOKだ」とか。
なぜか、僕のテーマである「楽しさ」が沸いてこない。
彼女たちに問題は無いどころか、いずれも魅力的な女性。
それに、僕も体力以外に問題は無い。
自分では気が付かない「何か」が自分の中に、
問題としてか、期待としてか、それとも消化不良なのか、
とにかく「心の足が、地に付いていない」感じだ。

早めに解散して、船橋の実家でバカンスの準備。
最後にメールチェックをして、
仕事道具(といってもPC2台と通信機器ぐらい)を
バッグに詰め、準備万端で寝る。

眠れない。
あれこれ考えているうちに、原稿書き以外に、
今回のバカンスにおける自分自身の期待が見えてくる。
「何かを見つけるのではないか?」と。
つまり、人里離れた山荘で、しかも犬と自分だけで
2週間を過ごし、やる事と言えば散歩と炊事と原稿だけ。
都会のパーティー、デートやお食事会、それに
ビジネスミーティングから離れ、
僕は、2週間以上、飽きて帰ることなく、
現地に居ることが出来るだろうか?
そして、それが出来たときに、何かに気が付くか、
何かを見つけるのだろうか?

そんな事を思いながら、いつしか眠りの底へ。

8月13日(月曜日)

お盆の真っ只中、2匹の犬を車に乗せ、
一路、山梨県は河口湖の山荘へむけ出発。

18時、これから2週間の家となる、
「懲りないくん」25号で紹介した山荘に到着。

荷物を所定の場所に置き、
まずは、途中で買いだしてきた食材で夕食。
そして、PCなど仕事道具のセッティング。
準備完了。
で、何から始める?
とりあえず、次の単行本の原稿を書くことに。

8月14日(火曜日)~8月18日(土曜日)

この期間、14日未明からドライブがてら遊びに来た
MG嬢との「カレー作り」および、
起業家渡辺篤史君とその彼女が訪問した以外、
特にトピック無し。
ちなみにMG嬢の作ったカレーは、
彼女が2泊して東京に帰った後も、
数日間僕の食生活を満足させてくれた~ありがとう。

僕の毎日は、こんな感じだった。

朝、7時過ぎから9時のあたりで犬に起こされ、
カフェインを適度に吸収してから散歩に出かける。
気温は低く、15~20度ぐらい。
富士山麓とあって、晴れたり曇ったりの
すっきりしない空模様。
周囲は別荘村、1時間に1度程度車が通るだけで、
人影はまばら。
虫の奏でる音と鳥の声以外、何も聞こえない。
だから自分が大声で怒鳴っても、きっと誰の耳にも届かない。
空気は美味しい。
湿った樹木の香のする空気は、
太陽の光をたくさん浴びて育った、
味の濃い新鮮な野菜を食べるような感覚だ。
空気に味がある。

山荘より2Kmほど離れた場所にある
「富士天神山スキー場(FUJITEN)」まで、
急な上り坂を2匹の犬と共に、早足で歩く。
気温が低くとも、汗をかく。
「しらかば」など高原独特の樹木は、
「青木ヶ原樹海」に居る事を知らせてくれるが、
同時に、景色に変化が無い事にも気がつく。
息が苦しい。
2匹の犬も、動物の匂いを嗅ぎながらの
無秩序な歩き方を止め、
いつしか僕同様、息を吐きながら、
黙々と坂を登る。
何の義務も無いこの散歩を何度か途中で止め、
引き返したくなる。
なるが、引き返したところで、特に何も無い。
だから、ひたすら坂を登る。
ゴールに着けば、きっと何か得られるはずだと、
「錯覚」する。
まるで、忙しい毎日を送っていたときの自分が、
幻想を見ていた過去のようだ。

「FUJITEN」に着くと、
冬は整備された雪に覆われるはずの、
一面芝生のゲレンデ、
そして雪一つ無い真っ黒な、
普段東京から見るのと反対側の富士山が突如現れる。
かいた汗も、数分間立ち止まり、周囲を観察するうちに、
体からも衣類からも消え去る。
「富士山だ!」・・・・・で、なんだ?
プールに行けない分のエクササイズという理由があるから、
その目的を達成できた分、ちょっとした達成感も、
すがすがしさもある。
しかし、その行程自体に目的や幸せを感じられなかったら、
そして、ゴール「だけ」を見つめていたら、一体何を得られる?
オリンピックのゴールドメダリストが、
その後の人生の目標を失って、
精神に異常を来たす場合があると聞いた事がある。
いつも書いていることだが、家や車の所有のために、
一生懸命働き、所有すれば、そのメンテナンスに悩み、
結局所有が不幸の始まりになる。
だから、ゴールの設定は必要だが、
ゴールにたどり着く過程を楽しめなければ、
つまり、その瞬間を楽しめないとすれば、
死ぬまで幸せな人生などやってこないだろう。
ゴールは目指すものではあるが、手に入れるものではない。
過程にこそ意味がある。っと思う。

山荘に戻り、シャワーを浴び、
サニーサイドアップにベーコン、
それに緑黄色野菜のオリーブオイル炒めの朝食を済ませ、
PCに向かい原稿書き。

昼、冷蔵庫から適当な食材を取り出し昼食。
その後、2匹の犬と共に、
周囲数キロはあるだろう別荘村の探検。
ほぼ数百メートルごとに建てられた別荘たちには、
お盆と言う事もあって、人影がある。

