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Deep KISS 第10号「言葉の定義(企業価値)」

「企業価値」という言葉ほど、言葉の定義が曖昧なまま使われている言葉は他に無いかもしれません。

「企業価値」という言葉が持つ意味合いは、企業に関わる利害関係者の関わり方によって、それぞれ異なるわけです。

「従業員から観た企業価値」とは、
「労働力を提供し、その代わりに賃金を受け取る相手」という価値があるわけです。

「取引先から観た企業価値」とは、
「原材料を提供し、その代わりに売上を受け取る相手」という価値があるわけです。

しかし、経済紙などで使われる場合の「企業価値」とは、一般的に「投資家から観た企業価値」を意味します。
(また、本WEBでも、特別な断りがない限り、「企業価値」は「投資家から観た企業価値」とさせて頂いています)

さて、「企業価値」は、どのようにして評価するのか?

これは、その企業の「事業価値」と「非事業用資産」の合計です。事業価値とは、すなわちその事業が「将来生み出すであろう現金収支」によって評価されます。

簡単な話、その事業が将来にわたり、どれほど現金を生み出す見込みがあるのか?ってことですね。

この場合の現金収支とは、「投資家以外の利害関係者への経済価値配分と、事業継続のための投資を行った残り」、つまり投資家に帰属する現金収支と言うことになります。

また、企業には、「事業に投下されない資産」ってのもあるわけです。たとえば、事業に使っていない不動産だとか、有り余る現金だとか、そういう資産も企業価値の一部ですから、ちゃんと企業価値に足し合わせてあげるってことです。

以上から、
「企業価値=事業価値+非事業用資産」という事になります。

じゃあ、「投資家」ってのは誰だ?

ということになりますが、これは、当然ながら「株主及び(銀行や社債の保有者などの)債権者」です。

言い方を変えれば、
「企業価値=株主価値+債権者価値」という事になります。

ちなみに、「株主」と「債権者」の違いですが、
「債権者」とは、リターン(金利)と元本の返済期限を約束した形態での投資家のことであり、
「株主」とは、リターンを約束しない代わりに、議決権を持つ形態での投資家ということになります。

よって、「債権者」は、企業の業績如何に関わらず、(その会社が倒産でもしない限り)一定のリターンが保証されている代わりに、企業の業績が飛躍的に伸びても、(少なくとも現在の債券契約の期間中で、かつ債券価格が変動しない場合)リターンに変化が無い関係であり、「株主」は、企業の業績が良くも悪くも、その“しわ寄せ”を受ける関係にあるという訳です。

俗に言う、
「ハイリスク・ハイリターン」の関係が株主であり、
「ローリスク・ローリターン」の関係が債権者だと言うわけです。

つまり、
事業が将来生み出すであろう現金収支の現在価値=事業価値
と、
事業に無関係に所有する資産の現在価値=非事業用資産
の合計を、
「投資家から観た企業価値」
と表現し、その企業価値を分かち合うのが、「株主と債権者」というわけです。

よって、株主“だけ”がその価値を独り占めすることは出来ないわけです。

ちゃんと債権者の分も考えなければいけないわけですから、
「株主価値=企業価値+債権者価値」によって、
はじめて株主価値が求められるという訳です。

ちなみに、株主価値を、証券化して細切れにしたのが、「株式」の正体です。

つまり、「株価と発行済み株式数の積」を一般的に「株式時価総額」と表現しますが、以上から、株式時価総額を担保するのは、すなわち「株主価値」ということになります。

一般的に、ある企業の株価の「割高 or 割安」を判断する基準は…。
「株主価値>時価総額」の場合が「割安」。
「株主価値<時価総額」の場合が「割高」。
ということなのです。

また、割とイイカゲンな経済関係雑誌の場合、「時価総額」と「有利子負債」を因数に、「企業価値」と表現していたりもします。

たとえば、「企業価値=時価総額+有利子負債」とか。

しかし、これは、明らかに「価値」ではなく、「現在の価格」ですから、少なくとも僕は、「時価総額+有利子負債」によって何かを計るならば、それは「企業時価」と表現して欲しいと思います。(言葉って、大切ですからね)

以上をまとめると…。

企業価値を、それを算出する側面から観た場合、
企業価値=事業価値+非事業用資産
であり、
その価値が、誰に帰属するのかという側面で観た場合、
企業価値=株主価値+債権者価値
というわけです。

また、以上から、
株主価値(=時価総額を担保うする価値)=事業価値+非事業用資産-有利子負債と表現することもできるわけです。

ちなみに、この場合の非事業用資産には、事業に使用していない不動産や、余剰現金などが含まれます。

(余剰現金などを、非事業用資産とせず、実質有利子負債を計算するために、「純有利子負債=有利子負債-現金および現金同等物」と定義する場合、「株主価値=企業価値-純有利子負債」となります)

ちなみに、「配当=株価上昇」と思い込んでいる人が多いですが、これは明らかに間違いであることは、過去に散々書きました。

以上の関係から、配当とは、明らかに、「株主価値の一部を現金というカタチで取り崩す(=引き出す)」ということに他ならなく、よって、「配当という現金を受け取る代わりに、その分、株主価値が減少する」ということが、良くお分かりいただけると思います。

いわゆる金融のプロといわれる人の中にも、この間違いに気が付かない人がたくさんいます。お金は、勝手にどこからか湧き出てくるわけではないのです。

「何かを得れば、他の何かを失う」経済とはそういうものです。

「失った何か以上に、他の何かを得たい」のであれば、
「自ら経済価値を創造する」か「他人から奪う」しかありません。

どのような行為が経済価値を創造し、どのような行為は他人から搾取しているに過ぎないということは、過去のエッセイに“しこたま”書きました。

2005年10月20日 板倉雄一郎





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