板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第41号「絶対に騙せない人」

世の中には、騙そうと思っても、「絶対に騙せない人」が居ます。
さて、どんな人でしょうか?












今年から、この「考える時間表示」は、しっかり考えていただくために、次の文章がスクロールなしに画面上に出ないように、2回にしました(笑)












経済的な範囲では・・・
「ファイナンスの知識を持っている人」とか、
「自分で考えて行動する人」とか、
「カネにガツガツしない人」とか、
そんな答えを思い浮かべたのでは無いでしょうか?
これらの答えも、間違いでは無いと思います。
しかし、「絶対に騙せない人」とは、言えませんよね。
経済的な範囲ではない(とは必ずしもいえませんが)・・・
いくらファイナンスの知識を持っていても、変な異性に引っかかっちゃうことってありますからね。

「絶対に騙せない人」、それは、「自分自身」です。

たとえば(あくまで、たとえ話ですよ)・・・
上場企業の経営者が、自社の株主を毀損しながら、見た目だけの企業規模を拡大するとしましょう。
ファイナンスや企業価値評価についての理解がある者から観れば、すぐにそのインチキを見抜くことが出来ますから、このような企業への投資や就職などはしなくて済みます。
しかし、多くの個人投資家には、ファイナンスの知識もなければ、企業価値評価の知識もありませんから、経営者が株主総会やメディアなどを通じて、涙を流しながら、
「私は、いつも株主様のことを考えて・・・」などと繕えば、まんまと騙すことが出来るわけです。

殴られるとか、蹴飛ばされるとかなら、特に専門知識がなくても、「俺は毀損された」と理解できます。
しかし、こと経済の話となると、自分が毀損されたり、搾取されたりすることを、なかなか理解できないものです。

たとえば、(利率固定の)国債への投資を例に挙げましょう・・・
現在の国債「表面利率」は、およそ1.5%前後です。
この国債を購入すれば、その後経済状況がどのように変化しても、(政府が破綻しない限り)、毎年間違いなく利率分の1.5%にあたる現金をいただけます。
また、額面でこの国債を購入すれば、投資家(=国債購入者)の利回りは、1.5%で、満期まで変化ありません。
しかし、インフレ率が2.0%になったとしたら、利率分の利息を現金で頂いていたとしても、毎年確実に0.5%の経済損失が発生することになります。
しかし、名目値にしか理解がなければ、「俺はちゃんと毎年利息を頂いているから大丈夫だぜ」と、思ってしまうわけです。
他人(国債の場合には政府)にカネを貸している(=運用している)にもかかわらず、毎年確実に損をする場合もあるわけです。
しかし知識がなければ、それに気が付かないというわけです。
知識のない人を騙すのは、「自分の心の痛み」を無視すれば、いとも簡単なことなのです。

話し戻ります。
しかし、いくら他人を騙すことができたとしても、自分を騙すことは出来ません。
他人を騙している以上、いつも心のどこかに「罪悪感」が漂うことになります。
(そうでない人も、この世にはたくさんいるようですが)
心が弱い人は、その罪悪感を忘れようと、得られた金でストレスを発散し、カネ「だけ」に群がる連中を相手に、夜な夜な悦に行くことを繰り返す。
そして酔っ払った頭で、自らの言動を正当化するための理屈を、自分の中に組み上げようとします。
(たとえば、幼児を虐待しながら、「この子の教育のためにやっているのだ」と、自分を騙そうとするのです。)
しかし、心の満足は得られない。真のハッピーは得られない。
なぜなら、「自分を騙していることを、自分が知っている」のですから。

