板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第31号「聴く耳を持つ」

ある読者から、以下のようなメールを頂きました。
(本人の了解を得て、無編集で掲載します。)

===メール===

板倉さん

こんにちは!

先日はセミナー申し込みのメールに対して早速返信していただき、
どうもありがとうございました。

実はセミナーを申し込む以前から、漠然と抱いていた疑問があります。それは
「『企業価値評価』の有効性とその限界」についてです。

株式投資を始めようとする僕にとって、価格ではなくその企業の価値に注目するという考え方は納得できるものでした。株価を形成している因数を求めるための計算式やその根拠も、考え方としては確かに合理的だと思います。
しかし、「不確実なものを定量化し数値化すること自体にそもそも限界があるのではないか?」という、考えてみれば当たり前の疑問に突き当たったわけです。

「ファイナンスについて勉強したい」とか、「投資について語れる仲間が欲しい」
とか、セミナーに参加する理由をみつけることは簡単です。
しかし、自分自身に正直になって考えてみれば、「投資によって利益を得たい」
と思ったことがそもそもの出発点でした。そして、「投資に対する判断基準を学ぶため」というのが、僕にとってセミナーに参加する最大の理由でしょう。

その上で、「セミナーでは『企業価値評価』の有効性だけではなく、その限界についてはどこまで言及してくれるのだろうか?」と疑問に思ったのです。
「『企業価値評価』の有効性だけを喧伝して、その限界を教えないのはフェアじゃない」と考えて、あらためて板倉さんの過去のエッセイに目を通してみました。

すると…。ありました。「SMU 第103号 『資本コストと割引率』」です。

このエッセイで板倉さんは、「将来の業績と割引率(=資本コスト)を算出する限界」をきちんと述べています。そして、「『何のために企業価値評価を学ぶのか?』ということを各人が意識することの重要性」にも触れています。
そして、以下の文章がセミナーに参加する人にとって一番大切な部分ではないでしょうか。


『つまり僕が「企業価値評価シリーズ」で生徒に伝えていることは、「企業価値評価の方法」ではなく「企業価値評価をどのように自身のビジネスに利用するか」になるわけです』


板倉さんのエッセイは過去の分も含めて一通り読んだはずでしたが、すっかり忘れていました(笑)。それだけではなく、僕自身の理解不足によって読み込めていなかったのかもしれません。まさに「情報の価値は受け手の能力に依存する」です(笑)。このエッセイが書かれたのも1年以上前ですし、非常に価値のある文章だと思うので再掲載されてはいかがでしょうか?

不確実な未来を予想することは誰にもできません。ましてやそれを誰かが教えてくれるなんてことも当然ありません。

板倉さんはよく好んでこう表現します。
「価値を生み出すのは、お金じゃない、人なのです。」

経済の仕組みをすべて数値化できるのであれば、最大の因数は「人」であり、
最大の変数もまた「人」であると思います。数字は客観的ですが、数字に表せないもっと大切なこともたくさんあると思うのです。

宮崎

===以上===

このメールを書いていただいた方は、既に1月の「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーへの御申込を頂いている方です。
上記のメールの内容に対する意見は、読者にお任せします。

僕が、このメールを掲載したのは、最近(ページビューは安定しているのに)読者からのメールが少なくなっていて、「どうしてだろう?」と思っていたからです。
おそらく、僕のエッセイの文章、行間から、「聴く耳を持っていない人間」という印象が、読者に伝わっているのではないか、と思っていたのです。
そんな中で、上記のメールを頂、ちょっとうれしかったのです。
この方は、「板倉は、自分の意見を聞いてくれるはずだ」と思ったからこそ、メールを書いてくれたのでしょう。
「聴く耳を持つ」・・・これ、僕がハイパーネット時代に持っていなかった能力です。
きっと、聴く耳を持っていなかったことが、僕の失敗の主要因の一つでしょう。

「聴く耳を持つ」、そしてその姿勢を出す・・・
すると、いろんな方が、いろんなことを教えてくれる。
凄く、御徳!!!ですよ(笑)

人ひとりの情報や知識なんて、ちんけなもんです。
また、ひとりの考えは、程度の差はあれ、偏った意見でしょう。
だから、他人の意見は、必要ですよね。
ただ、その結果、「常に中間的な意見を言う」という人間にも、なりたくありません。
(だって僕は、ニュースを読み上げるだけのアナウンサーでは無いですから)
様々な意見を拝聴した上で、自分なりの信念を持った答え、を出し続けて生きたいと思う次第です。

2005年12月21日 板倉雄一郎

PS:
宮崎さん
僕は、いたるところで、エンタープライズDCF法の問題点を指摘しています。
ご指摘の、SMU第103号「資本コストと割引率」については、エッセイばかりではなく、毎回セミナーでも強く勧めている内容です。
また、株主資本コストを算出するための手法=CAPMについても、いくつかの過去のエッセイでその限界について言及しています。

そもそも揺れ動く不確定な将来を「正確に」予測することは不可能です。

しかし、投資とは、常にその将来性を見込んで行われるのですから、可能な限り現実的な方法で、投資対象の将来業績予測から現在価値を求めるしかないわけです。

量子力学を持ち出すまでもなく、将来は「確率でしか」予測できません。
しかし、その確率さえも判明しない場合と、不完全ではあるが、確率だけでも判明したほうが、リスクを低減し、リターンを高められるはずです。
企業価値評価の過程では、必ずその「企業を知る」必要が出てきます。
この過程は、投資家のリターンの増大(または損失の軽減)ばかりではなく、経済システムへの理解、日々の仕事に役立つ知識、そして社会に価値を提供する上で、非常に参考になるはずです。

1月の合宿セミナーでお会いするのを、楽しみにしています。





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