板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第57号「永続性と企業価値」

「企業は株主のものだ!」
という、商法を鵜呑みにした企業と経営について全く理解の無い者の発言は、流石に現在では、多くの方にとって疑問が残る言葉になったでしょう。

しつこいようですが、企業とは、
1、 その利害関係者の集合体であり、
2、 利害関係者から必要な経営資源を調達し、
3、 調達した経営資源を加工しながら経済価値を創造し、
4、 創造された経済価値を利害関係者に再配分する「仕組み」
です。

これまたしつこいようですが、企業価値とは、
1、 その利害関係者によって異なる価値を有し、
2、 一般的に言われる「企業価値」とは投資家(=株主+債権者)から観た場合の経済価値であり、
3、 その経済価値は、企業の単独期の業績から評価されるのではなく、企業の永続性を元に、投資家に帰属する将来のキャッシュフローの割引現在価値であり、
4、 よって、永続性を前提にしなければ、あらゆる企業の企業価値は説明不能、
です。

ここで、利害関係者(=顧客、従業員、取引先、債権者、国や公共団体、株主)の中から、「なぜそれが企業価値の一部なの?」という疑問が出てきそうな「顧客」について、企業の永続性に対する関わりについて書いてみたいと思います。

顧客と企業との間でも、いつも書いているように、「価値と価格の交換」が行われます。
顧客は、商品を受け取る代わりに、価格を支払います。
この行為は、当該企業の他の利害関係者のように、「永続性」がさほど無い関係のように思われます。
いわゆる「イチゲン客」がわかりやすい例です。
しかし、企業価値を評価するとき、その因数の一つである「売上高」は当然重要になり、その売上高を企業に提供するのは、顧客ですから、企業の永続性を担保する上で顧客の存在は極めて重要です。

たとえば・・・
アマゾン・ドット・コムというネット上の本屋さんを例に考えて見ましょう。
アマゾンのビジネスモデルは、間違ってもITではありません。
彼らは、本という在庫を豊富に抱え、顧客からの注文に応じ(多くの場合)24時間以内に商品を発送し、顧客の手元に届けるという「店舗&流通業」です。
顧客との窓口に「ネット」を利用しているに過ぎません。
事実、彼らの事業用投下資本の大部分は、「ロジスティックス」と「在庫」に向けられています。
顧客にとって、アマゾンを利用する便益は、
1、 本をいくつかのキーワードから検索できる。
2、 検索結果から、おおよその内容と価格を調べることが出来る。
3、 注文はワンクリック(=アマゾンの特許)で完了し、
4、 数日後には、指定場所に配送される。
という利便性です。
(米国では、再販制度が無いので、本の価格そのものも魅力の一つです。)

このとき、同社のマーケティングサイドにおいて、最も重要なことは・・・
「本を買うなら、アマゾン!」という「記憶、または、癖」を、ネット利用者に植え付けることです。
多くのネット利用者の記憶の中に、それを植えつけること、これが市場占有率を確保する上で極めて重要です。
事実、過去のアマゾンの経営戦略からは、「当期利益より企業価値の増大」が見て取れます。
莫大な「広告宣伝費」を使うことにより、「当期利益」は縮小(または赤字)になるが、将来の市場占有率は上昇し、結果として企業価値は最大化する、という戦略です。
つまり、「現在の価格を支払うことにより、将来キャッシュフローの増大という価値を手に入れる」という企業内部での投資行為によって、価値創造を行ってきたわけです。
また、同社の株主も、以上の経営戦略に信頼を置き、賛同していました。
経営者がまともなことを主張していれば、まともな株主が集まってくるものなのです。

売上高を予測する上で、その因数も、手法も分析者によって様々です。
しかし、既存商品(=アマゾンの場合は本)の販売を事業としていて、その既存商品と「全く同等の価値のモノを、他の手法でも手に入れることが出来る」場合、市場占有率はきわめて重要な因数となります。
なぜなら、
当該企業の将来の売上高=市場規模*市場占有率
だからです。
既存商品の市場規模がある程度安定(=本)している場合、なおさら当該企業の市場占有率は重要というわけです。
このとき、顧客の脳にある「本を買うならアマゾン!」という記憶は、アマゾンの企業価値に大きく影響を与えていることがお分かりになると思います。

つまり、継続的に取引を行う顧客の存在は、当該企業の投資家から観た企業価値を測る上で非常に重要であり、よって、顧客も企業価値の一部である、ということがお分かりいただけると思います。
顧客の継続的取引のために、他の当該企業の利害関係者も努力するというわけですね。

