板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第20号「金融機関の価値評価」

このところ、金融機関(=銀行、保険など)の業績が回復し、そして株価が上昇しています。
それにあわせるように、読者や当事務所セミナー卒業生などから、
「金融機関の価値評価について教えてください・・・・」
という質問を受けることが多くなりました。

このような質問を頂く背景は、一般事業会社と金融機関では、財務諸表の構成が「まるで違う」ように見えるからですね。
確かにその構成は、一見全然違います。

金融機関の場合、資金調達「額」の大部分は、一般事業会社の場合に置き換えると、単なる「有利子負債」となります。
たとえば銀行の場合は、「預金金利」が、有利子負債コストに見えるわけです。
しかしながら、銀行に対する預金者は、一般事業会社の債権者とは違い、「資産運用だけ」を目的に預金しているのではなく、決済などの利便性も含んで預金行為を行っている関係で、
「預金金利=有利子負債コスト」 とは出来ないわけです。
つまり、「預金者の期待収益率 ≠ 預金金利」 というわけです。
よって、我々が普段講義している「エンタープライズDCF法」によって金融機関の価値評価を行うためには、財務諸表の再構築が必要になります。
(たとえば、金融機関の価値評価を、どうしてもエンタープライズDCF法によって行いたければ、実質有利子負債コストを、有利子負債コスト+預金業務コストとして計算するとか)

しかし、これは非常に面倒なわけです。
そこで、金融機関の価値評価は、「イクイティーDCF法」という手法で行うことが一般的です。
イクイティーDCF法とは、エンタープライズDCF法のように、株主資本コストと有利子負債コストの加重平均であるWACCを用いて、当該企業のFCFの割引率とするのではなく、株主資本コスト「だけ」を用いて、(投資家全体ではなく)株主に帰属するキャッシュフローを因数に、株主価値をダイレクトに割り出す手法です。

この場で、イクイティーDCF法の概要を説明するのはほとんど不可能ですので、具体的手法は割愛します。
どうしても知りたければ、たとえばセミナー案内ページでご紹介してる「企業価値評価」マッキンゼー著の「応用編」を読んでいただければ・・・と思います。

が!
そもそも一般事業会社の価値評価・・・エンタープライズDCF法をマスターせずに、いきなりイクイティーDCF法を学ぼうとしても、ほとんど不可能です。
まずは、企業価値評価の基礎であるエンタープライズDCF法をマスターしましょう。

しかし、イクイティーDCF法が理解できたとしても、金融機関の価値評価は「極めて難しいし、手間がかかる」のが実情です。
この点、少なくとも僕が、金融機関への投資を控える理由です。
(というか、僕が知っている限りの「市中銀行」の経営者、行員、どれも「いただけない」というのが最も大きな理由ですが(笑))

まあ、それこそ金融機関は、一般事業会社の株式を大量に持っていますから、TOPIXなりが上昇すれば、間接的に彼らの資産は膨らみますよね。
しかし一方で、「日本国債」なんてのも結構保有している点に注意が必要です。
(↑ 深いなぁ(笑))

2005年11月11日 板倉雄一郎





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