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Deep KISS 第32号「国家財政(金利と国債価格)」

サンデープロジェクトを、チラッと観た。
森永卓郎氏が、結構まともな指摘をしていた。

「インフレによって金利が上昇すれば、国債価格は大幅に下落する(中略)、
そうなれば、国債を大量に保有する郵貯がとてつもない損失を出す。
郵貯を民営化したいのは、民間にその損失を押し付ける財務省の戦略だ。」
(↑ 文言は正確に表現できている保証はありません)

僕は、森永氏の意見に、ほぼ100%同意です。
というより、このブログのエッセイで、何度も書いていることです。

ところが、この発言、猪瀬氏あたりに消しこまれてしまった。
猪瀬氏も、「無駄な支出を削る」という意味では、がんばっていると思うが、だからといって経済、特にマクロ経済について理解しているとは、到底思えない。
マクロ経済に対する理解がなくても、無駄な支出を抑えることは、出来るわけですから。

しかし、経済は、常にループ系です。
一つのオペレーションが、様々なところへ影響を及ぼすわけです。

以上のことは、同時に「変動金利型国債」でもなければ、個人向け国債の保有者も、「相当な経済的損失」を被ることになるということです。

また、以上は、「国にカネを貸す」という立場での話しですが、「変動金利の住宅ローン」を長期で組んだ人も、また同様に、将来「金利支払が増加」します。
(↑ 「おりおば」にも書いてあります。)

たとえば、
表面利率(=金利)1.5%(満期まで固定)
額面100万円
10年満期国債
を例に挙げましょう。

表面金利と、市場金利が一致していれば、この国債は、満期までの間、いつ取引されても、その価格は100万円です。
しかし、仮に市場金利が3%まで上昇したら、この国債の価格はいくらになるでしょうか?
およそ87万円にまで、下落します。
(表現を変えると、国債価格が下落することによって、長期金利が上昇するともいえます。)
もし、仮に市場金利が5%(←長期ではありえない数字ではありません)になったとしたら、73万円にまで、率にして30%ほどの「経済価値」が、国債の保有者から失われるのです。
(↑ 当事務所のオープンセミナー受講生の方には、金利と価格の計算方法もちゃんとわかりますよね。)

また、「郵貯は国債価格がどうなろうが、満期まで保有するから損は出ない」という意見を言う方もいらっしゃいますが、この場合、郵便貯金金利(=郵貯の資本コスト)も上昇し、結果、運用側利回りより資本調達コストの方が大きく(=スプレッドマイナス)なり、明らかに郵貯は損失を出します。
さらに、個人の場合も、インフレ率が個人向け国債の利率以上になれば、満期まで保有することにより、名目上の金利を受け取れても、実質の経済損失が発生します。

こんなの当たり前なんです。
ケレド、誰も、言いたがらないのです。
僕は、「国債を買ってはいけない」と、主張しているわけではなく、
「金利と債券価格の相対的関係」を説明しているだけです(笑)
その上で、住宅ローンも、国債購入も、考えていただきたいと思うわけです。

「史上最低の金利の状態は、金利が将来上昇すると言うことと同義です。
このような状態では、
(長期の)カネを借りるなら固定金利、
(長期の)カネを貸すなら変動金利、が有利なのです。」

利率固定の国債の場合、市場金利がどうなろうが、政府の金利負担は同じです。
むしろ、インフレによって貨幣価値が下がれば、政府の金利「実質負担」は減少します。
その分、国債保有者が損をすることになるのです。

これとは、逆に、変動金利で住宅ローンを組んだ人は、市場金利の上昇と共に、金利負担が増すのです。
その分、融資をした金融機関は、得をするのです。

「固定利率の国債を大量に保有し、かつ変動金利の住宅ローンを抱えている人」
なんて人が、居るかどうか知りませんが、間違いなく「おばかさん」ですね。

経済的取引とは、カネの貸し借りであれ、モノやサービスの売り買いであれ、企業買収であれ、なんであれ、
「誰かと誰かの価値と価格の交換」なのです。
この取引のとき、経済についての理解の無い者から、理解のあるものへ、いとも簡単に、かつ、それとは気が付かせぬまま、経済価値が移転するのです。

新規の国債発行額は30兆円未満に押えられたそうだが、これは「国債費」全部が抑えられたのではありません。
国債費とは、既発国債の、「利払い」、および「満期の分の借り換え費」も含みます。
これは、相当な額になります。
政府保有財産の民間への売却なども必要でしょう。
しかし、それら(政府保有の不動産や株式)を売却するということは、それらの市場への供給が増大し、それらの市場価格が、相当に下落する要素を十分に含んでいることも、同時に考慮しなければなりません。

週明けは、本年の様々な出来事に関して、僕なりの総括を書いてみようと思います。
結局は、経済の問題ばかりということが、お分かりになると思いますし、
その根底には、
「多くの国民の経済に関する教養の低さ」、そして、
「それに胡坐をかいて儲けている、または楽している一部の連中」という姿が透けて見えてくるはずです。

2005年12月25日 板倉雄一郎





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