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Deep KISS 第60号「GMO MSCB撤回」

GMO(9449)が、過去に発行したMSCBを撤回するということです。
彼らはいろいろイイワケをしておりますが、要するに多くの株主をはじめとする方々からの批判があったのでしょう。
で、「やっぱ止めます」ってことでしょう。

「撤回したのだから問題ないだろう! 
 発行した時点で希薄化がおこるわけじゃないんだから!」
と、かなり痛いイイワケを彼らは行っています。

これは喩えれば、
「サラ金から金を借りたが、すぐに返したのだから問題ない」
と言っているようなものです。

彼らのMSCBが撤回されなかった場合の、特定の人にのみ劇的なディスカウントでの株式譲渡に至る「ズル度」について、理論的な資料を以下に記します。
市場はMSCBが発行された場合、それが撤回された場合のことなど、通常認識しません。
なぜなら、そんなことなら、最初からMSCBなど発行しなければよいからです。
MSCBの撤回のための資金を、彼らは銀行借り入れに依存するようです。
「だったら最初からMSCBなど発行しなければよいのです!」
僕をはじめ、MSCBを発行した企業を批判する「真っ当な人間」を、
彼らは暗に批判しています。
おめでたいとしか言いようがありません。
市場を混乱させたという事実はぬぐいようもありません。
資金が必要なら、
普通社債(SB)という手もあったはずですし、
(極わずかな有利発行による)時価発行増資という手もあったはずですし、
最初から銀行借り入れに頼る手もあったはずです。

結局、彼ら経営陣は、MSCBが「Death Spiral Convertible」であることを、知らなかったのでしょうか?

<GMO発行のMSCBがそのまま実行された場合のズル値>

以上の図は、あくまで市場が完全効率という条件の下、理論的な「ズル値」を示しています。
既存株主に比べ、特定の方々(=このケースの場合野村證券)に対して、「最大で144%」の「事実上の有利発行」ということになります。
つまり、同社の株価(横軸)が、下がれば下がるほど、引き受け証券会社は、有利な株価で同社の株式を大量に取得できるということです。
「株主様を大切にしています」と主張する者がとる手段では、絶対にありません。

しつこいようですが、上記の図は、
1、MSCBが撤回されず、
2、最も有利な株価で社債が株式に転換さた場合の、
3、理論的な「ズル値」を示したものです。
このMSCBが撤回されなかった場合でも、必ず上記の図のような有利発行が現実になるとは限りません。
また、GMOのMSCBの場合、ライブドアのMSCBように、
既存株主から、MSCBの引き受け証券会社に対する貸し株(=引き受け証券会社が空売りをして株価を下げる目的のため=引き受け証券会社が儲けるための貸し株)を行っていないので、最大ズル値の有利発行が現実になるとは、言い切れません。
つまり、(リーマンブラザーズ証券に貸し株を行った)ライブドアのMSCBよりは、少しはマシってことです。
ただし、GMOの場合、ライブドアとは違い「賃借銘柄(=空売り可能)」ですから、野村證券がやろうと思えば「売り浴びせ株価を下げる」ことは、不可能ではありません。

簡単な話、ある特定の人たち(=今回の場合野村證券)に対して、他の既存株主に比べ「劇的にディスカウントした価格で、株式を売り渡す行為」を、MSCBと称するというわけです。
簡単な話、「上場企業にとってのサラ金」ってことです。

以上、読者に対する知識の価値を提供するために書きました。
GMOについては、別にどうでもかまいません。
(↑ もう既に同社の顧問ではありませんし。あー良かった。)

全額(期限前)償還において、MSCBの引き受け証券会社である野村證券は、100円辺りの償還を、100円で受け付けるようです。
(通常は、期限前償還には、それなりのプレミアムが付きますが、今回はプレミアムがないようです。)
つまり、野村證券にとって、なんら儲けの無いオペレーションです。
つまりこれは、社債を引き受けた期間の野村證券の資本コスト負担を、GMOに押し付けない代わりに、野村證券の株主が、その分を負担していることを意味します。

彼らの発表資料によると、
「発行総額310 億円のうち、手取概算額308 億円の使途」
との表記があるので、2億円前後が証券会社/弁護士などに、
手数料相当として差し引かれているかもしれません。

2006年2月20日 板倉雄一郎

PS:
最初から、やらなければいいのにね。
企業の成否を決めるのは、
その「運用側(=事業)」も大切ですが、
それ以上に、「調達側(=資金調達手法)」が重要なのです。

PS^2:
経済活動を主な業務にしているものを評価するとき、
その経済活動の本質を理解できない者が評価しても意味がありません。
サッカーの選手を評価するとき、サッカーのルールを理解している者が評価しなければ、本当の評価とはいえないでしょう。

PS^3:
ともあれ、撤回したのですから、撤回しないよりはマシですが。





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