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Deep KISS 第15号「企業買収で得を得る者、損をする者」

企業買収で直接的に得をするのは・・・
「実態経済価値に基づいた企業価値(=事業価値+非事業用資産)に対して、企業時価(=時価総額+有利子負債)が極端に高く評価されている企業の株主が得をし、また、その分損をするのは、前者より企業価値に対して、企業時価が低い企業の株主です。」

つまり、簡単な話、企業時価が実態経済価値以上に大きく評価されている企業は、少なくとも長期では、実態価値に見合うほどに時価総額は下落して当然ですが、「大きく見えている間」に、実体経済価値を手に入れれば、将来の時価総額の下落圧力を抑えられる・・・よって、時価総額に見合った実態経済価値を手に入れようとする、というわけです。

(以下の文章中の「言葉の定義」に関しては、DeepKISS第10号「言葉の定義」をご参照ください。特に「価値」と「価格」、または「時価」の違いに気をつけて読んでください。)

たとえば・・・(有利子負債が無い場合で話を進めます)
将来得られるであろう、割と現実的な、投資家に帰属するキャッシュフローおよび非事業用資産による企業価値が、
A社5000億円、B社5000億円だとしましょう。
このとき、A社は、注目を浴びる業界で事業を行っているなどの関係で、時価総額が1兆円。
B社は、古くからある業界であるがゆえに、時価総額が企業価値に均衡し、5000億円としましょう。
A社によるB社の敵対的買収であろうが、友好的買収であろうが、「合併比率」を、時価総額の比率によって決められた場合、合併後の新会社の株式保有比率は、「A社の元株主が全体の3分の2、B社の元株主が全体の3分の1」を占めることになります。
両社併せた実体経済価値に基づいた企業価値は、合併後のシナジーや合理化などの効果を無視すれば、5000億円+5000億円=1兆円ですよね。
よって、合併後、
A社の元株主の保有する企業価値は、およそ6600億円(1兆円の3分の2)
B社の元株主の保有する企業価値は、およそ3300億円(1兆円の3分の1)ということになります。
A社、B社ともに、合併前に単独で保有していた企業価値は、それぞれ5000億円ですから、A社の元株主は、合併により1600億円ほどの経済価値を手に入れ、その分B社の元株主が損をすることになります。

もし、合併によって企業時価に変動がないとすれば、新会社の時価総額は1兆5000億円(A社の企業時価+B社の企業時価)と、一時的にはなりますが、合併によるシナジーなど、新たな価値創造が行われなければ、合併後の新会社の企業時価は、いずれ、両社の企業価値の合計である1兆円周辺に収まることになります。
また、もし、合併後にシナジーどころか、社員同士の反りが合わないとか、当初計画のように新規事業がうまく行かないなどの価値破壊が発生すれば、長期では、破壊された価値周辺に時価総額は納まります。

あくまで一般論として、敵対的買収を仕掛ける企業は、概ね「実態経済価値より遥かに高い時価の場合が多い」というわけです。
被買収企業の経営者(=被買収企業の株主の代表)が、敵対的買収を嫌うわけですね。

「箱と箱をくっつけただけ」で、新たな価値が創造されるなんてことは、現実的ではありません。
本当に価値と価値のシナジーが発生するとしても、それは「業務提携=アライアンス」で十分なはずです。
それでも、なぜ「欲しがるか」は、以上の説明でお分かりいただけると思います。

さて、どのパターンでも、間違いなく得するのは・・・証券会社です。
証券会社の仕事とは、それがオンライン証券でも、いわゆる投資銀行でも、その仕事の本質は「出会い系」に他なりません。

2005年11月2日 板倉雄一郎





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