板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第39号「いそぐな危険」

このところ「おりおば」効果なのか、メディアの取材をたくさん受けています。

取材テーマは、「お金」、「経済」、そして何と言っても「株式投資」に関わることです。
インタビュアーの最初の言葉は、決まって・・・
「昨今の投資ブームで、乗り遅れまいとする読者が多いのですが・・・」
となるわけです。
で、僕以外の同テーマに関する取材先は、
「チャートがどうとか」(←笑)
「日経平均が上がるとか下がるとか」(←笑)
「誰がいくら儲けたとか」(←儲かった人の話題ばかり(笑))
といった内容ばかりらしく、そのノリで僕の取材する記者の方は、僕の発言にあっけに取られるわけです。

「乗り遅れない」のは、大切なことですが、
そもそも乗ろうとする列車だか、飛行機だか知りませんが、それは一体、
「どこ行きの乗り物なのか?」を、知らなきゃ話になりませんよね。

「乗り遅れまい」と、慌てて乗ってみたら、
「乗客からカネを巻き上げながら、自分だけジェット機で遊んでいる運転手の列車」だったり、
「乗客を大切にします!と謡いながら、旅行代理店に運転手がだまされ、一部の人たちに他の人より安くチケットを売る運転手」だったり、
「地獄行きの列車であることを承知しながら、行き先を偽り、乗客を集めようとする運転手」だったり、
「その列車、見えないところは、もうボロボロなのに、客室だけ綺麗に繕った列車」だったり、
「他の乗客が、たった一駅だけの乗車で、自分だけ取り残され、着いた先は地獄」だったり、
そんな乗り物に、慌てて乗りたいのですかね?

どんな乗り物(=ビジネスモデルや競争優位性)で、
どんなところ(=マーケット環境)を走り、
どんな運転手(=経営者)で、
他の乗客(=自分以外の株主)が、どんな人たちで、
結局どこ行き(=株主価値が増えるのか減るのか)なのか?
これらを知らないで、これらを計る術を持たず、
「自分が働いて稼いだ大切なお金」を、
「きっと、どの列車も天国行きさ!」とか、
「どうせ一駅しか乗らないから」などと安易に、
「パソコンとネットを使った旅行代理店(=証券会社)」を通じて、
チケット(=株式)に投機してしまう・・・
そういう人、たくさん増えているようです。

あわてる必要はありません。
その列車に乗る価値に比べ、チケットが相当に高い列車もあれば、
その列車の行き先が本当は天国なのに、皆が気がつかず、チケットがあまり売れず、チケットが安く売れられている列車もあるのです。

相場全体があげているということは、「割高」のチケットを掴んでしまう可能性が高いわけです。
相場全体があげているときこそ、あわてず、「どの列車が良いのか」を見抜く知識を蓄える時期なのです。
そして、「相場が何かの要因で、下落するとき」を待てばよいのです。
ババ抜きに巻き込まれては、あなたの大切なお金がもったいないです。

つまり、
「企業価値評価が出来るまでは、株式投資をしない方が良い」
のです。
だって、「ニンジン」買うにも、「家」を買うにも、買うことを決める前に、「どんなもんであるか」は、ちゃんと見るでしょ。
企業のスージをみて、「ニンジン」同様、その「価値」についてわからなかったら、買わないほうがいいですよ。

では、誰に知識を教わるべきか?
はっきり書きましょう・・・あなたと同じポジションを持っている人で、且つ、十分な知識と、十分な説明能力と、十分な経験を持っている人から教わることが大切です。

たとえば、証券会社主催の株式投資セミナー・・・
すべての証券会社のセミナーがいかがわしいとは申しませんが、基本的に「お勧めしません」。
なぜなら、あなたと証券会社では、そのポジションが違うからです。
彼らの収益を考えてみてください。
彼らの収益は、
1、 取引手数料・・・だから彼らは、煩雑に取引するように薦めます。
2、 信用取引の金利収入・・・だから信用取引による資本レバレッジを薦めます。
つまり、彼らとあなたの利害は、必ずしも一致しない・・・どころかむしろ相反するものです。

