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Deep KISS 第2号「カタチに拘るなっちゅーの」

先日、某「若者向けガッツ系ビジネス雑誌」(←なんのこっちゃ)の取材を受けた。
予めメールで送られてきた「質問リスト」には、以下のようなことが書いてあった。

◎2005年の独立・起業の状況と2006年のそれとで、明らかに違う
と予想されることはありますか。あるとすれば、どこで、その理由
を教えていただけますか。
◎2006年、独立・起業をするにあたって狙うべき業界はありますか。
◎上で挙げていただいた業界を狙うために身につけるべきスキルは
ありますか。
◎逆に回避するべき業界はありますか。
◎どんなところにビジネスチャンスの鉱脈がありそうですか。
◎ビジネスチャンスの鉱脈を見つけるコツはありますか。
◎2006年5月施行の「新会社法」は、独立・起業にどんなメリット
をもたらすと思われますか。
◎新社会法は、サラリーマンの副業に関してどんなメリットを
もたらすと思われますか。

この質問リストを読んで、僕はすぐに思った。
「なんでまた、こんな質問を僕によこすのだろう?」
そこいらの出たがり会計士だとか、出たがり弁護士に質問すればよい内容だ。
(断っておきますが、会計士や弁護士「全体」を馬鹿にしているわけではありません。)

「新会社法」がどうのこうのって話は、そもそも本質的に起業するにあたって、大した問題ではありません。
たとえば一時期もてはやされた「1円起業」なるものがあります。
これだって、「1円起業制度」そのものが経済価値を生み出すわけでもなければ、人が行う経済価値創造を容易にするわけでもありません。
単に「株式会社」という冠を「付けやすくなった」というだけの話で、「株式会社」という冠が無ければ商売が出来ないようなら、そもそも商売などやらないほうが良いとさえ思います。
(事実、当事務所は、サラリーマンの一般的な週末起業以上の経済価値提供を行っていますが、届出としては、板倉雄一郎の個人事業です。)

以上のように主張すると、「株式会社の最低資本金は、1000万円の方が良かった」と、僕が主張していると勘違いされる方がいらっしゃいます。
僕の主張は・・・そもそも株式会社の設立に、最低資本金が設定されていること自体がおかしかったわけであり、それが是正された「だけ」なのに、あたかも「1円起業」が経済価値創造の起爆剤になったかのような報道や主張(=主にそれを実施した政治家)が見受けられるので、「そいつはおかしい」と主張しているわけです。

顧客が「カネを出しても欲しい」と思う商品なりサービスなりを提供していれば、それが株式会社だろうが、有限会社だろうが、個人だろうが、そんなカタチは「本質的には」どうでもよろしいわけです。
ただし、「税効果」は無視できませんから、この点において「制度=税制」は上手に利用するほうが良いと思います。
その辺りは、僕ではなく、「出たがり○×士」に聞いて欲しいものです。

また、質問の中に「狙うべき業界はどこか?」なるものがありますが、これだって答えようがありません。
敢えて答えるなら、「すべての業界」といわざるを得ません。
ITだの、不動産だの、騒がれていますが、そもそも皆が注目する業界においての事業活動は、そのメリットとして「全体として伸びる可能性が高い」とはいえますが、一方で、デメリットとして「競争が激しい」わけです。
その逆に、長年注目を浴びていない業界でも、新たな「マーケティング手法」や「経営手法」によって、経済価値創造を行うチャンスが無いとは言えないわけです。
多くの人にとって、「ビジネスチャンスがそこにある」とは思われないような業界・・・たとえば板金工場だって、全国に散らばる彼らの工場を組織化することによって、テレビCFを打つまでに成長した例だってあります。
(今や、「板金工場」が有名タレントを使って、テレビ宣伝をしているわけですからね。)
つまり、サラリーマンの週末起業レベルであれば、
「どこが儲かるか」より、
「自分はどんな価値提供が出来るか?」を優先して考えるべきです。
儲かりそうな、騒がれている業界であればあるほど、「あなたより賢く、あなたより資金があり、あなたより働く人」が参入する可能性が高いことを忘れてはいけません。

