結論から書きますが、真っ当な経営者は、
その経営者が認識するところの株主価値と、
株主価値に担保された時価総額の乖離を、嫌がるものです。
(言葉の定義に関してはDeepKISS第10号「言葉の定義」をご参照ください。)
株主価値に対して、株価が相当に低くければ、
敵対的買収のリスクが生じ、
株主価値に対して、株価が相当に高ければ、
後に株価が価値に対して均衡する「株価下落局面」で、
同社の株主に迷惑をかける恐れがあるからです。
(余談ですが、稀に、
「株価が動いても企業にとって損失にはなら無いだろう」などと言う、
全く持ってどうしようもない意見を言われる方が居ます。
そういう方は、企業という定義が良くわかっていないのです。
株主も含めて企業なのですから、
株価下落による株主の損失は、明らかに企業としての損失です。
ちなみに、
有利子負債コストの増大は、企業の会計上のキャッシュアウトとして現われ、
株主資本コストの増大は、時価総額の下落として現われます。)
経営者の最も重要な仕事は、
企業価値の最大化であって、企業価格の最大化ではありません。
よって、
短期の株価の動きに、経営者が目を奪われていたのでは話しになりません。
そんなことは当たり前なのですが、
では、株価はどうでもよいのかと言えば、そんなことはありません。
長期に渡って、株価が株主価値を大きく下回っている場合の対策は、
「自社株買い」を行うことです。
買い付ける対象が他社であれ自社であれ、「割安」を放っておくのはいけません。
現金を遊ばせて置くぐらいなら、自社株買いをするべきです。
一方、
長期に渡って、株価が株主価値を大きく上回っている場合の対策は、
何だと思いますか?
こ
こ
は
、
考
え
る
時
間
で
す
。
答えは、「配当」を行う、または、「アナウンスメント効果」です。
何度も書いていることですが、
「配当とは、株主が持っている株主価値の一部を、
現金というカタチで、株主自身が引き出す行為」
です。
つまり株主価値の取り崩しってことです。
よって、配当によって株価は下落します。
現在のように、全く逆の株価の動きは、あくまで短期的なことで、
配当によって株価が上昇するなどと言う、まったくもってトンチンカンな者が「世界で一番なんとかかんとか」とかいうインチキ本を出していたりする現状には、呆れてしまいます。
多くの読者に対する経済的責任を彼は一体どうやって取るのでしょうか?
オマケに配当には課税されるの。
話しがつい暴走しました、ごめんなさい(笑)
しかし、
「配当によって、実際に株主価値が下落してしまうから、
経営者の思う適正株価と、市場が付ける価格の差は埋まらないのではないか」
というご意見があります。
(↑ このご意見は結構鋭いです・・・実際にある読者から頂きました。)
この意見は、かなり正しいです。
僕もついうっかり間違えちゃいました!(ごめんちゃい)
その場合は、「アナウンスメント効果」があります。
たとえば、
「当社の株価は、不当に安く見積もられていない」などを発言し、
市場がそれを織り込むことを期待するということです。
以上の経営者の重要なオペレーションの根底を支えるのは、
経営者自身が自社の「株主価値」がどれほどであるかを、
明確に認識していて初めて実現することですよね。
株主価値を把握するための大きな要素は、
当該企業の投資家に帰属する将来キャッシュフローがどれほどであるか、
そして、
当該企業の加重平均資本コスト(WACC)がどれほどであるかを、
経営者がしっかり把握していることが条件です。
以上により、企業価値が把握され、
企業価値から有利子負債を差し引いた値が株主価値となります。
つまり、企業価値評価に対する知識と経験が必要だということです。
さて、あなたの投資先企業の経営者は、
自社の株主価値がどれほどであるかを把握しているでしょうか?
そして、それに対する対策をしっかりやっているでしょうか?
いやいやその前に、株主を明らかに毀損するMSCBなんて発行したりしていないですか?
いやいやそのもっと前に、そもそも粉飾などしていないでしょうか?
自分の大切なお金で手に入れる価値が何であるか、
ちゃんとわかるまで株式投資などするべきではありませんよ。
2006年2月22日 板倉雄一郎
PS:
明日、サーバー移転のためのアナウンスのみで、エッセイの更新が出来なくなるので、明日の分を早めにアップしました。
PS^2:
先ほど、「産経新聞」の経済部の取材を受けました。
掲載は、明日の朝刊だそうです。
この記者の方、御若い方でしたが、非常に良くお分かりの方でした。
でも安心・・・するのは、記事が出るまでお預け。
PS^3:
「東京新聞」の電話取材も受けました。
掲載はいつだか聞きそびれました。