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Deep KISS 第55号「公害(外部経済)」

このところの株式価格上昇について、デイトレード指南役は、
「典型的な上昇トレンド」などと表現する。
その実、単なる「過剰流動性」による、(投資家側の)資本レバレッジが生み出した虚像に過ぎないことは、彼らテクニカル分析者には、理解できないのだろう。
事実、直接面識のあるデイトレ指南役が、ファイナンスについて、企業について、経済について、驚くほど無知であることに、驚かされたことがある。
価格変動については語るが、それを担保する価値について、一言も聞いたことがが無いことが、それを如実に物語っている。

この方に以前、「ナッシュ均衡」ついて教えたことがある。
ジョンナッシュは、アダムスミスの古典的な経済学を全面否定し、「個人とそのグループの便益を同時に考えることが経済発展になる」と主張し、ノーベル賞を受賞した。
彼の論文によって、反トラスト法などが生まれたのは有名な事実である。
それに対して、上記の方は、「私のグループは宇宙だから」と言っていた。
立派な「発言」である。
しかし、宇宙全体が自分のグループだと主張する人間が、「ババ抜きゼロサムゲーム」の仕方を教え、富を肥やすことは、少なくとも僕の脳では理解できない。

ライフドアから資本を受けた、グループ内のある企業の代表者は、この期に及んで「堀江君を死ぬまで応援する」とのたまっているらしい。
そういえばこの方は、僕の講演の聴衆で、講演後にこう言っていた・・・
「彼(=堀江君)は、コミュニケーションが下手なだけですから」
ほんとにそれだけの人間が、自社の株主を毀損しながら、虚像を積み上げるのか。
個人の価値観は、その個人の勝手ではあるが、価値観の前に「事実認識」が果たして出来ているのだろうか?

いずれの場合も、自ら信じて行動した過去を否定するのは、至難の業である。
だから、彼ら(彼女ら)の気持ちがわからないわけでもない。
しかし、自己防衛のために、結果的に多くの「自らの信者」を毀損することに、もう少し配慮できてもよいだろう。

「外部経済」をご存知だろうか、いわゆる公害のことである。
つまり、「良かれ」と思ってやっていることでも、気が付かぬところで、誰かを毀損している可能性があると言うことです。
世界の誰をも全く毀損しないことなどありえないと思いますが、それに想いを馳せることが大切だと言うことです。

ある証券会社のトップは、自ら生み出した「公害」について理解していた。
そして、今のビジネスモデルを大転換すると、僕の目の前で言っていた。
僕は彼の言葉を信じたい。

短期トレードをリスクを承知で実施する個人は、まだいい。
それを指導することによって、富を得、その金で買うのは、高級マンションやメルセデス。
それが幸せなのか。
彼らは、流動性を市場に提供しているというイイワケに溺れている。
価値に対して激しく乖離した価格での流動性など、本来必要無い。
短期の利益は常にゼロサムでしかない。

今、彼らは、真剣に自らの存在意義を捜し求め、
彼らの過去の正当性を訴えている。
そんなエネルギーがあるなら、自らの行いについて熟考してみてはいかがだろうか。

ライブドアの活動に対し、
「たかが証券取引法じゃないか、特捜が出てくるのは変だ」とか、
「大企業だって、粉飾ぐらいしているだろう」とか、
そんな意見もちらほらある。
確かにファイナンスに精通していなければ、
「誰の金が、どんな手段で、どんな方々の下に、どれほど移転したのか」・・・
これがなかなかわからないのは・・・ん?仕方が無い。
しかし、その資金は、きっと将来にわたって、我々が好まざる社会に対する影響として跳ね返ってくるであろうことだけは、お断りしておく。
そもそも、
「交通事故で年間1万人も死んでいるのだから、
戦争の死者なんてたいしたことは無い」
という意見には、何の価値も無い。

どんな事象にも、社会にとってプラスの面とマイナスの面がある。
プラスの面だけ探し出せば、確かに何かあるだろう。
大切なことは、その総和がプラスになっているかどうかであって、プラス面だけが見える立場の人間が、それをことさら主張しても意味が無い。
なぜなら、その立場からしか現象を捉えられなかったことが、そもそもの原因だからだ。

ある書籍の「帯」に対する推薦文を頼まれた。
適当な理由で断った。
その理由は、著者が以前、「堀江君のやり方もありだと思うんですよ」とのたまっていたことを思い出したからだ。
この発言を聞いたときは、この本の「初版」に、僕が推薦分を寄せてしまった後だった。
自分の行いを今は恥じている。
だからせめて、増刷以降の推薦文はお断りしたというわけだ。

僕自身、多くのマイナスを社会にもたらし生きてきた。
しかし今の僕は、僕自身の次の行いが、
本当に社会に対してプラスになるのか?
マイナス面を過小評価していないか?
を慎重に考えるようになった。
それでも、思いの及ばないところで、なんらかしらのマイナスを社会にもたらすのだろう。
その都度、反省し、考えを改め続けなければならない。
プラス・マイナスを判断する基準は、すべて自分の心の中にある。
その基準の精度を高めるためには、自分自身を検証する知識を磨き、それを実施し続ける勇気が必要だ。

公害の原因は創りたくない。
将来の自分を、がっかりさせたくないからだ。

2006年2月8日 板倉雄一郎

PS:
「Adam Smith said the best outcome for the group comes from everyone trying to do what's best for himself.
Incorrect.
The best outcome results from everyone trying to do what's best for himself and the group.」
by John Nash
(↑、意味がわからない方は、ジョンナッシュの生涯を描いた映画「ビューティフルマインド」をご覧ください。)

ちなみに、「外部経済」は、「ナッシュ均衡」に内包された理論です。





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