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Deep KISS 第23号「地方のビジネスモデル」

講演で地方に行く機会があります。
たとえば、地方のJC(青年会議所)に御呼ばれしたとき・・・
彼らの一つの大切なミッションとして「町興し」、「村興し」というものがあります。
彼らが言う、その具体的な手段の一つは、「たくさん稼いで、地域に寄付行為をする」だそうです。

馬鹿な!

もし彼らのビジネスが、彼らの地域をマーケットにしているとすれば、寄付行為など、地域社会の活性化に対してほとんど何の効果もありません。
なぜなら、価値100の商品を、地域住民に価格200で販売し、得られた100の利益から寄付を行うのであれば、最初から価値100の商品を価格120とかで売ることによって地域住民(この場合は顧客)への配分を増やした方が、税や手間などを負担しなくて済む分、合理的だからです。

さらに、経済価値の還流について、介護ビジネスを例にあげれば・・・
地方都市は、東京都心に比べ、明らかに「高齢化」が進んでいます。
彼らの介護を実現するために、東京都心にある「大手介護ビジネス」の誘致を考える「馬鹿者」も居るようです。
東京に本社のある介護ビジネスを誘致すれば、確かに介護サービスは、あんちょこに実現できるかもしれません。
しかしながら、そのビジネスによる利益の大部分は、東京の本社に帰属し、その分は当該地域には還流されないのです。
したがって、東京に本社のある企業のフランチャイズなり、支店なりが地方都市で営業活動を行うということは、「地域の経済価値を東京に流す」という行為に他ならないのです。

何度も書いていることですが、企業はモノではなく、仕組みです。
顧客、取引先、従業員、債権者、株主、そして国や地方地自体など、その企業の利害関係者から、必要な経営資源を調達し、調達した資源を組み合わせることによって経済価値を創造し、その結果、創造された経済価値を、再び上記の利害関係者に配分する「仕組み」です。

その事業が予想以上に儲かれば、その儲けの大部分は株主に帰属し、予想通りに儲からなければ、その負担の大部分は株主が負担するわけです。
(だから、株主は、他の利害関係者よりハイリスク・ハイリターンとなります)
この仕組みを理解した上でなら、東京に本社のある企業が地方で活動することの効果について容易に理解できるはずです。
その事業が利益を生み出せば、その多くは東京の本社に帰属し、その先には本社の株主が居ます。
この地域の住民がこの企業の株主になっているケースはほとんどありません。
したがって、結果的に、地域の経済価値が東京に移転し、地域経済はなおさら衰退するといえます。
確かに、一時的には、地域の雇用機会が増えるかもしれませんが、地域経済が受け取れる経済的価値は、当該企業の従業員としての配分だけというわけです。

この介護ビジネスを例に、合理的な手段とは・・・
地域の資産家や事業家(たとえばJC会員)などが、こぞって出資なり融資なりを実施して地域独自の介護ビジネスをスタートアップさせることです。
若い従業員が不足すれば、近場の大都市からニートでも、何でも連れてきて、その地域に住まわせればよいわけです。
以上の提案を実現すれば、その事業収益の配分は、従業員への配分だけではなく、債権者、株主への配分も、地域住民に帰属するというわけです。
結果、事業が全うに実現できれば、地域経済は、同様のサービスを行う東京のフランチャイジーを誘致するより、はるかに潤うはずです。
特に介護ビジネスは、大量生産によるスケールメリットがあるような事業活動ではなく、あくまで「人海戦術」ですから、なおさら東京に本社のある大手企業を誘致するメリットは、地域においてほとんど無いわけです。

(フランチャイズビジネスを前面否定しているわけではありません。
特殊な技術や、スケールメリットなどが、そのビジネスの肝である場合、全国の地域でバラバラに事業を展開するより、全国まとめて一つの企業が商品を提供した方が、その企業の利害関係者にとってのメリットを最大化できる場合もありますし、大規模な工場などは、そもそも地域の資本だけでは成り立ちません。)

さらに、地方のダメダメビジネスモデルに関する話が続きます・・・

先日、秋田ソフト産業展&ベンチャープラザ展にて基調講演をさせていただきました。
講演後、主催者の案内によって、ソフト展の会場を一通り見回りました。
展示されていた事業は・・・
ケータイを利用したマーケティングサービス、
(↑ そんなのわざわざ作らなくても、既にたくさんあります)
北東北地域のショッピングモールサービス、
(↑ 販売地域限定に、一体どんなビジネス上のメリットがあるのかさっぱりわかりません)
ショッピングサイトをYahoo!などに登録代行をするサービス、
(↑ 自分でできるでしょ)
データ分析ソフト、
(↑ 死ぬほどたくさんの競合があります)
メールとCRMが合体したサービス・・・
(↑ もおええちゅうねん)
などなど、十数社が出店していた商品やサービスに共通するのは、
1、 どこかの会社が既に実現している商品やサービス
2、 基軸になる技術やインフラを、他社(他の地域の企業)に依存
3、 秋田や北東北などの地域を商品マーケットにした事業
です。
主催者や該当する企業の方々には申し訳ありませんが、正直に書きましょう・・・
「こんなのじゃ、事業が成功するはずありません」
まして、地域活性化などにはまったくなりません。
なぜなら、彼らのビジネスモデルは要するに、地域外から重要な資源を調達し、地域内へそれを販売するということに他ならないからです。
地域外から「高い人件費によって作られた重要な資源」を調達し、地域という非常に小さい商品マーケットを相手にしているわけですから、自ずと限界があるわけです。
地域で事業をする以上、地域の優位性を最大限に発揮できるビジネスでなければ、成功などするはずがありません。
東京の企業群に敵うはずがありません。

