今も、年間数冊しか本を読まない僕は、しかし、常に良書と思える本にばかり出逢ってきた。
いつも問題意識を持ち、何を知りたいのかが明確になった時点でしか、本を買わないからだろう。
いつも価値のある本に出逢ってきた。
20代の前半、僕は、当時経営していたゲームソフト製作会社の経営に行き詰まり、ワラをもすがる気持ちで、本屋に居た。
「経営について知りたい」
そう願っていた僕は、書店の片隅に「上下巻」がセットになって置かれていたある本に吸い込まれていった。
派手な表紙でもなく、まして、全然興味を引くようなタイトルではなかった。
そして、その本の著者のことさえ、当時の僕は全然知らなかった。
本のほうから呼びかけてくるようだった。
他の本になど目もくれず、僕は「現代の経営」というタイトルのこの本を買い、帰宅してから一気に読んだ。
初めて、ピータードラッカーを知ったときだった。
そのドラッカーが亡くなった。
彼ほど、企業について熟知している人間は、他に居るんだろうか?
彼ほど、資本主義と企業を長年にわたって見つめてきた人間が他に居るんだろうか?
誰が彼の後を担うのだろうか?
少なくとも今の日本は、にわか知識を、自身の金儲けのためだけに、ひけらかす「なんちゃって学者」ばかりだよ。
僕もそのうちの一人かもしれない・・・と自分自身の知識と経験に、疑問を持つことを忘れちゃダメだ。
そうでなければ、そもそも彼の足元にも及ばない僕などには、先が無い。
そんなことを思い知らされた。
2005年11月14日 板倉雄一郎