板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第27-c号「空売り」

ある企業の株価が、今後短期的に(=一般投資家の場合、6ヶ月以内に)、下落することを見越し、キャピタルゲインを得るための手法として、「空売り」があります。

たとえば、株価が1000円のとき、1000株の「空売り」を実施し、その後時間経過と共に、目論見どおり株価が800円まで値下がりした時点で、1000株を買い戻し(=反対売買)、1000株*200円のゲインを得ることができるというわけです。
(もちろん、1000株を誰かから借りてくるわけですから、取引手数料とは別に、賃借料が発生します。)

「空売り」・・・この言葉、誰が和訳したのか知りませんが、おそらく経済的取引について「あまりよくお分かりで無い人」が和訳した言葉であろうと、僕は思います。
(英語では、「Short Selling」・・・一般的に「ショート」と表現します。)
当時(っていつだか知りませんが、かなり昔)の日本人「専門家(笑)」は、そもそも株式について、市場原理について、良くわかっていない人が多かったわけですから、まあ仕方ありません・・・大体、現在でも「株式評論家」などという、馬鹿なタイトルを持っている「専門家」が居るわけですからね(笑)、「企業評論家」なり、「市場評論家」なら、まだわかりますけれど。

しかし、いわゆる「空売り」とは、全然「空」売りではありません。

「空売り」しようと投資家が判断した時点で、この投資家が当該企業の株式を保有していない状態「だけ」を見て、「空売り」と表現したのでしょう。
しかし、現実には、「持っていないモノ」を売ることはできません。
(ただし、「みずほ証券」を除く(笑))

「空売り」とされている取引の実際は、売りをかける瞬間に、当該企業の株式を保有している第三者から、証券会社などを通じて株式を「借り受け」、その借りた株を市場で売却するわけです。
よって、全然「空」売りではないわけです。
その証拠に、いわゆる「空売り」をした場合、借りた分の株式を市場で買い戻し、借りた株を返すまでの間、借りた株に対する「賃借料」をしっかり支払わなければならないですから。

売ろうとする株が、自己資本で保有している株であろうが、誰からから借りてきたものであろうが、「実際に手元にある株式」を売ることになるわけです。
よって、「空売り」という表現は、そもそも取引の実態を全く表現できていないということになります。

僕は、いわゆる「空売り」を、「空売り」ではなく、「借り売り」と表現すべきだと思います。


と、以上のように、僕は思っていました。
しかし、本当は、違うようです(笑)
だって、みずほ証券は、自ら持ってもいなく、かつ、「この世に存在しない株式」を売却することができたわけですからね。

この事件から得られる考察で、「最も重要なこと」は、
「証券会社は、この世に無いモノを、市場で売却することが出来る」という事実です。
それがミスであろうが、何であろうが、事実です。

みずほ証券が、
「どれだけ損失を出したか」とか、
「ミスを防ぐシステムが必要だ」とかも、確かに議論する価値はあります。
しかし、最も重要なことは、以上のような「可能性」について議論することではないでしょうか?
僕が普段の生活で接したどこのメディアでも、あまり議論されていませんが。

2005年12月11日 板倉雄一郎

PS:
僕、思います。
このミスを、しでかしちゃった人・・・書籍の執筆など、「カミングアウト」して欲しいです。
今回の事件は、彼が悪いのではないと思います。
むしろ、「現場レポート」を世に公表することに、非常に高い価値を感じます。
僕が、「社長失格」で、失敗のカミングアウトをしたように。





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