板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第69号「ウォーレンバフェットの投資術」

バフェットの投資手法を、バークシャーハサウェイの過去のレポートから、ファイナンス的に深く分析すると以下のような結論が得られます。

1、信頼でき、人として尊敬できる経営者の経営する企業にしか投資しない。
2、よって、投資対象を監視はするが、いちいち経営に口を出さない。(=経営にいちいち口を出すような投資は、そもそもそんな経営者を選んだ時点で、投資として失敗。)
3、株式投資とは、つまるところ、「人」に対する投資であると強く認識している。
4、価値と価格の裁定より、時間経過による価値創造に着目している。
5、しかし、裁定余地をも得るために、投資タイミングは「年単位」で待つ。
6、企業への投資原資は、「ジャンクボンド」の運用によって得ている。
7、市場が「ジャンク」と認識しても、彼自身が「そうでは無い」と思う対象に投資することによって、ローリスクハイリターンを実現している。(ジャンクボンドは、市場が認識するリスクが高く、よって金利が高い)
8、投資対象企業間の「相互取引」が極めて少ない企業を厳選している。(たとえば、ウォルトディズニーとP&Gは、大口取引が相互間で発生しません。もちろんディズニーランドがP&Gの洗剤を使うことぐらいはあるでしょうけれど。)
9、よって、バークシャーの連結業績において、「内部取引・・・未達成利益」が極力生まれないようにしている。
10、投資対象のスクリーニングのために、年次報告書(=有価証券報告書)をしつこく読み込んで、投資対象を理解しようと勤めている。彼は、投資対象に感じるリスクが極めて小さいときにのみ、投資を実施している。
11、バークシャーの価値と価格の乖離を、価格面でも調整している。(たとえば、バークシャーの株価が、彼の思うところより相当に安くなれば、「自社株買い」を積極的に利用している。
12、きりがないので、この辺にしておきましょう。

で、重要なことは、「彼を信頼する株主を集めている」と言う点です。
当然ながら、結果としてバークシャーの株主資本コストは低減され、バークシャーの企業価値は最大化されます。

そして、最も重要なことは・・・

「彼は自社の株主の視点で、自社の経営を行っている」

という点です。
なぜなら、彼自身の個人資産(およそ5兆円!)のほとんどが、バークシャーハザウェイの株式だからです。

以上のエッセイで訴えたいことは、「経営者の資質」を見抜いたり、「信頼できる経営者であるかどうか」を見抜いたりする上で、非常に重要なことは、「経営者の資産に占める、当該企業の株式の割合」ということになります。

勉強のために他社への投資をしているなら、合理性があります。
しかし、経営者とは本来、自らが経営する企業に対する「リスク認識」が、他のどの企業より低いはずであり、且つ、予定利回りも他のどの企業よりも高いはずであり、よって自らの資金を「他社」に投資する合理性は無いはずです。

僕の知り合いの上場企業経営者に、「デイトレードが趣味」という馬鹿者が居ます。
(いったいいつトレードしているんだか(笑)
こんな経営者は、平気でMSCBなどを発行「しよう」としたりしています(笑)
投機家としての株主の視点しか持っていないからですね。
巻き添えにならないようにしたいものです。

株式投資は、つまるところ「人」への投資なのです。
経営者に、大切な資産を「運用していただく」という方法なのです。

投資家にとって、ファイナンスの知識とは、つまるところ投資対象の「経営手腕」を把握するための知識に過ぎないのです。
しかし、その知識なくして、「なんとなく」経営者を判断するのでは、リスクたっぷりです。

経営者にとって、ファイナンスの知識とは、つまるところ「運転免許」です。
無免許運転の自動車には、顧客としても、従業員としても、取引先としても、債権者としても、株主としても、乗らないようにしたいものです。

2006年3月29日 板倉雄一郎





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