地方の優位性とは、
1、 東京に比べ安く労働力を調達できる。
(地方の人間が低付加価値だから労働コストが安いと言及しているのではなく、労働力に対する対価を「カネだけ」で捉えず、自然環境や地域でのふれあいなども含めて考慮していると思いたいです)
2、 ネットとロジスティックスを積極的に利用すれば、全国を商品マーケットとして捉えることができる
という点です。
よって、地方で行う合理的なビジネスモデルとは、
1、 地域の資産家が投資家となり、
2、 地域の人材を育て、労働者として採用し、
3、 出来た商品を、ネット&ロジスティックスによって全国に販売し、
4、 地域へ経済価値の還流させる。
となるわけです。

先のソフト展に出店されていた企業の多くは、これとは全く逆をやっているというわけです。
なんだか「ミニミニ東京ごっこ」にしか見えませんでした。
うまく行くはずありません。

一方、この地域で成功しているビジネスはというと、たとえば、地酒(あきたこまちベースの日本酒)などを、全国に向けて販売している企業などです。
この事業は、まさに上記の条件であるところの、「地域の独自資源を地位の労働力で生産し、ネット&ロジスティックスを利用することによって全国を商品マーケットにしている」といえます。

また、テレマーケティングを実施する大手企業のコールセンターなどもうまく行っているようです。
この場合も、東京の大手企業のコールセンターを単に誘致するのではなく、地域の資産家などが出資をし、コールセンターの機能を実現し、その上で東京の大手テレマーケティング企業に売り込んだほうが合理的です。

ビジネスの成否など、それを企画した段階で判明するものです。
こんあ当たり前のことに気がつかず、金と時間を浪費していたのでは、地域経済はますます衰退するばかりです。
東京の真似をしていたのでは、全然ダメなのです。
寄付などでごまかさず、「事業そのもの」が地域の活性化につながる様なビジネスモデルを考え、実行するべきなのです。

以上の、「地方と東京の関係」は、そのまんま「日本と外資の関係」に置き換え可能です。
すばらしく価値創造を行う日本企業は、いつの間にか、外資に買い占められています。
その結果、日本経済は、「労働者としての配分」しか受けられなくなってしまいます。
日本人の資産の「大部分」は、それ自体が経済価値を創造しない対象にばかり向いているか、または、それ自体が価値創造を行う「日本企業」を、「博打の対象」としてしか捉えていません。
大変残念なことです。
「資本に国内も海外も無い」と豪語する方が居ますが、そのような方は、資本の意味を理解できていないのです。

2005年11月24日 板倉雄一郎

PS:
地方講演で、もう一つ気がつくところがあります。
それは、宿泊先のホテルです。
いずれの地方都市でも、「なんちゃってホテル」なのです。
先日のある地方のホテルでは、朝シャワーを浴びようとしたら、なっなんと「御湯が出ない!」のです。
フロントにクレームを言ったら、とりあえず工事人と支配人が部屋に来ましたが、結論は、「朝は、熱いのがでないんですよ・・・他の部屋も出ません。」だと。
僕が、「他の宿泊客から苦情は出ないの?」と伺うと、
支配人、「朝はシャワー浴びませんから」とのたまう。
あきれ果てます。
こんなことなら、「ホテル」などと気取らずに、元からあったであろう「温泉旅館」の方がはるかにマシです。
古い木造の寂れた温泉旅館は、「東京にはありません」。
だからこそ、地方に行く意味があるわけです。
地方は、東京になど憧れず、地道に地域特性を残した方が、少なくとも長期では経済価値を創造できるはずです。
ミニミニ東京なら、東京からわざわざ行く必要はありませんから。

PS^2:
秋田の話しですが・・・
「きりたんぽ」と、「比内鳥」は、うまかった。
バスフィッシングに凝っている人になら、「八郎潟」があります。
紅葉を楽しむなら、日本一水深の深い「田沢湖」があります。
空路なら、わずか1時間です。
要は、
「そこに行く理由」を創出できるかどうか、
「そこから生み出される商品」に魅力があるかどうか、
です。

PS^3:
特に「秋田美人」は見当たりませんでした(笑)





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