板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 臨時号「おいおい(笑)」

たった今、テレビ東京のとある「経済番組」を視聴しています。

「世界で一番株のことがわかる本」(題名は違っているかも)の著者が出演中なのですが、彼によると、株で失敗しないためには・・・。

 1、チャートを良く見る。
 2、配当利回りを見る。
 3、個人投資家の強みを生かす。

なんだとさ。(笑)

これで、ミリオンセラーなのだから、ミリオンという数の個人投資家に損をさせることになるね。

株式投資で失敗しないためには、

 1、価値算定を身につける。
 2、支払う株価以上の株主価値を手に入れる。
 3、投資対象企業の価値創造(事業への再投資による複利効果)
   の恩恵を受ける。

なのです。番組では、相変わらず、過去のチャートを指さし、いくつかある山のてっぺんで「売り」、谷底で「買い」なんだとさ。(爆笑・・・あんまり笑わせないで欲しいよ)

そんなこと正確に予測できるのなら、まさに「神」だよね。

過去のチャートをみて、
「(谷の底を指差し)ここで買いです」
「(山のてっぺんを指差し)ここで売りです」
なんて、、おいおいおいおいおい、小学生だってわかるっつーの。

過去のチャートが「急騰」していたとしても、株主価値がそれ以上なら売る必要はありません(=急騰直後に利益確定売りによる株価下落があったとしても)その後、ある程度の時間経過によって価値に見合う程度まで「更に」上昇します。

また、過去のチャートが「暴落」していたとしても、株主価値がそれ以下なら、そのうち「もっと」下がります。

そもそも、チャートのカタチで言うところの、「山のてっぺん」は、後になってから「あれが山のてっぺんだったのね」と分かるだけですから。

更に・・・「配当利回りが高い」ということは、もう再投資対象が限られている(=これ以上複利効果が得られない)ということなのであって、企業の成長ステージ(導入~成長~成熟~衰退)の中で、成熟期以降であれば、再投資対象が少なくなるので、配当すべきですが、それ以前のステージの場合、配当で企業から現金を吐き出してしまうより、その現金をもっと利回りの良い事業に「企業内部で」再投資すべきです。

その結果、投資家に帰属する「将来のキャッシュフロー」が増大し、現時点での株主価値が(複利効果により)増大するわけであり、株主価値の増大は、時価総額の増大、つまり株価上昇になるのです。

例えば、マイクロソフトの場合、2003年からやっとこさ配当を開始し、2005年度およそ8兆円の有り余る現金を、配当と自社株買いで株主還元しましたが、これは極めて合理的なオペレーションです。

なぜなら、これまでの同社ほど、これから先の同社にとって、再投資対象が見つかるわけではないので、株主から預かった金を、株主にお返しするというわけです。

当然ですが、配当した分だけ「株主価値」は下落します。
当然ですが、その分だけ「時価総額」も下落します。

一方、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの場合、これまで「ただの1セントも」配当をしたことがありません。

(正確には、1967年に一株辺り10セントを配当しましたが、これ以降一度も配当していません)

彼は、次々と新たな投資対象を見つけだし、再投資しています。

結果、バークシャー・ハサウェイの株価は、ご存知の通りです。
米Yahoo!Finannceにて、シンボル「BRK-A」と検索してみてください)

ビル・ゲイツ氏、ウォーレン・バフェット氏のどちらも「真っ当な経営者」というわけです。

【参考エッセイ】
 ⇒ 過去のすべての KISS と Deep KISS。

いやいやあまりにも酷い内容にビックリしたテレビ鑑賞でした。

2005年10月26日 板倉雄一郎

PS:
こんな本がミリオンセラーなんだね。

株式投資でも、普段の経済活動でも、「支払った価格 < 価値」で初めて損が減り、資産が増えるんだけどね。

株式投資歴が短く、かつ間違った理解(=つまり素人ね)のまま、「本にして多くの人に伝えてしまう」ことの「害」を、後に気がつくことになるでしょう。

そもそもこういう人って、「なぜそこに株価が存在するのか?」ということを考えたことあるんですかねぇ???「株主価値が時価総額を担保している」なんて、この著者に言ってもチンプンカンプンなんでしょうね。

「売れてる本=本当のことが書いてある」とは限りませんね。ご注意を。

それにしても、あまりにも酷い内容にビックリ。個人投資家をミスリードして、損させたらどうするの?

まぁ、「売れる本」を作る能力は、僕より優れているのでしょうけど。(笑)





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