ハリウッドの映画に出てきそうな豪華な作りの
別荘もある一方で、東京の住宅街に、
居住のために作られたようなフツーの家もある。
止めてある車の車種や値段を参考に、
そのオーナーの暮らし振りを想像してみる。
様々なパターンが思い浮かぶが、想像の範囲では、
どれも「欲しい」と思うような生活ではない。

1時間ほどで山荘に戻り、また原稿。
しかし一段落書き終える毎に、
違った暇つぶしをしたくなり、
結局原稿は思ったより進まない。

なので、午後は仕入れたワインを片手に、
ほろ酔い気分で外の樹木を眺めながら、
物思いにふける。

思えば僕の人生は、その時々特定の人に支えられてきた。
そして、その方々に対して、何も返すことが出来ていない。
思い出す全ては、「いつか何かを返せるだろう」と
甘えてばかりで、結局、得るばかりだった。
騙して得ることばかりを考えていたつもりは、
これっぽっちも無いのだが、
もしかしたら、得る瞬間にだけ
「自分はいつか、この恩をお返しします」と
自分自身を騙して、自分自身に対して
偽善者で居るのかもしれない。
自分が苦しまないために。

執筆を進める。
文章は進む、そして読み返せばそれなりの文章に見える。
しかし、「こんなの、一般の人が読んで面白いのか?」と
そんな疑問が頭をよぎる。
自然の中で、人付き合いも無く、質素な食べ物と
アルコールだけの生活が、人が生きていく上で、
極めて基本的な要素しかないせいか、
ビジネスや特許、そして自分の中途半端な復活の話など、
とてもつまらなく、必要の無い事に感じてしまう。

そう思ってしまったら、書くのを止める。
書き手がいくら真剣に取り組んでも、
「面白くない」と思っていては、読んでも絶対に面白くない。
だから、物思いにふけりながら、
主題から外れない範囲の「面白い事」を思い出して見る。
思い出せたら、また書く。

ゆったりと、だらしなく過ぎる午後の時間は、
あっという間に消費され、実りを得る前に夕刻を迎える。

1時間の散歩。
そして、軽い夕食。
食事をしていても、散歩をしていても、
ひらめきと落胆が交互に繰り返され、
結局、ある一定の視点と感性の状態をキープできない。
なので、さらに原稿は進まない。

などと、泣き言のように読めると思うが、
これは、泣き言ではない。
ビジネスミーティングは、
たとえブレインストーミングと称していても、
その実は、ある一定のテーマから逸脱しないように、
個々が周囲に気を使いながら、思考を凝らす。
だから、同じような結論しか導き出せない。
しかし、今の僕は、自分の思いに鎖をつけず、
思ったままを追求することが出来る。
その行為は、常に僕に何かを気が付かせる。

1週間経った今でも、まだ結論は出ない。
出なかったら、いつまでも物思いにふける。

原稿を書く、「書く事」そのものは、
タイピングが周囲に驚かれるほど早いから、
大した負担ではないし、時間もかからない。
ただ、その時書く内容に対しての思い入れが大切だ。
特に過去の事を書くときは、
当時の情景や言葉より、
まずはその時の自分の感情を思い出す事から始める。
自分のノンフィクションであるから、
読み手に取っての主人公は僕自身なのだ。
僕自身が、そのとき置かれた状況下での
僕の感情を文章として再現できなければ、
まったく読み物として面白くない。
しかし、その時の感情を思い出し、
その感情の状態そのものに、書いている自分を置くことは、
結構難しい。

そんなこんなで夜も更け、
単位時間あたりの摂取量を増したアルコールが、
眠りを誘う。

以上のような、変化の無い生活に、
僕は不思議と飽きずに、
実のところ振り返れば、
なんかしら楽しんで居るのでした。

と言う事で、今週は「ニュース」が無かったので、
最後にニュースのコーナーです。

プロジェクトSSと称して進めてきたプロジェクトが、
公表OKになりました。
僕の「社長失格」という著書がTVの番組になります。

9月28日(金曜日) 21:00~2時間スペシャル
「経済エンターテイメント『社長失格』」
~ある男の起業・繁栄・転落の物語~

番組は、「社長失格」の再現ドラマ、
関係者のインタビュー、
そして、それらを元にしたスタジオトーク。
と言う構成で、スタジオMCには、
ワールドビジネスサテライトでおなじみの、
小谷真生子さん。
そして、ゲストには、
タレントのテリー伊藤氏、
映画監督の井筒和幸氏、
松井証券の松井道夫氏、
立教大学教授の斎藤誠一郎氏、
TBSブロードキャスターのコメンテーターで、
国際ビジネスコンサルタントの
ジョージ・フィールズ氏、
他、交渉中。

と、豪華ゲストに、僕や当時のベンチャーが、
いろいろ批評されるというわけです。
僕は番組制作に対して、
一切バイアスをかけて居ませんから、
再現ドラマ以外の部分は、どうなるかわかりません。
でも、興味があったら見てくださいね。
裏番組も強力だけど、せめて録画してチョーだいね。
でも、録画だと視聴率稼げないから、
やっぱり観て頂戴。

夜遊びで出会った、電通NB氏の
「ちょっと板倉さんの本を預けてくれますか?」という
お食事会最中の言葉から始まったプロジェクト。
遊んでいても、成果は得られるのですね。

と言う事で、来週は何か獲物を紹介できるよう、
がんばりますです。はい。

板倉 雄一郎
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