ちなみに、「ハーレーダビッドソン」というオートバイメーカーの顧客は、その9割がバイクの乗り換え時、再び同社の製品を選ぶそうです。
いわゆるブランドロイヤルティーが非常に高いということです。
同社の企業価値を支えているのは、ブランドロイヤルティーの高い顧客であり、顧客が高いブランドロイヤルティーを持つのは、その商品の価値が非常に高いということでもあります。

つまり、企業の永続性ほど、企業価値に大きなインパクトを与える因数は他に無いということです。

「企業は株主のものだ」by 体(てい)の良い総会屋。
「企業は単独期の業績で評価される」by あるオンライン証券会社トップ。
「配当をしないから株価が上昇しない」by 同上。
(このトップは呆れたことに、小中学生向けの金融教育などを行っています。可愛そうな子供たち。)
書き出したらキリがありませんが、以上のような発言を発する者は、たとえそれが経済学者であっても、「分かっていない人」です。
僕が、全人格を懸けて断言します。
そんな者の言葉を絶対に信じてはいけません。

今、我々地球人は、「永続性」という壁と戦っています。
環境問題・・・これは地球環境の永続性に関する問題です。
食糧問題・・・いわずもがな。
資源の奪い合い・・・いわずもがな。
個人の場合でも・・・
病気や怪我・・・途端に永続性が失われるから嫌ですよね。
高利の借金・・・回帰的に考えれば、破綻は間違いありません。
価格変動を追いかける投機活動・・・常に博打です。
これらも書き出したらキリがありません。

以上から、如何に「継続性、永続性」が重要であるかお分かりいただけるでしょう。

投資とは、現在の何かを差し出す代わりに、将来の何かを受け取るという行為です。
そこに永続性が担保されていなければ、誰も投資など行わないのです。
価格変動を追いかける連中にとっては、違うかもしれませんが。

2006年2月13日 板倉雄一郎

PS:
ライブドア?・・・そんなもの「事実上のねずみ講」をやり始めた時点で、回帰的に考えて永続性はなかったわけです。
彼らの犯罪行為は、その終焉を多少先延ばししたに過ぎません。
元々「価値と価格」の比較の出来ない経営者の元に、「価値と価格」がわからない投資家もどき、そして経済オンチの政治屋などが集まっただけの話ですからね。

PS^2:
今週も、
取材協力(有力雑誌や新聞など)、
メディアのコンサルティング(児童向け漫画雑誌の新企画=経済モノの監修)、
企業のコンサルティング(あるファンドの中国関連物件)
雑誌の対談(「VOICE」の来月号用)、
などなど忙しいですが、楽しんでまいります!
そういえば、「おりおばを子供に読ませたいから、絵本版を作れ!」というリクエストをたくさん頂きます。
そのうち創ります。

皆様におかれましても、この一週間を楽しい時間に仕立て上げてください。

楽しいことでなければ、良い結果を残すことも、継続することも不可能ですから。

PS^3:
板倉雄一郎事務所の場合の継続性・・・
実は、当事務所は、冗談ではなく、継続性に関する重大な問題を抱えています。
マーケットサイドではなく、サプライサイドの問題です。
毎回、会場の制約もあり、再受講希望者のすべてを受け入れることが既に出来なくなっています。
かといって、大きな会場にすれば、それだけ伝える密度が下がってしまいます。
そして、僕をはじめとするパートナーの時間的制約もあります。
かといって、哲学の無い表面的な講義をする「適当に仕立て上げた者」を、大切な時間と価格を支払って受講される方々の前に出すわけにも行きません。
したがって、継続性はあるが、需要に最適にこたえることが出来ないわけです。
その点、どうかご理解くださいませ。

ちらほら、当事務所のセミナーの「表面をまねた」セミナーが始まっているようです。
中には、当事務所のセミナー受講生が、完全コピーをやろうとしている例もあります。
(しかも、半額ぐらいで(笑))
本当にしっかりした理解の下、セミナーをやっていただけるのであれば、全然問題ありません。
なぜなら、我々は、可能な限り多くの方々へ全うな経済的知識をお伝えするということ、を目的にしているからです。
しかし、中途半端な理解で、表面をまねているようでは、全うな知識は伝えられないでしょう。
この点、セミナー主宰者にも、読者にも、アドバイスしておきます。
インチキを教えていたのでは、永続性は得られません。
永続性が得られなければ、いつまで経っても、社会に対する価値提供は愚か、ネズミのような作業を続けるしかありませんよ。





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