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Deep KISS 第91号「自分勝手自社株買い」

年に数回、口座も無いのに郵便局に行く機会がありますよね。
今もそんな季節です。

配当を受け取るたび、「さてこの金どうするか?」と考えます。

余剰資金を「目をつけた数少ない企業への投資」としている以上、考えるまでもなく、結果的に、配当で得た資金によって、配当した企業に対する「再投資」をしていることになります。
(↑投資額に対して、わずか数%ではありますが)

つまり、そもそも株主としての自分が当該企業内部に保有する現金を配当という形で取り出し(←希望しているわけではありませんが)その金で、同社の株式を他の株主から買う・・・。

これって、本質的に「自社株買い」と同じ効果があります。
自分の保有分に限定された「自分勝手自社株買い」です(笑)

しかし!

このオペレーションには、重大な問題があります。

「税」の存在です。

当該企業が、「一株当たり株主価値 > 株価」の場合、
自社株買い(=自己株取得)をすれば、「税金」を納める必要が無いのに、「配当」を受け取ることで、当然ながら配当に対して課税されることになります。

よって、「自分勝手自社株買い」は、極めて非効率です。

「一株あたり株主価値 < 株価」(=つまり割高)の状態で自社株買いをしろとは言いません。というか、するべきではありません。

「一株当たり株主価値 > 株価」(=つまり割安)の状態なら配当などせず、自社株買いを行っていただきたいと思います。

またバフェット話になりますが、バークシャー・ハサウェイは、1967年にたった一度だけ一株あたり10セントを配当したのを最後に、それ以降全く配当を行っていません。

配当を行うより、新規投資対象への再投資や、自社株が割安の状態での自社株買いに対して、資金を活用するからです。
(ちなみに、度重なる自社株買いによって、バークシャーのバフェット持分は増加していました。)

結果、同社の株主は、「課税される配当」より、「利益確定まで課税されない株主価値上昇」というリターンを得られるわけです。

極めて合理的なオペレーションです。
(もちろん、今後再投資対象が無くなり、且つ、自社株が「割安」の状態でなければ、配当も行うでしょう。)

バフェット氏自身も発言しています。
「税が無いのなら、配当も悪くないでしょう」と。

配当が「馬鹿げたことだ」と書いているわけではありません。

再投資対象が見つからず、企業内部での複利効果が得られる見通しがない場合、(↑成熟期以降の企業)「大幅な割安状態」で無い限り、配当も合理的です。

しかし、以上の条件が満たされないまま、ここ最近の日本企業は、「配当ラッシュ」です。

なぜなら、
「わかっていない株主」が「配当よこせ!」と詰め寄り、
「わかっていないメディア」が「配当が増えた」と喜び、
「わかっていない経営者」が実際に「配当」するからです。

しつこいようですが、
再投資対象がなく、且つ、割安の状態なら、自社株買いすべきです。
同社の資本調達コストを上回る再投資対象がある場合、
配当も自社株買いもせず、再投資によって株主価値を高めるべきです。
再投資対象がなく、且つ、フェアバリュー以上の株価なら、
配当も悪くは無いと思います。

ちなみに、「株主優待」とは、
そもそも株主自身が企業内部に保有する「在庫」を、
販売することでキャッシュフローに転換できる機会を損失して、
株主がモノやサービスのカタチで受け取るという、
「極めて馬鹿馬鹿しいオペレーション」です。

その商品やサービスが欲しければ、
フツーに顧客として買えばいいのです。

株主優待で投資対象を決めるのだとすれば、
「株主優待など特に行っていない企業」を選ぶのが合理的です。

参考エッセイ:

 Deep KISS 第18号「配当と企業価値」
 KISS 第108号「配当と時価総額」
 KISS 第39号「配当と株主価値」
 KISS 第11号「御めでたい経営者」

2006年7月4日 板倉雄一郎

PS:
そういえば、先日、「卵焼き製造販売上場企業」に投資していたある知人宅に、「株主優待」と称して「卵焼きセット」が送られてきたそうです(笑)
その知人は、「自分は卵焼きが好きでは無いので、送り返した」ということでした。

この企業、どこからどうみても「大幅な割安」です。
是非とも、自社株買いによって、フリーキャッシュフローの株主への還元を行っていただきたいと思います。

僕は、この馬鹿馬鹿しい「株主優待」の話を聞き、目をつけていたこの企業への投資を断念しました。

断っておきますが、「卵焼きが嫌い」なのではなく、「馬鹿馬鹿しいオペレーションをする経営者が嫌い」なのです。

PS^2:
経営者と株主は、それこそ「鶏と卵」です。

どちらか一方が、「わかっていない」と、非合理的な経営が行われます。
いくら自分がわかっていたとしても、「わかっていない方々」の中に紛れ込んでしまえば、巻き添えになります。

PS^3:
で、郵便局に行って来たわけですが、ひどいですね、あの接客オペレーション。
詳しく書きませんが、ひたすら無駄があります。
人件費の無駄使いです。
「民営化」による意識改革は、おそらく発生しないでしょう。
彼らは、「自らの身の保全」が興味のすべてですからね。
ホント、呆れてしまいます。
もう、「公務員ではない」と言うのに・・・・・・・・

こんなことでは、
「金利上昇による郵便局の資産の目減り(=保有国債の価値下落)」に、
絶えることは出来ないでしょう。
だからこそ、政府は、「切り離し」をしたのでしょうけれど。
以上の危機に、郵便局員が気がつくのは、
郵便局が終わる時を待たなくてはならないでしょう。





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