皆様ご存知のように、中央青山監査法人に対し、カネボウ粉飾事件に「故意に関わった」として厳しい処分が決定されました。
なお事件の詳細、および処分の詳細などについては、そこいらの情報を適当に参照ください。
結論:
「東証など上場株式市場関係者が監査報酬を上場企業から徴収し、東証などが監査法人に監査を割り振り、監査対象企業と監査法人の直接の取引を無くせば良い」
ということです。
過去に既に書いたことです。
Deep KISS 第62号「ガバナンス」是非お読みください。
この仕組みであれば・・・
監査法人が、監査対象企業の粉飾を発見できなければ、監査法人にとって直接のクライアントである東証に怒られ、場合によっては仕事を減らされる。だから会計が適正であるかどうかを監査法人は一生懸命探る。
また、監査対象企業は、東証から「ウソつき!」と言われれば上場を廃止されてしまうから監査に協力する。東証は、真っ当な会計を行う企業の株式取引を行うことができ、投資家から信頼される。
結果、ガバナンスが実現するというわけです。
もちろんこの方法も完璧ではありませんが、現行の「監査法人のお客様が監査対象企業」よりは遥かにマシです。
「人」が変わらなければシステムの問題を根本的に解決することはできませんが、「人」の心に「魔」が差してしまうことを助長するようなシステムは改善すべきです。
人の行動を規制する制度は、ガバナンスが働く制度であるべきです。
そうでなければ・・・
「ある事象が適正であるかどうかを監査する人を、監査する人が必要になり、その監査する人をさらに監査する人が必要になり、その(も~ええちゅうねん)」となってしまうからです。
結局、人を監査するのも人ですから、システムだけに依存しても解決できませんし、人のモラルだけを便りにもできません。
つまり、「規制」ではなく、「ガバナンスが働きやすいシステムを作ること」が大切なのです。
このような事件と処分を見るに付け、僕は毎度思います・・・
1、どのようなシステムでも、それに参加する人間の、システムに対する理解やモラルがなければ、システムは機能しない。
2、悪事を働いたものを処罰することも大切だが、そもそも悪事を働かせない利害関係者の存在が欠かせない。
という点です。
1については、何度も書いているように「資本主義の問題」ではなく、資本主義に対する理解とモラルのある人間を育てなければ、資本主義が機能しないということです。
参考エッセイ:
⇒ DeepKISS第48号「武器を持つ者のモラル」
⇒ ITAKURASTYLE「資本主義」
また、2については、何度も書いているように、
たとえば、詐欺師をとっ捕まえることも大切ですが、そもそも詐欺に引っかからないような人間を教育によって創ることがとても大切だということです。
当事務所も、多くの人がフィナンシャル・リテラシーを高めることによって、インチキを防ぐという考えの下活動しています。
監査法人という「法人という会計単位またはブランド単位」を処罰したところで、監査の需要そのものが減るわけではありませんから、むしろ「ちゃんと決算できるの?」という投資家からの疑問を持たれる企業が増えるだけです。
(もちろん処分そのものに対して否定しているわけではありません)
よって、中央青山の公認会計士が他の監査法人に移籍して、多くの監査需要をこなすだけでしょう。結局のところ、システムを支えるのは「人」なのですから、「人」そのものが変わらなければ、「箱」を処分したり、規制を増やしたりしても、何も変わらないのです。
今回の事件・・・
そもそもカネボウの経営陣に「悪情報も正確に伝える」というモラルがあったなら、監査法人が勝手に粉飾したでしょうか。
するはず無いですよね。
なぜなら、監査法人の監査報酬を直接支払っているのは、監査対象の企業だからです。
監査法人にとって監査対象企業は、「お客様」ですから、監査対象企業の言いなりになる可能性は否定できないのです。
上場企業のバリュエーションをしていると、カネボウ以外にも、「変だなこの会社」という粉飾バレバレな企業がいくつもあります。
「膿」が出るのは、これからです。
僕が(公知の情報を分析する範囲で)知っている、ある「粉飾バレバレ企業」の監査法人は、中央青山以外の大手監査法人だったりします。(セミナー卒業生は、どの企業で、どの監査法人であるかお分かりですよね)
事件のたびに「箱」を処分するだけでは、実効的な効果が得られないばかりか、監査業務を頼める先がなくなってしまいます(笑)
しつこいようですが規制や法を増やしたところで、減らしたところで、それを守り、システムを機能せしめるのは、「人」なのです。
監査法人ばかりではなく、経営者も、従業員も、取引先も、そして株主も、すべての当該企業の利害関係者が真っ当である企業への投資が如何に大切かお分かりになると思います。
2006年5月11日 板倉雄一郎