実態経済価値(=株主価値)以上の時価総額を作り上げ、M&Aを繰り返せば、見かけ上の売上高や利益は増大します。
しかし、「いくらの資本で、いくらの利益を上げたのか?」という、経済価値創造における最も重要な指標、「投下資本利益率」は、どんどん下がっていきます。
価値破壊を起こし、「一株辺りの株主価値」は下落してゆきます。
本来、その下落分、株価が下落して当然ですが、だまされた株主、株主価値について理解のない株主のおかげで、株主価値に対して数倍、場合によっては数十倍の株価が付くわけです。
騙された株主の経済価値は、まんまとインチキ経営者の懐に入っていくわけです。
経営者であれば、そんなことは簡単にわかります。(←たぶん(笑))
そんなことを繰り返していると、その事実を、自社の株主にでさえ、伝えることが出来なくなってしまいます。
結果、経営者は、全うな神経を持っていれば、苦しさを感じます。
その苦しさから逃れるために=「死刑宣告を先延ばしにするために」、更なる拡大をし続けることを選択するわけです。
しかしこのような戦略は、明らかに「ねずみ講」です。
価値を創造していないのですから、いつか破綻します。
いつか破綻することを認識しながら、それを隠し続けることは、その苦しみに対して、1000億、1兆円のカネを頂いても、相殺できないのです。
たとえ、法の網の目を巧みに潜り、とっ捕まらなかったとしても、自分の苦しみは続きます。

「立ち止まったらおしまいだ!」とビルゲイツは発言しています。
しかし彼だって、おそらく毎日、自らの言動を、自らの哲学や信念に照らし合わせるチェックはしていると思います。(僕は、彼には、一度、一時間ほどしか会ったことはありませんが。)
たまには、立ち止まり、自分の歩んできた道、そしてその道の延長が、どこに向かっているのかを確認する勇気が必要だと思います。
走っているだけでは、気が付いたら、当初の目論見とは全然違う場所に立っているかもしれないのです。

不安を感じたら、いつでも立ち止まり、
「自分が自分を騙そうとしていないか」
を考えてみる必要があると思うのです。

そのためには、立ち止まることが出来る「精神的&経済的余裕」、
そして、自分の言動をチェックすることが出来る知識が必要なのです。

「他人は騙せても、自分は騙せない」のですから。

若き頃、走り続けることだけを考えて大失敗した僕が言うのですから、間違いありません。

2006年1月18日 板倉雄一郎

PS:
ホリエモン騒動におけるメディアの振る舞いは、時に「持ち上げ」、時に「叩きのめす」という、「その場の空気伺い」に過ぎません。
多くのメディアが、そうなってしまうのは、伝える側のメディアに、しっかりした評価基準がないからです。
(視聴率主義だから、という意見もあるでしょうけれど、殺人事件の犯人を「時には持ち上げる」なんてことは、流石にしないですよね・・・それは「明らかに悪い奴」ということが、メディアにもわかるからです。しかし、経済やファイナンスのこととなると、その判断が曖昧になってしまうわけです。)

僕は、メディアがどれほど彼を持ち上げていたとしても、政府自民党が彼を持ち上げていたとしても、つまり誰がなんと評価しようとも、彼の経営の評価を、僕自身の知識と経験に基づいて行い、そしてそれを伝えていました。
他人を批判する以上、その根拠に間違いがないか?
その理論は、正しいか?
そんなことを毎度検証します。

しかし、僕が上場企業の一部のインチキ経営者を批判する目的は、彼らを叩きのめすことではありません。
読者の皆さんに、その「ケース(=事例)」を利用して、ファイナンスや経済についての理解を深めていただきたいからに他なりません。
(現実のケースを検証しない経済学なんて、なんの意味もありません。)

「あいつは駄目な奴だから関わるな」と、「答え」を伝え、押し付けるのではなく、
「そいつがどんな奴かを、まっとうに評価できる知識」を、得ていただきたいと思うのです。
しつこいようですが、経済については、「イメージ」だけで判断することは危険なのです。
しっかりした知識による評価が、貴方自身を守るのです。

PS^2:
と言うことで、本日は以前から御世話になっている「テレビ朝日」に、番組の収録のために行ってきます。
もちろん、ホリエモン関連ですが、彼個人を批判するつもりはありません。
あくまで「上場企業の経営者」としての評価に徹します。
放映が決まりましたら、この場でご案内しますね。





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