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Deep KISS 第22号「価値増加と価値創造」

経営者の最も重要な仕事は、企業価値を高めることです。
もっと具体的に表現すれば、
「資本を調達し、資本調達コストを上回る投下資本利益率を実現できる事業に資本を投下することによって、投資家から観た企業価値を向上させること」となります。

経営者が、経営者の仕事をしっかり認識し、企業価値を「創造」することが経営者の責務です。
が、この場合の「創造」とは一体何を指すのでしょうか?
企業価値の、時間経過による「単なる増加」、と、
経営者が経営者の仕事として「価値創造」を行うことの違いについて説明します。

企業価値とは、その企業が事業活動によって将来生み出すであろう投資家に帰属するキャッシュフロー(以下FCF)の割引現在価値の総和であることは、何度も説明してきました。
FCFは、今期も、来期も、n?1年後も、n年後も、n+1年後も、その後も、発生しますが、これらを一度に取り扱って説明すると複雑になるので、説明を簡素化するために、この中からn年後のFCFに絞って話を進めます。

n年後に発生するであろうFCFを、100億円としましょう。
このFCFの現在価値は、このFCFを、この企業の加重平均資本コスト(以下WACC)によってn年分割引くことによって求められます。
たとえば、この企業のWACCが10%であれば、n年後の100億円のFCFの割引現在価値は、
割引現在価値=100億/(1+10%)^n
(ただし、「^」はべき乗)
によって求められます。

(初心者向け説明・・・
たとえば、年利10%複利の銀行口座に100万円を預金した場合、この口座の現在価値は、明らかに100万円ですが、その後全く預金を引き出さなければ、1年後に110万円、2年後に121万円になります。
これは、言い換えれば「2年後の121万円を受け取ることが出来る権利の現在価値が100万円」ということを意味します。
2年後の121万円を、年率10%で割引き、現在価値を求めれば100万円ということです。)

その後、1年の時間経過によって、n年後の100億円のFCFの現在価値は、「経営者が価値創造を行うためのオペレーションを何も行わなくても」、増加します。
なぜなら、1年後の時点に立った場合の割引現在価値は、
割引現在価値=100億円/(1+10%)^(n-1)
になるからです。
簡単な話、n年後に受け取るはずのFCFは、時間経過によって、その受け取る時期が「目前に迫り」、割引年数が減少する結果、価値が「増加」するわけです。

(初心者向け説明・・・
たとえば、先の説明で、100万円の現在価値は、1年経過することによって110万円に増加すると言うことです。)

このとき市場が完全に効率的であれば、時間経過による価値「増加」分、時価総額が上昇すると言うわけです。

さて、この企業の経営者を「よくやった」と褒めてやるべきでしょうか?
もちろん、過去の僕のように会社を「倒産」させることにくらべれば、はるかに「よくやった」ということになろうかと思います、が、この経営者は、実は価値「創造」を行っていない点で、「よくやった」とは、必ずしも評価できないわけです。
過去の経営努力の結果として得られるであろうn年後のFCFそのものは変化せず、単に時間経過によって価値が「増加」しただけというわけです。
極端な話、誰が経営しても、時間経過による価値「増加」は、行われると言うわけです。

では、価値「創造」とは何か?
結論から書いてしまえば、n年後に実現するはずであった100億円のFCFを、現在の経営者の適切な経営判断によって、「100億円より大きなFCFにする」ということです。
もし、割引率(=企業の場合はWACC)に変化が無いとすれば、n年後のFCFの現在価値は、n年後のFCFが増加した割合分、「創造」されるということになります。
経営者による適切な経営判断による価値創造とは、具体的には、「資本調達コストを上回る投下資本利益率を実現できる事業に、資本を投下する」ということになるわけです。
この経営判断によって、将来FCFが増加することこそが経営者による「価値創造」です。

以上をまとめると・・・
時間経過による企業価値の変化は、「価値の増加(または減少)」であり、
適切な経営判断による資本調達と資本投下による企業価値の変化は、「価値の創造(または破壊)」ということです。

資本調達コストを下回る投下資本利益率の事業に資本を投じれば、将来FCFの現在価値は減少し「価値破壊」を起こします。
しかしこの場合でも、将来FCFがプラスの場合であれば、時間経過と共に「価値増加」は起こります。
資本調達コストを上回る投下資本利益率の事業に資本を投じれば、将来FCFの現在価値は増加し「価値創造」を起こします。
また、資本調達コストを上回る投下資本利益率の事業に資本を投じても、当該企業の現在の投下資本利益率を下回る新規事業へ資本を投下すれば、企業全体の投下資本利益率は低下します。

以上のメカニズムは、極めて高度ではありますが・・・
経営者におかれましては、「価値創造」が経営者としての責務であることを認識していただきたいですし、
投資家におかれましては、
「増資=価値下落」だとか、
「配当=価値増加」だとかのように、明らかな理解不足によって投資判断をするのではなく、そのオペレーションが当該企業の価値を「創造するのか、破壊するのか」について、十分に考察されることをお勧めします。

「Aだった場合、上げ」、「Bだった場合、下げ」などと、オペレーションの表面を拾って、あんちょこに「上げ下げ」を判断することは不可能なのです。
企業の価値創造メカニズムを知らずして、株式投資の「長期的な」成功は実現しません。
また、価値創造メカニズムを知らずして、「私は経営者である」なんて思わないで欲しいのです。

2005年11月21日 板倉雄一郎

PS:
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感想は、短く・・・
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