板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第71号「企業価値の測定方法」

本日は、出血大サービス!(←は誇張しすぎ)にて、企業価値の測定方法を書いて見ましょう。

巷では、PERだとか「配当利回り」だとか、株式投資において、てんで当てにならない「単独期の業績」を頼りにした投資指南が出回っています。雑誌も、なんちゃってわかったつもりの方のブログも、なんもかんも・・・見ているほうが恥ずかしくなってしまうので、「もっとも簡素で、最も確実な」測定方法について書いてみます・・・

以下の文章は、DeepKISS第66号「企業価値(図解)」の図を見ながら、DeepKISS第10号「言葉の定義」を良く御読みいただき、ご理解されてから読んで下さい。

投資家から観た企業価値を測定する場合・・・企業価値=事業価値+非事業用資産となり、企業価値を配分する場合・・・企業価値=株主価値+債権者価値となります。

上記の式の因数の中で、明らかなことは・・・債権者価値=有利子負債総額であり、また、測定は難しいのでその詳細は割愛しますが、非事業用資産もまた、測定時点で明らかです。よって、「事業価値」が問題であり、また重要です。

事業価値の測定方法は・・・事業価値=FCF(1) / (WACC-g)で、得られてしまいます。(この式は、当事務所作成の特製Tシャツにも印刷されています(笑))

なお、FCF=投資家に帰属するキャッシュフロー(フリーキャッシュフロー)WACC=当該企業の加重平均資本コストg=FCF長期成長率です。

WACCについては、SMU第103号「資本コストと割引率」を参照いただき、株主資本コストに「自分勝手割引率」を適用してください。また、gについては、あくまで「超長期のFCF成長率」ですので、注意が必要です。gは大きくても、2%程度が適当です。

また、FCFの求め方は、四季報などから・・・FCF=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー
にて得られますが、これは「前期」のFCFです。正確に上記の式に当てはめるべき「FCF(1)」は、測定時点から1年後のFCFですから、長期成長率をgとすれば、
FCF(1)=FCF(前期)*(1+g) で得られます。

以上から、当該企業の理論株主価値は・・・
理論株主価値(=時価総額の目安)=[ FCF(1) / (WACC-g) ] + [非事業用資産] - [有利子負債総額]となり、一株あたり理論株価は、一株あたり理論株価=理論株主価値 / 総発行済み株式数で得られます。得られた理論株価と株価を比較し、「割高or割安」は簡単に算出できます。

ただし、以上の計算を適用できる企業には、条件があります。「安定成長期にある企業」にしか適用できません。また、安定成長期の企業であっても、採用する期のFCFが、「特別損益」の影響を強く受けている場合、上記の式に適用できません。なぜなら、単独期のFCFをベースに、そのFCF成長率を、現在から未来永劫「g」で固定してしまうからです。実際に適用できる企業とは、電力会社だとか、競争の少ない老舗企業などに限られます。

実際に、計算してみるとわかると思いますが、上記の計算式を条件を満たした企業に適用すると、「裁定幅はほとんどない」という場合ばかりです(笑) つまり、上記の式が市場でも認められていて、上記の式から算出される「価値」に対して、市場の「価格」は、その周辺に形成されるというわけです。 上記の式は、正しく、しかしよって、上記の式では、「大して儲けられない」というつまらない話しになってしまいます(笑)

現実には、上記の式では解決できない、様々な要素を数値として落とし込み、また、経営陣をはじめとする「人」を評価して初めて真の「企業価値評価」が可能となります。が、冒頭にも書いたように、これほど確かな計算式があるにもかかわらず、「インチキ単独期指標」が巷に溢れているので、書いてみました。また、上記の式では、「時間経過による価値創造」に関しては考察できません。
本来、株式投資では、「裁定幅」+「時間経過による価値創造」の二つが重要です。上記の式は、
「非常に簡素な価値の把握方法」に過ぎませんので、あしからず。

そもそも、株式投資は、投資の中でも「最もその評価が難しい」投資対象です。たった一つの数値によって「儲け」がわかるほど、単純なものだと、本当に思いますか?そんなこと、あるはずありません。たった一つの、それも単独期の会計上の業績を頼りに、「これでOK! あなたも株式投資で成功!」などと妄言を吐く人やメディアを見つけたら、「こいつは嘘つきだ!」と思っていただいて、間違いありません。
そのような方は、
1、そもそも何もわかっていない
2、わかっている上で読み手を都合よく利用しようとしている
のどちらかです。

上記の企業価値計算式でさえ、難しいと思う人には難しいでしょう。しかし、これでもものすごく簡素化している式です。正直、企業価値に関するこれ以上の簡素化は不可能です。これで理解不能なら、株式投資など「絶対にやるべきではない」と断言します。株式投資は、本来、非常にリスクの高い投資対象です。しかし、しっかり知識を得れば、しっかり儲けられるのです。
「急がば回れ」
知識を得るのは簡単なことではありませんし、お金も必要です。しかし、その手間を嫌い、安に逃げれば、間違いなく損をします。その点、よーくご理解いただきたいと思います。
大切な皆さんの資産を守り、効率よく増やすために。

2006年4月6日 板倉雄一郎





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