たとえば、投資利回りを宣伝材料に使う「自称カリスマ投資家」・・・
こちらもすべてがいかがわしいとは申しませんが。
彼らは、多くの場合、自分の投資実績を「個別銘柄」を例に挙げて説明しています。
また、彼らの発信する情報は、「個別銘柄」です。
なぜだかわかりますか?
多くの場合、「自らが仕込んだ後に、周囲に買わせ、価格が上昇したときに売り逃げる」からなのです。
あなたと、全く利害が一致しません。

たとえば・・・(もうええちゅうねん)

つまり、あなたと利害が相反する人から知識を教わってはいけないと言うことです。
僕も含め、あらゆる人は、ポジション(=社会的なポジション、投資のポジションなどなど)を持っています。
すべての発言は、「ポジショントーク」であることを、忘れてはいけません。

投資とは、「現在の価格と、将来のキャッシュフローの交換」です。
価格とは、株式投資の場合「株価」です。
価値とは、すなわち「将来の投資家に帰属するキャッシュフロー」です。
その価格を支払って、その代わりに「価値」を手に入れることを投資と表現します。
価値 > 価格
のときに、初めて投資による経済価値が増大するのです。

つまり、「価値算定」が出来なければ、単なる博打に過ぎないのです。
いかがわしい「価格変動」だけを根拠にした書籍を読んだり、セミナーに行かれた方は、彼らの話の中に「価値」に関する話題がほとんど無いことにお気づきでしょう。
彼らの多くは、「企業価値算定」なんて出来ない人ばかりなのです。
自分の金を投じている対象が、「一体どんな価値があるのか」がわからない人が、「売り買い」を教えているに過ぎないのです。

情報そのものより、その情報を発信している人のポジションによって、その情報を受け入れるかどうかをまず考えましょう。
慌てる必要はありません。

何より貴方自身のために。

2006年1月16日 板倉雄一郎

PS:
週末は、「アドバンスド・ファイナンス」丸一日セミナー、
そして、3月発売予定のDVDの撮影でした。
いつものように、サイコーにエンジョイしました。
日曜日のDVD撮影後、16時過ぎから始まった打ち上げが、延々続き、終わったのは23時過ぎでした。
なにせ、楽しい仲間ばかりですから、時間はあっという間に過ぎてしまいます。
本当に、楽しくてたまりません!
今の事業を始めて、本当に良かったと思います。
みなさん、ありがとうございました。

PS^2
「アドバンスド・ファイナンス」丸一日セミナーは、ご好評につき、3ヶ月に一度程度の実施を予定しています。
次回の実施が決定しましたら、この場でお知らせいたします。
アドバンスでは、企業の様々なオペレーションが、企業価値に与える影響を紐解いてゆきます。
たとえば、MSCB(=Moving Strike Convertible Bond=転換 価格(下方)修正条項付き転換社債)を発行したインチキ経営者のことを、僕はKISSなどのエッセイでたくさん書いてきましたが、これが如何に「株主を食い物にしたオペレーションであるか」が、理論的にしっかり理解することが出来たりします。
ちなみに、アメリカでは、MSCBなんていわないのです。
彼らは、MSCBのことを「Death Spiral Convertible」と表現します。
非常に的を得た表現ですね。
MSCBとは、「もうだめ、つぶれそう、でも株式が紙切れになるよりは、マシでしょうから、株主様ごめんなさい、あなたたちを毀損しながら、資金調達をします。」という「死にそうな会社が使うモルフィネ」なのです。
既存株主が毀損された分、MSCBを引き受けた証券会社が儲かるのです。
こんなもんを、「どうせ株主はバカばかりだから、わからないだろう」なんて思いながら使う経営者が淘汰されないのは、あまりにも資本主義後進国ですよね。
日本の市場が成熟し、投資家が賢くなったとき、過去にMSCBを発行した経営者は、きっと後悔することになるでしょう。
こいつら、自社の株主を毀損しながら、自分は、ジェットやマイバッハとか乗っていたりするのですから、あきれ果てます。

もちろん、アドバンスで講義するのは、MSCBばかりではありません。
詳しくは、案内ページをご覧ください。
ただし、「企業価値評価」の基礎を理解している方でなければ、ほとんど理解できないとは思います。





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