板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第51号「特別な方法?」

このところ、このWEBの過去のエッセイを読まれた読者の方から、基礎的な質問を多数頂きます。
しかし、「無料メール質問箱」ではありませんので、基礎的なことについてはご遠慮願います。

また、「板倉さんの方法では・・・」という質問を受けることもあります。
断っておきますが、「僕独自の方法」などありません。
僕がエッセイで書いている「価値評価手法」は、ディスカウントキャッシュフロー法を基礎においています。
この手法は、僕独自の方法ではなく、経済価値を評価する「唯一の方法」です。
ただし、一部(たとえば、割引率の設定など)、僕独自の方法はあります。

そもそも経済価値を評価する方法は、上記の方法以外にありません。
不動産においても、債券においても、株式においても、その価値評価の方法は一つしかありませんし、この方法は、資本主義の原理原則にのっとっているので、他の方法などありえません。
企業の社会的責任、競争優位性、ブランド力などなどは、確かに企業価値の一部ですが、それらは価値を生み出す上での「手段の一部」であり、価値を数値化して把握する上で、必要ではあるが十分ではない条件なのです。
経営者や従業員、そしてあらゆる利害関係者の努力によって、将来の業績が決まり、その結果として、投資家から観た企業価値が創造され、また、場合によっては破壊されるのです。

たとえば、不動産における「収益還元法」は、DCF法の一部ですし、
債券価格と利回りの算出も、DCF法の一部に過ぎません。
また、
株式投資における指標(PER、PBR、EPS、PCFR)は、しつこいようですが、スクリーニングのための一指標に過ぎず、また単独期の「会計上の利益」をベースにしているため、価値を把握する上での参考にはなりますが、極めて不十分な指標です。
事実、統計的にも、たとえば「PERとその後の株価上昇の関係」は、世界中のあらゆる国のあらゆる企業において、その相関はほとんどありません。
さらに、単独期のどの指標とどの指標を組み合わせようが、単独期の指標に過ぎず、これらも当てになりません。

一方DCF法による価値算定結果と、その後の株価変動の相関関係は、(米NYSE上場企業の過去15年間の統計結果によると)、その決定係数r^2(=アールスクエア)は、0.9弱ほどあります。
ちなみに、
r^2=1.0は、「完全相関」です。
PERとその後の株価変動の相関におけるr^2は、統計的にわずかに0.1程度です。
つまり、PERが当てにならないことは、統計的にも理論的にも証明されています。
「おりおば」にも詳しく書いてあります。

つまり、投資対象の経済的価値を算出する方法は、一つしかなく、それ以外は、部分を簡素化したに過ぎません。
そもそも、投資対象のリスクやリターンを、「たった一つの数値」に落とし込むことなど不可能です。
それは、株価と単独期の会計上の利益を因数にしたPERについても、
株価変動を数値化した「β(ベータ)」についても同様です。
そもそも、一つの数値を頼りに投資が成功するのであれば、すべての人が成功するでしょう。
そんなこと実際にはありえません。

投資対象のリスクとリターンを評価するには、いくつもの視点から投資対象の将来と、将来の経済的環境、そして株式投資であれば、その経営者の資質などを総合的に考えなければ、算出することは出来ないのです。

しつこいようですが・・・
投資対象のリスクとリターンを評価する手法は、世界にたった一つです。
「将来の投資家に帰属するキャッシュフローを、
        現時点でいくらが妥当と捉えるか」
それだけなのです。

しかし、その手法の因数は、評価者によって千差万別なのです。
だからこそ、同じ値段で「売りたい」と思う人と、「買いたい」と思う人が出会うことができ、資本市場が成り立っているのです。
自分の価値算定が正しいかどうか・・・それは将来になって初めてわかることです。
投資とは、常に、
「現在の価格と将来の投資家に帰属するキャッシュフローの交換」
なのです。
投資対象が生み出すであろう将来のキャッシュフローを予測し、
それに対してどの程度の、
「リスク認識=期待収益率=割引率」が適当であるかを計り、
割引現在価値を求める以外の方法は無いのです。
既に終わってしまった事実であるところの「チャート」や、「各種経営指標」は、少なくとも長期ではほとんど役に立たないのです。
(短期の値幅取りに専念したいのであれば、このWEBの文章を読む必要はまったくありませんし、また僕に対する反論(=資本主義の原理原則に対する反論)をする必要もありません。)

投資対象の価値を把握するということは、すなわち・・・
1、資本主義の原理原則を学ぶということであり、
2、企業を知るということであり、
3、投資家自身のリスクを軽減し、リスクに対するリターンを最大化し、
4、社会に対する議決権であるところの「カネ」を有効に利用する。
ということなのです。

儲けること(リターン)より、
損をしないこと(リスク)に注意を払う者が、長期では成功するのです。
歴史が証明しています。

価値を把握できない対象に、価格を支払うのは馬鹿げています。
価値を把握する知識は、あなたを一生守ります。
自分自身への投資は、
自分が将来生み出す「社会に提供する価値」を増加させます。
社会に提供する価値を増加させれば、お金は自然と付いてきます。
自分自身への投資で最も大切なことは、
「知識」を身につけることなのです。

つまるところ、僕の伝えていることは、
特別なことではなく、至極当たり前のことに過ぎないのです。

投資で成功したいのなら、「有価証券報告書」をしつこく読み込むことです。
もちろん、そこに書いてある情報から価値を把握するための手法についても、精通する必要があります。

2006年2月3日 板倉雄一郎

PS:
今、J-WAVEの生電話出演が終わりました。
ファイナンスについて理解のあるDJが相手だと、非常にやりやすいですね。





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