板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第92号「オーソドックスか、奇抜か」

いい会社・・・。というか僕が(投資家として)好きな会社を「商品」と「経営手法」の2つの角度から考えて見ています。

※)注意・・・上記“2つに分けて”ではなく、“2つの角度”と書いているには、重要な訳があります。企業を「価値を生み出す人の集団としての仕組み」と捉えれば、上記の2つを個々別々に分析することは不可能で、あくまで上記“2つの角度”から、企業という仕組みについて考えるということです。

ここで言う「経営」とは、資金調達や投資循環などの資金調達から運用面および組織運営など、どのような企業でも必要なオペレーションのことを指します。

ここで言う「商品」とは、 R&D、マーケティング手法、そして提供される商品そのものことを指します。
  
詳しく書き始めると一冊の本になってしまうので、上記のそれぞれを、「奇抜な」または「革新的な」という形容と「オーソドックスな」という形容に強制2分して考えてみます。

TYPE A:奇妙な経営&オーソドックスな商品

これ、終わっています(笑)。

提供する商品が「コモディティー(=どこにでもある)」であることを「奇妙な経営」で補う事によって、投資家の興味を惹こうとするのは、間違っています。

なぜなら、「なんちゃって投資家」の興味は惹けても、そもそも商品が顧客の興味を惹くことができず、多くの場合「安売り競争」しか打つ手がなく、結果として「儲からない商売」になるからです。

いつか「なんちゃって投資家」もそれに気がつきます。

たとえて具体的な社名を挙げれば・・・止めときます(笑・・・だってこのサイトのエッセイを読んでいる読者にとっては、書かなくても容易にわかりますよね)

TYPE B:革新的な経営&革新的な商品

これ、ありえなくは無いです。

ただし、何を持って革新的な経営、とするのかは、書いている僕自身も良くわかりません。(笑)しかし、経営と商品どちらもが革新的であるということは、うまく行けば「すんごい会社」になりえますが、その分、リスクも大きくなります。

僕は、好きではありません。たとえて具体的な社名を挙げれば・・・これも止めておきます(笑)

TYPE C:オーソドックスな経営&オーソドックスな商品

これ、結構好きです。

このような企業に対する投資では、その投資利回りにおいても、将来業績予測においても、さほどリスクが無いからです。しかし同時にリターンもさほど大きくはなりません。リスクとリターンは表裏一体ですから仕方ありません。

但し、「何かのショックによる一時的な株価の下げ」をうまく利用することができれば、投資において「ローリスク&ハイリターン」を実現することができます。まさに、バフェット投資術の典型例です。

具体例は、バークシャーのポートフォリオが示すとおりです。「誰が経営にあたってもしっかり儲けられるビジネスモデル」というわけです。

TYPED:オーソドックスな経営&革新的な商品

これ、サイコーです。

というか、投資家としてこれ以上は無いでしょう。しかし、問題は「そんな企業はめったに上場していない」って事です。

たとえて具体的な社名を挙げれば・・・言わずもがな「Google」です。しつこいようですが、めったに存在しない、その上、めったに「他人に所有権を明け渡さない=上場しない」というわけです。

残念。。。

バフェット氏は、上記の通り「誰が経営しても儲かる企業」を好みます。

彼は確かに素晴らしい投資家であり、経営者だと思います。

しかし、彼の生きた時代と、我々がこれから生きてゆく時代には、様々な「違い」があります。彼の投資手法から多くを学ぶことは出来ますが、その投資手法を理解し、実践したところで、彼と同様の実績は得られないでしょう。
(そもそも、彼の投資手法を理解している人が、一体どれほど居るかという疑問もあります・・・彼の投資手法を分析した書物の多くは、トンチンカンな内容です)

彼自身が「ケータイの会社に投資すればよかった」などと発言しているように、時代の進歩に彼はついて行けない部分があります。
(その分なのかどうかはわかりませんが、ビルゲイツが同社の役員になっています)

Googleという企業を簡単に表現すれば、

『ネットインフラの中にGoogleという企業が溶け込んでいる』

という印象を感じます。彼らが発表する商品やサービスは、一見「革新的」ではありますが、どこか無理がなく、とても自然な感じがします。

未来の広告代理店の要素もありますし、
(↑ いわゆるネット広告代理店の場合、単に「扱うメディアをネット専属にした」だけの話ですから、新しさのかけらもなければ、ネットに溶け込んでもいません。ネットを利用して、既存の広告代理店ビジネスモデルを続けようというだけですから、ビジネスモデルを変えなければいずれ無くなるでしょう)

未来の決済機関(=金融機関やVISAなど)の要素もありますし、
(↑ 「金融機関」も、ネットの捉え方を改めないといけません)

未来のショッピングモールの要素もあります。
(↑ 「サーバーレンタル&ポータル&決済」という既存の要素を「タダくっつけただけ」のネットデパートも、近い将来、見る影も無くなるでしょう)

しかし、Googleの場合、これらが「別々のメニュー」になっているのではなく、これらが、渾然一体に提供されている=ネットに溶け込んでいる、革新的ではあるが、極めて無理の無い自然なビジネスモデル。そんな企業です。

僕が今、最も興味のある企業の一つです。

参考エッセイ:KISS 第13号「ネットとは」

結論は、経営をするにしても、投資をするにしても、「オーソドックスな経営」は、必要最低限の条件であるということです。

派手な経営、革新的な経営、そんな企業を見つけたら要注意です。
ほら、思い当たる「有名」企業、あるでしょ(笑)

何を隠そう、僕が経営に失敗したハイパーネットこそ『奇抜な経営&革新的な商品』でしたから。

2006年7月6日 板倉雄一郎





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