投資活動における投資対象の発掘でも、同じようなことがいえます。
「成長分野」といわれる業界の企業の場合、話題に引っ張られた「企業価値に対する認識の無い方々」のおかげで、概ね「価値に対して相当に高い株価」が付いている場合が多いですし、これとは逆に、確実に経済価値創造を行っているが「話題に上らない」業界の企業は、概ね「価値に対して相当に安い株価」が付いている場合が多いわけです。
いずれの場合も、少なくとも長期では、価値に対して適切な価格水準に収まっていくわけですし、確実に経済価値創造を行っている企業の場合、時間経過と共に株主価値は増大するというわけです。

話がそれましたが、戻ります。

しかしながら、どんな質問をしようが、それは取材側の自由です。
同時に、その質問にどう答えようが、取材を受ける側の自由です。
僕は、このような質問自体の変更など要求せず、「質問に対して率直にお答えしました。」
「その質問、質問自体がおかしいね、なぜなら・・・」という具合に。
そのまま掲載されるかどうか・・・・(笑)

メディア(=中間伝達という本当の意味において)の存在意義は、取材対象の「まんま」を読者や視聴者に提供することだと思います。
「こんな感じの答えを、あいつあたりから言わせよう」というのであれば、取材などせず「自分の意見」として主張すればよいのです。
わざわざ取材費かけて、取材する必要なんて無いのですよ。

では、僕の正直な答えを書いて見ましょう・・・

◎2005年の独立・起業の状況と2006年のそれとで、明らかに違う
と予想されることはありますか。あるとすれば、どこで、その理由
を教えていただけますか。

「新しい年になる」
「時間が経過するから」

◎2006年、独立・起業をするにあたって狙うべき業界はありますか。

「すべての業界」

◎上で挙げていただいた業界を狙うために身につけるべきスキルは
ありますか。

「資本主義」の基礎を学ぶ。

◎逆に回避するべき業界はありますか。

「自分が理解できない業界」

◎どんなところにビジネスチャンスの鉱脈がありそうですか。

「自分の脳みその中」

◎ビジネスチャンスの鉱脈を見つけるコツはありますか。

「自分自身の能力を磨く」

◎2006年5月施行の「新会社法」は、独立・起業にどんなメリット
をもたらすと思われますか。

「制度に拘る連中は、制度にやれれる」

◎新社会法は、サラリーマンの副業に関してどんなメリットを
もたらすと思われますか。

「どんな価値を提供できるか判明していないのに、カタチばかりの起業が増える=後の廃業が増える」

この雑誌、すぐに答えを欲しがる読者が多いのでしょう。
そういう方は、そもそも起業に向いていません。
「儲かりそうな株ないかなぁ?」ってそこいらの人に聞いて回る人を、たとえカネを注いでいたとしても、「投資家」とは呼べないでしょう。

ともあれ、僕のような「ひねくれ者」による答えを読んでいただいたこの雑誌の読者の中には、少なからず、「自分で考えなきゃダメなんだな」と、全うな理解をされる方もいらっしゃることを期待してインタビューは終わりました。

「答えは、自分自身の中にある」これが答えですね。

僕みたいな奴にインタビューする側には、僕だってなりたくないよ(笑)
それにしても今回のインタビュアーは、しつこく、「そうは言っても、読者が求めているのはもっと具体的な・・・」と、僕に具体的な「儲かるリストアップ」を訴えていました。

「あなた本当に、あなたの雑誌の読者が求めていることがわかっていますか?」
と伝えるのを忘れていました(笑)

2005年10月6日 板倉雄一郎

PS:
「板倉事務所のセミナー受けると、儲かる株を教えてくれるかもしれない」
なぁ?んて思っている人は、当事務所のセミナーなど受講せず、どっかの「株式評論家」(←この言葉の意味が全然わかりません・・・だって企業価値評論であるべきでしょ(笑))の「ポジショントーク」たっぷりの記事でも読んでください。

一方、「自分のカネの投資判断ぐらい自分でやりたい!」と思う方は、是非当事務所のセミナーにいらしてください。
まずは、左フレーム「実践・企業価値評価シリーズ」のセミナー概要を御読みいただき、「よっしゃ、価格以上の価値なんだろうな!行ってやろうじゃないか!」と思われた方は、同じく、左フレームの「実践・企業価値評価シリーズ(個人)申込」から御申込ください。
よろしくです。





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