板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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Deep KISS 第50号「需要と供給」

経済学の分野では、「需要が供給を生み出す」という考えもあれば、「いや違う、供給が需要を創るのだ」という考えもあります。
(将来予測を本来の目的としているにも関わらず、未来予測の精度が非常に低い現在の経済学には、僕はほとんど興味がありませんので、詳しくは知りません。)

しかし、僕に言わせれば上記のどちらも不完全で部分的な解釈です。

結論を先に書いてしまえば、需要と供給は、同じことの別な側面であり、相互に影響しあうループ現象に過ぎないのです。

現在の僕自身の活動(=供給)と、その需要の関係について時系列で考えてみます。

たとえばライブドアショックによって、このWEBの訪問者数は飛躍的に増加しました。また、メディアへの露出を求められています。さらに、セミナーの需要が増大しました。この現象を、「ライブドアショックが大衆の情報需要発生のきっかけ」とし、その結果、ライブドアショックに関する主張(=供給)を僕が増やした、と解釈することも出来ます。

しかしながら、以前からライブドアのインチキ手法について、僕が主張し続けていたこと(=供給)が、読者や視聴者の僕の主張に対する需要を発生させた、と解釈することも出来ます。

事実、僕がもし「後付」でライブドアのインチキを、その違法性が発覚してから主張を始めたとするならば、現在のような「板倉の主張の妥当性」は認められなかったはずです。

つまり、需要があるから供給があり、供給があるから需要が生まれるのです。

需要と供給の関係は、まさに「鶏と卵」の関係というわけです。 需要があるから供給を始めるという考えは、すなわち、「社会の御用聞き」を認めることですが、そもそも社会の需要は、常に潜在的なことであり、供給によって需要が目覚めると解釈することも出来るわけです。

需要と供給のどちらが先かなどという議論は、そのループ現象を認識できない愚かな議論といわざるを得ません。以上から、未来予測とは、その観測者が社会から完全に独立している場合に限って有効なのであって、観測者(と思い込んでいる者)の未来の社会に対する影響を無視した不完全な方法です。量子力学を持ち出すまでもなく、観測者の言動は、たとえそれが、小額の株式投資であれ、単なる個人の消費であれ、メディアでの発言力が無い場合の主張であれ、個人がなんとなく「なんかおかしいな」と心の中で思うだけであれ、いずれの場合も、少なくとも未来に影響を与えるというわけです。

僕は、「占い」を軽蔑しています。増して、「ライブドアの株価は今の5倍になる!」などと安易に発言する「(自称)占い師」は、人々の心に、人々の夢を利用して入り込み、その裏にあるリスクを忘れさせ、同時に人々の未来の可能性を毀損していると思います。しかしながら、メディアが「占い師」を採用する理由が、「視聴者が求めているから」という点に着目すれば、「占い師」をはやし立てているのは、やはり視聴者である、ともいえるわけです。

投資活動を続け、企業価値評価について深い理解を得れば、「経営者による企業内部での再投資の意思決定が、
当該企業の経済価値創造に大きな影響を及ぼす」ということが理解できますし、
また、「その経営者の意思決定は、当該企業の株主の意向を反映したものである。」
ということも理解できるはずです。

また、企業価値評価における重大な因数である「株主資本コスト」の算出においても、市場が付ける(ミスターマーケットが付ける)価格変動は、企業価値に影響を与え、その上で得られた企業価値は、市場に影響を与えます。
(ただし、投資家としての成功を得るためには、SMU第103号「資本コストと割引率」で提案しているように「自分勝手割引率(=自分勝手株主資本コスト)」の採用が、そのリターンに対しリスクを軽減できることをお断りしておきます。)

さらに話を進めれば・・・企業とは、その利害関係者から、経営資源を集め、価値を創造し、創造された価値を利害関係者に還元配分する「仕組み」に過ぎず、「モノ」ではないこともお分かりいただけると思います。参考エッセイ:KISS第19号「パートナーシップ」 言うまでもなく、「企業は株主のものだ!」という主張は、企業について全く理解していない者の愚かな発言です。

企業や法人などという「人格」はこの世に存在せず、企業の利害関係者(=顧客、取引先、従業員、債権者、株主、そして社会)とは、すなわち企業の一部であることも、お分かりいただけると思います。

株主から観れば、当該企業の他の利害関係者が企業であり、同時に、株主自身も企業の一部なのです。従業員から観れば、株主を含めた他の利害関係者が企業であり、また同時に、従業員も企業の一部なのです。

企業におけるそれぞれの利害関係者の意向は、他の利害関係者の意思決定に影響を与え、与えられ、というループ現象こそが企業の活動の正体なのです。

つまり、企業に限らず社会とは、我々一人一人が、全体の中の一部分であり、全ては相互に強く依存し、影響し合い、時間軸の中で未来が形成されるということなのです。政治家と有権者、メディアと視聴者、経営者と株主、妻と夫、彼女と彼、親と子供、教師と生徒、これらは、しつこいようですが、相互に影響しあう「鶏と卵」の関係にあります。

「未来は予測するものではなく、
    我々の日々の言動によって創りだされるもの」

なのです。需要と供給の相互作用によって未来が生み出されるのです。 「一人が動き出さなくて、全体は動き出さない」のです。 自分自身の考えを、自身の経験や知識に照らし合わせ、慎重に吟味した上で「自分を信じた行動」を起こすことによって、未来を創造する者・・・それを僕は、アントレプレナーと称しています。すべての人が、アントレプレナーであれ!僕は、そう願っています。 危機を敏感に感じ取り、危機に対し効果的な対策を提案し行動できる人間、それがアントレプレナーです。危機を煽るのは、占い師と同じです。

2006年1月31日 板倉雄一郎

PS:
予告した「おめでたい経営者(第2弾)」は、執筆が大変なので、次回以降にいたします。ごめんなさい。KISS第11号「おめでたい経営者」で勘弁してください(笑)

PS^2:
2月開催「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーは、あと数席と成りました。期限前ではありますが、今週中には満員御礼締め切りとさせていただきます。

PS^3:
ヒューザーの小嶋社長が、多方面に対して損害賠償訴訟を起こすらしい。
それで良いと思う。僕は、彼が良い人だと主張するつもりもなければ、彼を擁護するつもりも無い。

しかし、実際に彼らの純資産がほとんど無いとするならば、この方法でしかインチキマンション購入者が資金を回収する方法は無いだろう。しかし、マンション購入者へのインタビューをTV画面で見る限り、「今まで何もしてくれなかったから、期待することは出来ない。(ここまでは良いが、)だから、ヒューザーの破産と清算を迫る。」というのは、何の意味も無い。

いくら破産に追い込んだところで、無い袖は振れない。インチキマンション購入者の悲劇は、同じようなマンションに比べ30%も安い価格に飛びついたところから始まったわけだ。その上、全く意味の無い「ヒューザーの破産」を迫るとは・・・ドンドン自分の首を自分でで絞めているばかりだ。「悪者」をとっつかまえて、ひっぱたけば、自らの損失が戻ってくるとでも思っているのだろうか?経済や法律について、知らな過ぎることが、彼らの悲劇の根源です。
参考エッセイ:
DeepKISS第24号「商流と責任」
自分の身は、自分の知識と判断力によって守るしかないのです。小泉自民党を選んだと言うことは、そういうことなのです。




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