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Deep KISS 第26号「自由と自己責任」

経済やファイナンスに疎い一般大衆から、カネを巻き上げるのは、実は、いとも簡単なことです。
そんな商品が、今のこの国には、非常に多く存在します。

たとえば、「入院一日1万円保証・・・一生涯!」というコピーで、謡う保険商品。
デフレを脱却し、インフレ状態に入るであろう日本経済において、たとえば10年後の1万円で、10年後の時点で、一体何が買えるのか?
当然ながら、今の1万円ほどの交換価値は得られないでしょう。
しかし、今払う毎月5000円程度の支出は、明らかに現時点での5000円の交換価値があるわけです。
彼らは、それを運用することができます。
今の1万円と、将来の1万円に大きな違いがあることを承知している人が、以上を承知の上で契約するのであれば、何も問題ありませんが。
一体契約者の中で、どれほどが、認識しているでしょうか?
もちろん、売る側は、違法でもなければ、嘘を言っているわけでも無いですけど。

たとえば、「広くて且つ安いマンション」というコピーで、謡う住宅販売。
言うまでも無く、そこにはカラクリがあるわけです。
「所有=幸せ」と、何の根拠も無い「作られた幸せ」に踊らされた一般大衆は、
「なぜそんなに安く手に入るのか」という疑問を持つべきところを、「安い価格」によって忘れてしまったのでしょう。
異論反論を承知で書きますが、「自業自得」と思います。

「ありえない利回りの金融商品」に騙される人も、
「他より数十パーセント安く手に入るという住宅」に騙される人も、
どちらの場合も、要するに「カネに目が眩んだ結果、冷静な判断が出来なかった」のではないでしょうか?

石原東京都知事は、「国が責任を取るべき」と主張しているようですが、
こんなことを、政府が「尻拭い」したのでは、「小さな政府」は、いつまで経っても実現しません。
ちなみに、
「国が責任を取る=国民が責任を取る」
ということに他なりません。
石原都知事は、「大した額じゃないから」と発言していますが、額の大小が判断基準であってはならないと思います。

そもそも、
「大切な買い物や、大切な投資活動において、自己責任において、自ら調べ、自ら判断する」
という行為を行っている人の支払った「税」が、
カネに目が眩んで失敗した人のために注がれるとすれば、
「失敗しない買い物」のために努力している人が、そうで無い人の分を負担するということになってしまいます。
本当に、「国が責任を取るべき」というのなら、たとえば株式投資において、「粉飾決算」を見抜けなかった関係各所が、粉飾決算によって損をした投資家の分も、尻拭いすべきだとでも言うのでしょうか?

今、日本は、「小さな政府」、「自由と自己責任」という方向に舵を取っています。
それが我々の将来にとって良い結果になるか悪い結果になるかは、わかりません。
しかし、「自由と自己責任」と、「国の御墨付きと尻拭い」は、相反することです。

政府がやるべきことは、違法性のあることを調べ、摘発することでしょう。
もちろん、監督責任の追及を政府内部にも、当然向けるべきです。

少なくとも僕は、「自分だけが儲かればそれで良い」とは思いません。
なぜなら、以上のようなインチキ商品は、「貧富の差」を拡大するからです。
その結果、犯罪が増え(は、もう起こっています・・・犯罪はそれ自体異常ですが、さらに異常さは増していると思います)、金持ちの家でさえ、ガチガチのセキュリティーに対する投資が増え、自分の子供を地域から隔離するように、自動車で送り迎えする・・・
そんな社会が、金持ちの子供さえ、全うに育たないのではないでしょうか?

では、どうすればよいか・・・
国家は、行き当たりばったりの対策より、「国民の教育」に力を注ぐべきでしょう。
売る側にモラルを期待できないとしても、買う側の経済や取引に関する知識が高まれば、インチキ商品は、「今よりは」、淘汰されるはず、と僕は思います。

「んなこたぁ、無理だ!理想論に過ぎない」
という意見もあるでしょう。
しかし、「すぐに答えが出てしまうゲーム」になんか、僕は興味がありませんから。

「自由と自己責任」は、政策や法律によってではなく、
国民全体の意識改革によって、初めて実現すると思います。

2005年12月1日 板倉雄一郎

PS:
楽天とTBSに関するエッセイを、「なぜ書かないのか?」という意見を頂きます。
書かない理由は、簡単です。
ライブドアとフジのときに、たくさん書いたからです。
僕が、旬なニュースを取り上げるのは、ファイナンスや経済に関することを読者に伝える「ケーススタディー」としてです。
そのニュースそのものに大変な興味があるわけではありません。
(そもそも僕は、楽天やTBSの株主ではありませんし)
つまり、楽天とTBSのケースを利用して伝えるべきファイナンスや経済に関わることは、ライブドア騒動のときに、既に書いたことばかりというわけです。
読者の中には、「板倉と三木谷は関係があるから書かないのか?」などと疑念を持つ方もいらっしゃいますが、そんなことは、全くありません。
彼とは、彼が興銀を退社したとき、一緒にゴルフをした以外には、ちょっとした打ち合わせで楽天を1,2度訪問しただけです。
特別な経済的関係はありません。





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